セリ、本編に帰るってよ。
そろそろ本編<黒の章>開始と、セリ本編復帰のお知らせ的な番外編です。
「嘘だろ? もうリリーパスに戻んのかよ」
部屋で荷造りをしているセリの姿を見つけて、ボルターが部屋に入ってきた。
「ちょっと! 当然のように私の部屋に入って来ないでよ」
しかし制止するセリを無視して、ボルターはズカズカとセリの部屋に入ってくる。
「休暇はまだあんだろ? なに帰ろうとしてんだよ。俺はまだお前のオムライス食ってねえのに」
「……オムライスは今夜用意しとくから。それなら文句ないでしょ」
「ないわけねえだろ! 俺は煮込みハンバーグもまだ食ってねえし、パリパリチキンソテーも食ってねえし、他にも……」
「全部今日作ってくから!
それなら文句ないでしょ!」
「大アリだ! そんなにたくさん一度に食えるか!
なんで急にリリーパスに戻るなんて言うんだよ……あ! お前まさか……! 男ができたんだな!? あいつか!? あの色の白い男か!?
やめとけ! お前とクールキャラと色白がかぶってんだろ! たしかに最近のお前は全然クールじゃなくなってる感はあるけどな、似たものカップルは長続きしねえんだって! やめとけ!」
「あーもう! うるさいなあ! レミケイドはそういうのじゃないってば!」
「あ! 分かった! じゃあ自分だけ本編に戻る気だろ! また俺たちを蚊帳の外にする気だな!?」
「『ホンペン』? どこよそれ?」
「お前が本編に戻っちまったら、またイントロンが過疎っちまうだろうが!」
「ホンペンとかイントロンとか、知らない地名連発しないでよ! どこよそれ!? 聞いたことないけど!?」
「うるせー! それを説明するといろいろややこしくなるんだよ! んなことより、ここを出ていく理由をちゃんと説明しろ!」
「そんなのあの気持ち悪いムキムキパンツのせいに決まってんでしょーがぁ!」
セリが一段と声を張り上げた。ボルターも負けないボリュームで言い返す。
「カンダタさんをパンツ呼ばわりすんじゃねえっ!」
「パンツ以外の何者でもないでしょーがあっ!!」
「お前はカンダタさんの何を見てるんだ!
あの美しい肉体を見て何も感じないのか!? お前の感性どうなってんだ!? あの美しい肉体を目にしてお前の心は! ソウルは! パッションは! 俺はお前をそんな子に育てた覚えはぬあぁぁぁぁあいっ!」
「っうるっさあぁぁぁあいっ! 感じる感情は100%嫌悪感オンリーに決まってんでしょーがぁぁあっ!
あんたの感性のほうがどう考えたっておかしいんじゃあぁぁぁぁあっ!」
お互いに叫びすぎて息が切れた。
セリとボルターは呼吸を整えるため、一時休戦となる。
「だいたい……あの人……なんかさり気なく私の視界に入ってきて、あの気持ち悪いポーズとかしてくるの、なんなの一体……本気で気持ち悪いんだけど……」
「お前がリアクションしてやんねえからだろ。
ちゃんと言ってやれよ。『胸がケツだよ!』とか『巨乳!』とか。お前に反応してほしくてウズウズしてんだよ、察してやれよ」
「言うわけないでしょっ!! いい加減にしてよ!
あんなのがウロウロしてる町なんて、リリーパス以上に油断できなくて、休暇にならないに決まってんでしょーが!」
「……どうしても、帰んのか?」
「くつろげないから帰る。休暇の意味がなさすぎるし。正直リリーパスにいるときより緊張するし。
あの人がいなくなったら改めて休暇取り直すから。あのパンツが出てったら手紙で教えて。ていうかちゃんと追い出してよね」
うんざりした顔で睨むセリを見つめ、ボルターは眉を寄せた。
「……休暇じゃなくてもいいから、たまには帰って来いよ?」
「無理に決まってるでしょ。馬と船の両方使って片道2日かかるんだよ。しかも無断外泊禁止なんだってば」
「ルールは破ってなんぼだろ? 気にすんなって。寂しくなったらいつでも俺がお前の心の隙間を埋めてやるよ……」
キメ声キメ顏を発動したボルターを、セリは完全無視する。視線すら向けない。
「だーかーら! 規則違反の減給と罰則が容赦ないんだってば。
ディマーズはエヌセッズとはノリが全然違うの!」
「……休暇なんか関係なく、お前が帰ってきたいタイミングでいつでも帰って来いよ?」
「だから人の話聞いてる? さっきから言ってるけどディマーズは……」
「ここはお前の家なんだから。好きなときに帰って来い」
真剣な顔のボルターに、セリは思わずうろたえた。
「……む……難しいんだってば……減給と罰則がすごくて」
「別にそんなのたいしたことじゃねえだろ。
ここはお前の家なんだから。いつだって好きなときに戻って来い。分かったな?」
念を押すようにボルターが繰り返す。その圧力に思わずセリはたじろいだ。
「……ボ……ボルター……?」
――――コンコン。
来客のようだ。
珍しく真面目な雰囲気のボルターに、どうリアクションしていいか分からなくなったセリは、逃げるように来客の対応に向かった。
「はーい、どちらさ……」
ドアを開けたセリは固まった。
玄関の扉を開けたとたん、躍動する筋肉と危険なパンツが目に入ったからだ。
変態筋肉マンがさっそく美しいポージングを披露しようとした瞬間――。
「家まで来るとは消されたいのか貴様――――っ!!」
セリが腰の斧を瞬時に抜き、光の速さで斬りかかるのを止めたのはボルターだ。
「お前――っ! いきなりお客様に斬りかかるやつがあるか――っ! 落ち着け! なんだその口調は! どこのキャラからもらってきた!?
カンダタさんっ! ここは俺に任せて逃げてくださいっ」
しかしカンダタさんは、お構いなしにポージングを続行中だ。
「離せっ! あいつ殺るっ! もうこうなったら始末するっ! 離せぇぇぇぇっ!」
「落ち着けセリ! お前のレベルじゃカンダタさんに敵うわけねえだろ!」
完全に我を失って暴れるセリを、ボルターはひとまず絞め落とした。
そのまま気を失ったセリを部屋まで引きずり、ベッドに寝かせる。
カンダタさんとしばしの筋肉トークを楽しんだボルターは、家での雑用を片付けた。
(さて、そろそろセリが起きるころかな?)
頃合いを見計らって、ボルターがセリの部屋をのぞくと、――――セリの姿はもうなかった。
机の上には置き手紙が一枚――。
『あれがいるうちは、もう絶対にここには帰ってきません。早く追っ払ってください。さようなら』
「……あのバカ。挨拶もなしに出ていきやがって……! 次に帰ってきたら説教してやる……!」
ボルターはセリの置き手紙を握り潰したのだった。




