生徒会という免罪符
高校3年春。大和たちは生徒会役員として共に歩み始めた。
最初の集まりで年間スケジュールと各自の担当業務を確認したが、2年目の大和以外は細かい作業内容が分からない。そのため、その都度大和が説明する形になった。
全てが手書きの時代。全ての作業を書き出してマニュアル化することは現実的ではなく、自然と大和頼りになっていく……。
大和「この間の会議の議事録、できた?」
美園「出来てるよ……」
大和「ちょっと確認させて……。ん〜〜、前半はいらないかな。カットな」
美園「え〜、最初から言ってよ!」
大和「議事起こさなきゃ判らないだろ?」
美園「何時間もかけて録音テープから文字に起こしたのに……」
大和「悪かった……今度、ケーキでも奢るから」
美園「本当だからね!」
毎日遅くまで打ち合わせをしていると、帰りは何となくカップルになって歩くようになった。美園は別の男子と歩き、大和の隣には沙耶がいた。
沙耶は少しうつむき加減で、恥ずかしそうに歩いていた。たまに大和を見上げては、またすぐにうつむいてしまう。大和は、そんな沙耶の仕草を可愛いなと思っていた。
そんな沙耶は大和の隣で、ひそかに思いを巡らせていた。
『な、なんか、大和とカップル的になったんだけど、私で良いの? 大和は美園が好きなんじゃないの? 美園も良いの? 私、大和の事、もっと好きになっちゃうよ?』
大和が美園たちと同じ生徒会役員になってからの毎日は、夜遅くまで会議や雑談が続き、気づけばメンバー全員で真っ暗な夜道を歩いて帰るのが当たり前になっていた。
そんな密度の濃い日々の中で、大和と美園たちの親交は、生徒会室の外でも深まっていった。
例えば、大和が教室で体操服に着替えているとき、廊下から覗いてキャーキャー喜ぶ美園がいたり、強風でめくれた美園のスカートからパンツが目の前に飛び込んできたり。
大和が発熱し学校を欠席したときなどは、午後に学校の公衆電話から美園が何度も自宅に電話をかけてきて、「あれはどうする?」「こっちはいつまで?」と急かすものだから、全然休まらなかった。気づけば、美園の声を聞かない日はなくなっていた。
生徒会の打ち合わせは、まだまだ学生なこともあって頻繁に脱線した。それは男女関係なく下ネタになることも多く、高校の男子たる大和たちは早々に耳年増になっていった。
ある日、美園がとんでもないことを言い出した。
「ねえ、男の人のアレって浴槽で沈むの?」
大和たちは顔を見合わせ、
「そういえば、意識したことないよな」
「沈むのか?」
「いや、浮くんじゃね?」
などとハッキリしない答えを口にした。
「んじゃさ、確認してきてよ!」
美園にそう言われ、大和は帰宅して風呂に入ると、早速自分の『ア・ソ・コ』を観察した。
(あ、浮くんだ……)
翌日、大和は美園に報告したあと聞いてみた。
「ところでさ。浮いたと分かって何かあるのか?」
「ないよ。お風呂に入ると、胸が水面に浮いてくるのが気になっただけだよ」
「え、う、浮くの!? 知らなかった!」
思わず大和たち男子の目線が美園の胸へと移る。
「もう、どこ見てんのよ! 今日はこれまとめないと帰れないよ!」
美園に叱られながら会議は進む。この頃になると、実質的に生徒会を仕切っているのは美園だった。
季節は巡り、夏が終わり、秋の虫の声が聞こえる頃。
携帯のない時代。遅くなる子供を心配する親たちのなかでも、沙耶の父親だけは違った。
ある日の帰り道、みんなで夜道を歩いていると、一台の車が大和たちの傍らに滑り込んできた。
「あっ……」
沙耶が小さく声を上げる。車の窓から、お父さんが鬼の形相でこちらを睨みつけていた。
「沙耶、早く乗りなさい」
沙耶はみんなに、いや、大和に向けて申し訳なさそうに何度も謝りながら、寂しそうな顔で車に乗り込んだ。沙耶を乗せた車は、あっという間に夜の闇へと小さくなっていった。
残された大和たちは、小さくなるテールランプをただ見送るしかなかった。残り少ない学生生活の終わりが、少しずつ近づいているのを予感しながら……。




