第3話 英雄の仕事
教会の協力者から、エルドリックの行動予定が届いていた。
どこに行くか。
何時に動くか。
警備の人数。
滞在場所。
細かく書かれていた。
協力者が誰なのかは知らなかった。
知る必要もなかった。
それを元に、僕はエルドリックの後を追った。
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最初に向かったのは孤児院だった。
戦争で親を失った子どもたちが暮らしている施設だった。
人間の子どもも、魔族の子どもも、同じ建物に入っていた。
エルドリックは子どもたちの前で膝をついた。
目線を合わせるために。
民衆に見せるための演技だ、と僕は思った。
英雄が孤児を気にかける姿を見せることで、支持を集める。
教会で、そういう手口は習っていた。
エルドリックは子どもたちに何かを話した。
声は小さくて聞こえなかった。
魔族の小さな子どもが、エルドリックの袖を掴んだ。
エルドリックは払いのけなかった。
そのまま子どもの頭に手を置いた。
「偽善者め」
そっと呟いた。
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午後、エルドリックは傷ついた兵士の元を訪れた。
片腕を失った若い兵士だった。
ベッドに横になったまま、天井を見ていた。
見舞客があれば、英雄らしい言葉をかけるだろうと思った。
励ます。
鼓舞する。
それが民衆の心を掴む。
違った。
エルドリックは椅子を引いて、兵士の隣に座った。
そして、ただ聞いていた。
兵士が話した。
戦場のこと。
仲間のこと。
もう剣が持てないこと。
家族に何と言えばいいか分からないこと。
エルドリックは頷いた。
時折、短く言葉を返した。
でも基本は、ただ聞いていた。
周りに民衆はいなかった。
見せる相手がいなかった。
一時間が経った頃、兵士は泣いていた。
エルドリックは何も言わずに立ち上がって、兵士の肩に手を置いた。
それだけで部屋を出た。
廊下に出たエルドリックの顔を、僕は見た。
疲れていた。
ここまで日常的に演技できるのか。
そう思った。
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夜、礼拝堂の近くを通ったとき、扉が少し開いていた。
中に人影があった。
エルドリックだった。
誰もいない礼拝堂の隅で、膝をついていた。
祈っていた。
声は小さかったが、静かな空間に染み込むように届いた。
「どうか、私が憎まれることで憎しみが減るなら、それでいい。私が殺されることで和平が進むなら、それでも構わない」
僕は扉の外で、立ち止まった。
意味が分からなかった。
偽善者は一人で祈る必要がない。
見せる相手がいなければ、偽善は成立しない。
ではこれは何なのか。
答えが出なかった。
僕はそっと扉から離れた。
頭の中が、珍しく静かだった。
何かを考えようとしても、言葉が出てこなかった。
でも、関係ない。
僕は歩き出した。
考えることが仕事ではない。
殺すことが仕事だ。
動機も信念も、今の僕には必要ない。
エルドリックが何者であろうと、何を祈っていようと、いずれ死ぬ。
僕が殺す。
それだけのことだ。
アウレリウスが命じた。
家族を守るために従う。
それだけでいい。




