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彼の愛が重すぎる  作者: 只野優子
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出会い

ただただハイスペックな夫に愛される女性のお話。

〜58年前〜


『手間賃取るよ』

『分かった。悪いけど頼む!』


私は山内優子22歳の会社員。商業高校を卒業しそこそこ有名な食品メーカーの管理部門で事務の仕事をしている。

年次の大きな仕事を納めた私は連日残業続きで寝不足。心身ともに疲れ癒す為に有給休暇を取っていた。その日はお昼近くまで寝ていたが、お腹が空いて来てそろそろ起きようと思ったところで家の電話が鳴った。

てっきり勧誘電話だろうと思い放置したが鳴り止まない。仕方なく重い体を起こし電話に出ると相手は兄だった。兄の声から焦っているのが分かった。まだ覚醒していない頭で、何をしでかしたのか考えていると、兄は兄の部屋の机を見て欲しいと言う。


「あ…会社の封筒ね…あるよ。中? 見ていいの? ちょい待ち… うん図面が1、2…10枚入ってる」


それは兄が先日お持ち帰りした仕事の図面だった。どうやら今日の商談で急遽必要になったらしい。まさか必要になると思っていなかった兄は、持っていくのを忘れた様だ。

電話口の兄は今日の商談が初めてで、資料が無い事に狼狽えていた。そこにたまたま有給休暇で家に居た私を思い出し家に鬼電した訳だ。


兄は工業高校卒だが優秀で大手メーカーの設計部門に配属され、高学歴の同僚と仕事をしている。そして今回兄の設計が採用され、エンジニアとして商談に加わる事になったそうだ。そんな大切な商談に資料が無いなんて最悪だ。

そこで救世主となった私がその資料を商談場所であるホテルまで届ける事になった。


元々今日は昼までゆっくり寝て、昼から愛用しているデパコスを買いに行くつもりだった。目当ての百貨店と商談のホテルは同じ駅前だから丁度いい。


『兄から駄賃をたんまり貰い散財するぞ』


そう思いながら普段着ないスーツをタンスから出し着替え出す。窮屈なスーツに着替えメイクをし、念の為早めに家を出た。


『待ち合わせ場所は外資系の一流ホテル。そんな場所に普段着では目立つし、もしかしたら兄ちゃんの同僚と会うかもしれないから、スーツなら無難でしょう』


そう思いながら電車に乗り込んだ。当時はスマートホンなど無く、移動のお供は文庫本か携帯の音楽プレーヤー。平日の昼間は電車は混んでおらず、座ることができたので座って本を読む。

こうしてホテルの最寄駅に着き約束場所に向かう。

時計を見ると約束時間の20分前。乗り換えが良くて早く着いてしまった。他で時間を潰すには微妙で、そのままホテルのロビーへ。ロビーに着くが早くてやはり兄は着いていない。入口が見える端に立ち兄を待っていた。そして少しすると…


『?』


視線を感じその先に目を遣ると、ライトグレーのスーツ姿の白人の男性が。遠目ながら美形なのが分かる。人は美しいモノを見ると少し気分が上がるもので、自分で口角が上がった事に気付く。少し得した気になっていたら、その男性がこちら?に向かって歩いてくる。ドキッとしたが自分な訳ないと思って視線を外すと…


「他の皆さんは後でお越しですか?」

「へ?」


流暢な日本語で話しかけられ、顔を上げると先ほどの男前が目の前にいた。意味がわからず口を開けて間抜けな顔をしていると、男前は名刺を取り出し差し出した。私は完全に停止し固まる。微笑んだ男前は私の手に名刺を置いた。でもまだ停止中の私に男前は


「よろしければ名刺をいただいても?」


そう言われてやっと頭が動き出した私は、名刺は持ってない事と人違いだと伝えると彼は


「不二テックの方ですよね」


そう言い私が持っている封筒を指差した。それは兄が商談で使う資料が入っている封筒だ。その封筒には兄の会社の社名が印刷されており、それを見て今日の商談相手だと思った様だ。

どう説明するか必死に考えていたら、男前の背後に兄が見え泣きそうになる。


やっと来た兄と上司が男前に挨拶し名刺交換を始める。そして上司と男前が話をしている隙に、兄は私に駆け寄り状況を確認した。私は困惑しつつ兄に簡単に事情を説明し資料を渡し、兄の上司に会釈して足早に立ち去った。


『あっ焦った。スーツで変に誤解を生んでしまったわ。それにしてもあの男前モデルみたいに綺麗な人だったなぁ… あんな男前に会う事なんて、この先ないだろう』


そんな事を考えてながら役割を終えた私は、足取り軽く百貨店に向かった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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