ティアモ
カミーユの左手を引き千切ったのは、白銀の狼。威嚇するように唸り声を上げたそれが、作り出されたモノだと理解できたマーガレットは「あ」と呟く。あの時見たオフェリアと、同じ存在だと気が付いたのだ。
無くなった左手を、一瞬で再生させたカミーユはわざとらしく「ああ、びっくりした」と言った。
気が付けば、エクレールによってティアは遠く離れた場所にいた。引きはがされたかと思いつつも、別に1人で問題ない。戦えることは、最後の切り札として隠しておきたかったが、仕方がないかと、再生した左手を狼に向かって突き出す。集まった青白い光を放つ複数の刃が、狼へと飛んでいった。狼は地面を蹴り、もの凄いスピードでカミーユの攻撃を避けていくが、刃は次々と作り出され、狼の身体をかすめていく。
「飲み込め!」
地を叩く音と共に狼は姿を変えて刃ごと、カミーユを飲み込むと、「爆ぜろ!」という声に従い、爆発した。
「うわぁ……凄い……」
ポカンと見ているだけのマーガレットの後頭部を、いつの間にか傍まで来ていたダリアが叩く。
「ふぎゅっ!」
「何、ぼーっとしてんだ。見てないで、手伝え」
「ダリア⁉ ねえ、ティアモお姉ちゃんが操られてる!」
「知ってるよ。だから、手伝えって言ってんだ。ったく、メヌエットがおまえのこと探し回ってたぞ。シスターカトリーヌが激怒してるって」
「ヒッ!」
忘れてたと、ガタガタと震えだしたマーガレットの背中を押す。
「メヌエットには、こっちで預かるっていってあるから、大丈夫だろ。ほら、行くぞ。ティアモを助けるんだ」
「――――うん!」
ここに来たのはエスメラルダと、遅れて来たダリアのみで、他のヴァルキュリア達は街で暴れているファタモルガナと戦っていた。
「狙うのはあの頭についてるヘッドギアとかいうやつだ。あれを壊せば、解放される」
「りょーかいっ!」
短機関銃を構えたマーガレットは、ヘッドギアを狙って銃を連射する。ダリアはエクレールに声をかけてから剣を鞘から抜いた。
『大丈夫?』
「ああ。責任もって預かるよ。大切な友人なんだ。――――絶対に救ってみせる」
――――たとえ、消えてしまっても。
ダリアの覚悟に、エクレールは攻撃の手を止めて、エスメラルダの元へと戻った。紫の光の攻撃が止み、カミーユの元へ行こうとしたティアだったが、今度はマーガレットの攻撃に阻まれる。防護壁を張り、弾丸を全て防ぐが、反対側から近づいたダリアが上から弧を描くように剣を振るい、防護壁を破壊しながらヘッドギアを掠めていった。
「チッ! やっぱ、簡単には壊せないか」
掠めた時に感じた違和感。それは、ヘッドギアが簡単に壊れないようにするための、透明なバリアのようなもの。ダリアは、そのことをマーガレットに伝えた。そこに、闇の矢が2人に向かって飛んできたが、マーガレットが短機関銃で全て撃ち落とす。
「退いて」
魔力が集まり、剣に変わると、ゆらゆら揺らめいた。その数に、2人は絶句する。ティアが手を前に突き出すと、剣は2人に向かって飛んできた。この数は、捌ききれない。万事休すと思われたが、ダリアの契約武器が魔力に反応して、白い光を放つ。突然のことに驚くものの、いけると判断したダリアは、剣を振るった。白い光刃が広がり、向かってくる剣を切り刻みながら飛んでいくと、バリアごと、ティアのヘッドギアの一部を破壊した。
「ぐっ⁉」
よろめいたティアを守ろうとした闇精霊だったが、何故かその動きが鈍くなっていた。
「ティアモお姉ちゃん!」
マーガレットの呼びかけに、ティアは動きを止めた。
「――――ティアモお姉ちゃん……?」
「マーガレット!」
「うん!」
狙うのは、ヘッドギアの壊れている部分。迷いなく、引き金を引いた。その弾丸は、ヘッドギアを破壊し、ティアを解き放つ。
「ティアモお姉ちゃん!」
マーガレットは駆け出した。解き放たれたティアはゆっくりと地へ倒れていく。カミーユの支配から解き放たれても、融合化が進んでしまったティアの髪や瞳の色は元には戻らない。それどころか、段々と力が弱まっていた。
「しっかりして!」
「……懐かしい声が聞こえる……」
私の事を「ティア」ではなく、「ティアモ」と呼ぶのは、マーガレットとダリアだけだった。……帰りたい……あの時に。あの場所に……。ああ、精霊が泣いてる……。
自分の中の闇精霊が謝りながら泣いていた。ずっと傍にいた闇精霊の存在は薄れていき、何も感じなくなってしまう。それと共に、身体が崩れ出した。
「なんで⁉」
ティアの身体はゆっくりと崩れていく。ダリアは怒りと悲しみでぐちゃぐちゃになりそうな自分を必死に抑えながら、泣き出したマーガレットの肩に手を置いた。ダリアは知っていた。ヘッドギアを壊せば、ティアは解放される――――だけど、それは彼女の死を意味するということを、マーガレットに教えなかった。知れば、迷いが生まれてしまうから。
「ダリア、ティアモお姉ちゃんが……!」
ダリアは、首を横に振った。カミーユの実験で色々な薬を使われたことで、消えかかっていた「ティアモ」を、闇精霊が融合することで守っていたのだが、ヘッドギアが破壊されると、その反動で闇精霊が消滅するように設定されていた。
「……ああ、でも……これで終わる……私は、やっと……解放され……」
最後まで、目が合うことはなく、崩れ去ったティアの身体は、空へとゆっくりと消えていったのだった――――。




