変わり果てたドール
マザーとの再会を果たした頃、ジャクリーヌから煙が上がっていた。戦闘が起こっている音に交じって、悲鳴が聞こえる。クローン体が街を襲撃したのだ。負傷した門番と、逃げ遅れた人々の救出を自警団たちが行い、ソレイユが率いる第3騎士団がクローン達を侵攻させまいと戦っているが苦戦していた。その理由はクローン体の硬さで、魔力を刃に乗せなければ、刃が通らないのだ。
クローンの攻撃を避けたソレイユは、その背中から飛び出している精霊石を、炎を纏った剣で斬り裂いた。核を壊されたクローンは、サラサラと崩れていく。
「随分と、かわいくない人形ですね」
剣を振るうと、火の粉が舞う。
「聞いていた話と、だいぶ違うようですが……」
身体から飛び出した精霊石に、刃と化した両手。もはや、人ではなくなっている。
「急所が外に飛び出しているというのもよく分かりませんね」
「倒せないって自信があるからか、捨て駒かのどっちかでしょ?」
飛んできた炎の矢が、クローン達の精霊石を貫き燃やす。
「……あなたは、城で待機でしたよね? ウェンディ」
ポニーテールの女性が、屋根の上に立っていた。彼女は、第2騎士団の隊長であり、魔法に関しては彼女がトップである。
「城は大丈夫よ。こいつらの目的はミスティって子みたい。そっちはヴァルキュリアが対応してるし、こっちが苦戦してるみたいだったから、援護しに来たの。ソレイユの部隊って魔法苦手でしょ?」
使えないわけではない。使えるが、ソレイユのように刃に魔法をかけて使うことが苦手なのだ。
「それに、精霊が助けてって、叫んでる」
そうですか、とソレイユはクローン達を見た。言葉を発することはないクローンは、与えられた任務を遂行するだけ。そのために、自分が消えてしまっても構わない――――いや、そもそも自我など存在しない。ミスティをカミーユの元へ連れて行く。邪魔されたら殺せ。それしかインプットされていない戦闘型ドール。
鋭い風が吹き、クローンを斬る。ウェンディの魔法で、優勢に展開となった騎士団は、程なくして、クローン達をすべて倒すことに成功したのだった。
部下達に、街の状況確認と、自警団と連携を取るように命じて、ソレイユはウェンディと共に宮殿へ向かう。そちらもすでに戦闘は終了していて、襲ってきたクローンについて話し合っている最中だった。
「ったく、予想通りの展開だな」
「タウのスペアだけでした……。これから、他のクローンがまとめてくるかもしれません」
ソレイユは舌打ちをした。早急に、自分の部下達の魔法強化をしなければならない。
「わたしの部隊が街に出る方がいいかな?」
「だとしても、何かあった時のために、魔法強化は必須でしょう」
「――――次も、そうとは限らんぞ。クローンを使って、他の実験を行い仕掛けて来る可能性がある。例えば、悪魔を使うとかな」
モニカの発言に、2人は顔を見合わせた。悪魔となれば、完全に専門外となってしまうため、聖女教会に任せるしかない。だが、この街にいるシスターの数は少ない。対応しきれるのか不安が残る。
「……ねえ、マスター。このクローン達、随分と遠回りして来たみたい」
クローン達がジャクリーヌに向かったのは、悪魔を召喚する前。それなのに、ナエマが悪魔に気が付いてから、かなりの時間が経過している。
クローン達を見て、エクレールは空間移動できる事に気が付いていた。だからこそ、何故、到着するのに時間がかかったのだろうか。
「空間移動がうまくいかなかったってことか。精霊石の改良の仕方に問題があったんじゃない?」
こんないじり方すれば、おかしくなるでしょ。と、ため息交じりで言うエスメラルダだが、正直なところ、今回はそのおかげで助かったかもしれないと感じていた。混乱せずに対応できたからこそ、この程度の被害で済んだのだ。
「精霊石から溢れる力が暴走していました。恐らく、改良したことが原因で、空間移動をしようとした時に不具合が起こったのではないかと。カミーユという人は我田引水な考えをお持ちですね。いずれ、身を滅ぼしかねません」
「その時には全部道連れにしそうだな。ったく、次に何が起こるか、考えただけでゾッとすんだけど」
「同感よ。自警団だって、対応に限界があるわ。魔法使えない子だっているし……」
モニカがその事なら考えがあると口にした。
「魔法道具を使えば、魔法が使えない者でも問題は無い。ソレイユの部隊もそれで対応できる。悪魔も、ヴァルキュリアと聖女教会で対応できる。恐らく、悪魔がクローンを操ったとしても、クローンにダメージを与えることは出来るだろう。問題は、それ以外――――イレギュラー対応をどうするかじゃ」
何せ、カミーユの考えは理解できない。好奇心の赴くまま、我田引水、自分に都合が良いように行動しているのだ。今回は何とかなったが、次がどうなるかわからない。
「……やれやれ、ゆっくり考えることも出来ないな」
武器が反応している。ファタモルガナの出現合図だ。ヴァルキュリア達は休む間もなく、走りだしたのだった。




