それが、仕事だから
マザーからの手紙を届けたナエマは、次の仕事をするために移動していた。向かう先は、ニキータが作ったシェルター。フィレールに頼まれて夜来香に会いに来ていた。街から少し離れた森の中に出て歩いていると、人影が見えた。
「――――お待ちしておりました」
シェルターに近づいた時点で、ナエマの気配に気が付いていたコレッタが、頭を下げる。
「ご案内します」
どうぞ、こちらへ。と、歩き出したコレッタについていくと、森の中を歩いていたはずが、急に墓地へと景色が変わった。
「なるほど、こういう仕掛けをしてあるのか」
「はい。部外者が入れないように対策しております」
だから、外で待っていてくれたのだ。そこから少し歩けば、大きな邸にたどり着く。その邸の2階にあるノワールの部屋に案内された。
「失礼します。お客様をお連れしました」
窓際にたたずんでいたノワールと目が合う。
「……わざわざ、呪術師に用事を頼むなんて、槍でも降ってくるのかしら?」
「降らせるのは、違う男だろう。別の用事があるからと、ワタシに頼んだだけだ。まったく、アイツは呪術師使いが荒くて困る」
コレッタが扉を閉めると同時に、ノワールはため息をついた。
「面倒なことは全部押し付けて来るのはいつものことよ。それで、何を頼まれたのかしら?」
「――ここは一度、あの男が来ただろう?」
あの男とは、カミーユのこと。
「隠れる場所を用意した。早急に荷物をまとめて避難したほうがいい」
「……そう。そういう状況になったのね。コレッタ。申し訳ないけど、彼女達をお願いしてもいいかしら?」
コレッタは、はいと返事をして、部屋を出ていった。
「――対策はしてあるようだが、こんなものがあったら、意味がないな」
ナエマがノワールに、呪術によって封じ込めてはあるが封印を破ろうとする、禍々しい力を持った美しい装飾の鈴を見せる。それを見たノワールの眼が鋭くなった。
「この一帯にばらまかれていたぞ。全部回収はしたが……こんなものを使おうとするとはな」
ここに来た時に回収したそれは、本来であれば神に捧げる音色を奏で、邪気を払う鈴。だがこれは、人を呪い殺す鈴に変えた物――その昔、ナエマの先祖達が作ったとされる鈴だ。
「まだ、残っていたことにも驚いたが……これは、ワタシが責任をもって埋葬しよう」
「そんな物を使おうとしてたなんて……。彼女がここを守るように依頼してきた意味が分かったわ」
ここに「ノワール」としている理由は、マザーからの依頼だ。こんなことを暗殺者に頼むなんておかしいと思っていた
ここにカミーユが来た時に感じた違和感はこういうことだと実感した――――あの男は、フィレールとは違う意味で危険、と。
「……道を繋げて、移動していたでしょう? あの人は、どこに行っていたの?」
「ああ、迎えに行っていたんだよ。マザーと、ドール達をな」
「どういうこと?」
マザーが生きていたという話は聞いていない。ノワールから発せられた殺気に思わず苦笑した。
「ワタシに聞くな。詳しいことまでは知らない。ワタシは、フィレールに依頼されたことの必要最低限のことしか知らされていない。気になるなら、直接聞くんだな」
ノワールはため息をついた。会いたくないが、マザーが生きていたということについて文句を言いに行きたいと思うが、職場を離れるなんてと、嫌味を言われるのは分かっている。
準備を終えた彼女達が、集まって来たのを感じ取り、ノワールは必要なものを鞄に詰めた。私物は置いていないため、身支度はすぐに完了しする。
「それで、その場所へはどうやって移動すればいいかしら?」
ナエマは、部屋に置いてある姿見鏡を指さした。
「アレを使う」
「……出来ないわよ?」
鏡と鏡を繋げることが出来るのはフィレールのみだ。
「知っているさ」
姿見鏡に触れると、波紋が広がっていく。
「ワタシ達は直接潜れるが、人間はこういったモノを使わねばならない。面倒だが仕方がない。――――早く、連れてこい」
「ええ」
廊下に集まった彼女達にこっちに来るように声をかける。説明は、向こうですると言い、全員手を繋いだ。
「いいか。何があっても手を離すな。迷子になったら、一生出れなくなる」
「みんな、行きましょう」
本当は、ここを離れたくない。だけれど、ここにいれば危険が及ぶのだ。ぎゅっと強く繋いだ手。ノワールが、大丈夫よと声をかければ、彼女達も安心した。
鏡と鏡を繋ぐ道を通り抜け、たどり着いたのは不思議な場所。
「うわぁ! おおきなキノコがはえてるよ!」
窓から見える大きなキノコはほのかに光を放っていて、ニーナは嬉しそうに窓から外を覗いた。
「……アラァ、相変わらず元気ね」
その声に、全員驚く。木の扉がゆっくりと開き、部屋の中に入って来たのは「マザー」。死んだと聞かされていた彼女達は、固まったまま動かなかったが、すぐに「マザー!」と声を上げ、彼女の元へ駆け寄る。泣きじゃくる彼女達を優しく受け止めた。ノワールと目が合うと、微笑む。
「私の代わりに、この子達を守ってくれてありがとう」
ノワールは、頭を下げた。本当に生きていたという驚きはあるが、知らぬ間にクローンが用意されていたということかと瞬時に理解する。それに気が付いたフィレールが彼女に接触した。フィレールとマザーの繋がりは知らないし、別に知ろうとも思わない。やるべきことは、彼女達を守る。
――――ただ、それだけ。
フィレールがマザーから依頼され、男よりも女性の方がいいだろうと、たまたま仕事が無かった夜来香に押し付けました。




