悪魔と悪魔
培養槽が並ぶ研究室に、白衣を着たカミーユがいた。ホムンクルスの実験と並行して、精霊石の研究している。本体が死んでも、それから精霊石が消滅しない方法を見つければ良くないか、という彼の考えで色々試しているのだが、死ぬ前に取り出せば消滅しないという全く意味のない段階までしか進んでいなかった。
研究室へ、1人の男性が、カミーユの姿を見つけると息を切らしながら走って来た。
「カ、カミーユ様……、マザーとタウがいなくなりました!」
「ふーん。それで?」
「あ、いえ、それが……何も痕跡は見つかっていません。今朝、食事を運んだときにいないことに気が付いて、チェックしたのですが、映ってもいませんでした」
逃げられないようにするために、あの部屋を選んだのにどうやって逃げたのだろうか。気になるところだが、それよりも計画を変更しなくてはいけない。マザーが向かったのは恐らく他の出来損ないのところだ。ならば、動けなくすればいい。
「ねえ、君。えーっと、テツジ君だっけ? 他の研究施設にルートセクスに変更。直ちに実行せよって連絡して」
「テ……はい。分かりました」
何か言いたげだったが返事をし、「俺、ロニーなんだけど、誰だよテツジって……」とぼやきながら去って行った。
「さて、先にこっちをやるか」
奥に保管されているタウのクローン体。恐らく50体近くはあるそれを、違う方法で目覚めさせるために動き出す。
「出来損ないでも役に立つことがあってよかったね」
マザーが聞いていたら、怒るであろうが、カミーユにとっての成功体は、ミスティのことであり、他は出来損ないなのだ。――――光翼人の魂が、その娘の中に入っている。なんて、面白い存在なのだろう。
「まさか、クレアが妊娠していたなんて知らなかったけど。ああ、残念だな。その場に立ち会えなかったなんて。あ、そうだ。ついでにルートノウェムもやるかな。ちょっと、興味あるんだよね――――悪魔に」
白衣のポケットからブラッドストーンを取り出す。悪魔を召喚して、実験に使ってみたい。それは、ずっと考えていたことだが、ジェシカにリスクが高過ぎると止められていた。だが、今なら悪魔を従わせることが出来る。
「まずは、悪魔をバラバラにしてみよう」
そう言うカミーユの瞳は、子供のようにキラキラ輝いていた。
タウのクローン体達の身体に異変が起こりだした。精霊石が身体を蝕んでいき、融合化が進んでいく。そして、目が赤く輝くと、培養液が排出されていった。
「――――ああ、うまくいったみたいだね。さあ、仕事だよ。ジャクリーヌにいる成功体を連れて来るんだ。邪魔する者は全て排除しろ」
出て来たクローン達に、タウの面影はない。身体から飛び出した精霊石。それは、成功体に使われている精霊石とは違う物――カミーユの手によって改良された精霊石だ。クローン達はジャクリーヌに向かうために、空間へと移動した。
「……タウと共にいなくなったって事は、オレの支配下から抜け出す方法があったってことか。うーん、やっぱり彼女の才能は素晴らしいな。まだまだ一緒にやりたかったんだけど……残念だよ」
後始末を他の者に任せて、悪魔を召喚するために場所を移動する。向かったのはマザーがいた部屋。窓から外を眺める。どう考えても普通には逃げられない。タウでも無傷で済まされないであろう。理由は、崖に罠を仕掛けてあるからだ。しかし、それが発動した形跡は無い。
「……外部からの侵入も不可能なはずなんだけど……まあいいや」
カーテンを閉め、邪魔な絨毯を丸めて、部屋の隅に置く。悪魔を召喚するための準備を、鼻歌交じりで行っていた。
こういうのってワクワクするんだよねーといいながら、二重の円を描いた。魔法陣の書き方などは全て頭に入っているカミーユは、物の数分で完成させると、円の中央に立つ。術を発動させると、現れたのは美しい悪魔だった。氷のような微笑みを浮かべた悪魔だったが、カミーユを頭のてっぺんから、つま先まで見ると「コレハコレハ……」と呟いた。
「人ノ道ヲ外レタ外道ヨ。我ヲ呼ビ出シテ何ヲ望ム?」
「ああ、思ったよりも上位の悪魔を召喚しちゃったか。バラバラにするのは難しそうだ」
「ホウ……悪魔ヲ、バラバラニスルト……面白イコトヲ言ウ」
本来であれば、すぐにでも殺していまうところだが、悪魔も逆らうことが出来ない。魂は違えど、その身体は光翼人だ。迂闊に手は出せない。――――いや、殺せるはずだ。だが、体がそれを拒否している。
「……貴様、何ヲシタ?」
「え? ああ、コレ?」
カミーユが身に着けているネックレス。文字が刻まれた指輪に黒い石が付いていた。
「光翼人から作った、うーんそうだな。神の印とでも言えばいいのかな? ちゃんと効果あるみたいだね。良かった。早速だけど、バラバラに出来そうな悪魔連れてきてもらおうかな。あ、悪魔って痛み感じる? 死ぬの?」
その美しい顔が歪む。今すぐ八つ裂きにしたいのに出来ない。せめて、カミーユが円から外に出れば、どうにかできるかもしれないと思ったが、カミーユは悪魔を見て笑った。
「あ。忘れちゃいけない。今日からよろしくね、グラキエス」
名前を付けられたことで、強制的に契約が完了した。グラキエスという名前が、鎖のように悪魔を縛り付けたのだった。
カミーユが言う「ルート」。何か起こった時のために、1~10まで考えられています。




