親子の絆
クレアはミスティに告げた。ミスティの中にいる魂はミスティの父親であり、最初の光翼人であるということを。だから、絶対に守ってくれる――――と。
ミスティを傍に呼び寄せて抱きしめる。霊であるはずなのに、温もりを感じた。自分の中にいる父親の魂にもそれが伝わったのだろうか、魂が共鳴すると、少しだけ、借りるよという声がした。
『……クレア、私は君に会えて幸せだった。だから、そんなに自分を責めないでくれ』
ミスティの身体を借りて、クレアに話しかける優しい声。琴音が心配そうに見つめるが、エクレールが大丈夫よと肩に手を置いた。クレアは、魂の共鳴で、彼をすぐ傍に感じられていることに嬉しくて泣いていた。
『ミスティは、必ず守る。それが、父親として私にできる唯一の事だ。すべてが終わったら、君の元へ行く。だから、待っていてくれ』
『ありがとう……』
ゆっくりと、クレアの姿が消えていく。
『大好きよ、ミスティ。私の愛しい子。遠くから、見守っているわ……』
それが、クレアの最後の言葉。完全に魂が天へと昇って行ったのを確認し、琴音は両手を合わせて合掌した。
『……君達に伝えることがあるが、ミスティの身体を長時間借りるのは負担が強い。そこの君は幻獣だね? 力を貸してもらえないか?』
「マスター」
「――――エクレールの負担にならないならいいわ」
『ああ、もちろんだ。感謝する……』
魂はミスティに身体を返す。クレアの声を聞いていたミスティは泣き崩れ、急いで琴音が駆け寄った。
「じゃあ、ちょっと行ってきます」
「ええ、いってらっしゃい」
エクレールも姿を消した。恐らく、魂だけとなった状態でもしっかりと見ていたのだろう、彼らが何をしようとしているのかを。やっと、すべてが分かるかもしれない。
リリベットが駆け寄ってきた。クレアを見ることは出来なくても、何が起こっているのかは理解できたリリベットは、心配そうにミスティを見つめている。その3歩後ろに立つチョコチーナに、エスメラルダは確認した。
「あの扉の向こうは確認してある?」
「はい。遺跡の奥へと続いていました。数メートル先に外に出られる階段があります。恐らく、それを通って連れだしたのでしょう。出た先はジャクリーヌの郊外でした」
「なるほどなー……誰にも気付かれずに外に連れ出せる……すべて計算されているってわけね。あと、気になったんだけど、チョコチーナさんって、幽霊見えるの?」
クレアの異変に、即座に反応してリリベットを守った。だが、チョコチーナは首を横に振る。
「見えているわけではなく、何となくの気配を感じるくらいです。ただ、声ははっきり聞こえました」
リリベットも頷く。クレアだから声が聞けたのかもしれないと、エスメラルダは解釈した。
気になることが1つある。それは、撃たれた彼女から溢れ出した強い力。あれは、彼女の怒りに反応した魔力とそれに応えた魔力。もしかしたら、ミスティの精霊との相性の良さは父親ではなく、母親譲りのモノなのかもしれない。
エスメラルダは辺りを見渡した。ファタモルガナが寄ってくる気配がしないのは、恐らく琴音の守り刀のおかげだ。
「……でも、あまり長居しない方がよさそうね。ミスティが落ち着いたら、戻りましょう」
「……大丈夫です」
涙を拭って立ち上がるミスティは、琴音に支えてもらいながら歩き出す。チョコチーナを先頭に来た道を戻り、扉の鍵をかけて元の場所に戻した。チョコチーナは、お茶の準備をしますと言い、一礼して部屋を後にする。ふかふかのソファーにミスティを座らせると、リリベットはハンカチを差し出した。お礼を言い、受け取ると涙を拭う。
「……あとはエクレールが戻ってくるのを待つだけか。これで、進展すればいいけれど……」
「内容によっては、大臣さんと聖女教会の人にも聞いてもらった方がいいかもしれないですね」
「それなら、今日面会に来ているわ。まだ、いるかもしれないから、チョコチーナが戻ってきたら確認しましょう」
しばらくして、お茶を運んできたチョコチーナにアルザス達のことを確認してほしいとお願いする。わかりましたと返事をし、テーブルに並べて準備を終えたところで再び部屋を出ていった。ミスティの気分が落ち着くようにとたわいもない話をしていると、チョコチーナがアルザスと、モニカ、カトリーヌを連れて戻って来る。
「ミスティ! もう大丈夫なのか……? ど、どうしたのじゃ!?」
泣き止んではいたが、目を晴らしたミスティに気が付き、モニカは慌てて駆け寄った。
「お母さんに……会ってきました」
エスメラルダと琴音が事情を説明すると、カトリーヌがひどく動揺した。
「クレア様が……!」
クレアの娘が目の前にいて、光翼人との子供だという事実。そして成仏したということ。さすがのカトリーヌも情報の整理が追い付かない。それは、アルザスとモニカも同じことだった。
「う、ううむ……色々な情報が一気に集まりすぎじゃ」
「ああ……まったくだ。隠し通路は知っているが、遺跡に繋がるという報告はあがっていないぞ……」
「エクレールが戻り次第、ヴァルキュリア全員……あと、今後を左右する話を聞いておいた方がいいメンバーは……お任せしてもいいですか?」
アルザスはわかったと頷き、部屋を後にする。カトリーヌも報告するために城を後にした。
「わたし達も一度戻りましょうか。みんなに声かけておかないと」
「ああ、そうじゃな。ミスティ、立てるか?」
「はい、大丈夫です」
宮殿に一度戻ることにし、部屋を出ていく。最後に残ったエスメラルダはリリベットの方に振り返った。
「結婚の儀までには、なんとかなるように頑張るわ」
「エスメラルダ……、ありがとう」
目を合わせて微笑む。エスメラルダの背中が見えなくなっても、チョコチーナは頭を下げていた。




