後悔しても
死んでも、この世に留まり続けている魂と対話をし、成仏させること。それが出来る琴音は、クレアを探していた。彼女と話が出来れば、真実に近づくことが出来る。そして、彼女の願いを叶えれば、成仏させることが出来る。エスメラルダと共に、遺跡を捜し歩いていた琴音だったが、遺跡の中を彷徨っていることまでわかったものの、見つけることが出来ずにいた。
2人の元にリリベットから連絡が来たのは、モニカとアルザスがルイゼの話を聞いている頃のことだ。知らせたいことがあるため、至急私の元に来てほしいという連絡を受け、2人はリリベットの部屋へと来た。
「リリベット、どう? 少しは落ち着いた感じ?」
「ええ。チョコチーナも帰って来て、こちらの問題は落ち着いたわ。本当にありがとう」
エスメラルダとリリベットは挨拶の抱擁を交わした。
「チョコチーナ」
「はい」
チョコチーナは、リリベットの部屋に常設されている本棚の前に移動すると、一冊の本を手に取り、リリベットに手渡す。リリベットは、その本を開いた。
「これは……」
本と見せかけた小物入れ。その中には鍵が入っていた。
「チョコチーナが本棚の整理をしていて見つけたの。この鍵は城と遺跡を繋ぐ隠し扉の鍵よ」
鍵を手にすると、エスメラルダに手渡した。見た目はいたって普通の鍵。恐らくは、怪しまれないように普通の鍵にしたのだろう。
「ご案内します」
王族の部屋には、それぞれ外に抜け出せる隠し通路がある。リリベットの部屋にも本棚の後ろに隠されており、その通路を数メートル進んだところにある壁の石を押すと遺跡への隠し扉が現れた。鍵を挿して回せば、遺跡への扉が開かれる。地下へと続く長い階段を下りていくと、琴音が反応した。
「これは、クレアさんの気配……」
先頭を歩いていたチョコチーナが横に避ける。到着した部屋にあったのは、細長い入れ物だった。それは、コールドスリープで使う装置で、その傍にいる魂に琴音は話しかけた。
「私は琴音と申します。お話をさせて貰えませんか、クレアさん」
魂は点滅するとその姿を人へと変える。
『……あなた達は……あの子を助けてくれた子……』
ここに、カトリーヌがいれば気が付いたであろう。その顔はクララにそっくりであった。
「はい。今、ミスティさんは、眠り続けています」
『……大丈夫。あの子の中にいる魂は私の愛しい人……あの子を傷つけることはしない』
ミスティの話しになると、穏やかな表情になる。今なら話ができると、琴音は話しかけた。
「クレアさんはミスティさんを知っているのですか?」
『あの子は……ミスティは私の大切な子……。――――そう。私の愛しい子……。奪われた……奪われたの!』
チョコチーナはリリベットの前に出ると、流れ込んできたクレアの記憶を塞き止めた。
見る必要がある、エスメラルダと琴音は、クレアの記憶を受け入れる。記憶の始まりはここからだった。拘束されたクレアはまだ利用価値があると判断され、強制的にコールドスリープによって眠らされた。そして、長い眠りから覚めた彼女を迎えに来たのは1人の女性。
「――――目覚めはいかが? どこか、痛いところとか、おかしなところはないかしら?」
「……えっと……」
状況がのみこめないクレアに微笑みかける。
「アラ。ごめんなさい。私はジェシカ。マザーと呼ばれているわ」
マザーに連れていかれた施設で暮らしていたクレアは、子を身籠っていることに気が付いたが、
「光翼人と人間のハーフ。素晴らしい被験体だ!」
白衣を着た男たちが、恐ろしいことを話しているのを聞いてしまい、施設から逃げ出すもののあっけなく捕まり、別の施設へと連れていかれた。そこで、生まれたのがミスティ。しかし、生まれてすぐ引き離されてしまい、泣き叫ぶクレアは研究員達に押さえつけられた。
「私の子供をどこにやったの⁉」
「光翼人との子供、素晴らしい宝だ! 研究材料として利用してやろう。父親と同じようにな」
再生された映像。それは、光翼人が身体から魂を抜き取られてしまった瞬間のもの――愛する人の変わり果てた姿。
「人類が神を超える瞬間だ! ははははっ!」
笑いながら、銃を取り出す。そして、銃口をクレアに向けた。
「感謝しているよ。すべては君のおかげなのだから。さて、そろそろ消えてもらおうか。せっかくの被験体を奪われるわけにはいかないからね」
銃声音が響き、クレアの身体はゆっくりと床に倒れこんだ。
(……許せない……)
愛する人が変わり果てた姿になってしまったことも、子供が奪われたことも全部自分のせい。自分が許せない。……そして、こんな目に合わせた人間が許せない。
揺れる。最初は小さな、気が付かない程度の揺れ。それは段々と強くなり、床に亀裂が走る。クレアの身体から強い力が解き放たれ、施設を包み込み、施設がある山を飲み込んで爆発した。
そして……気が付いた時には、ここにいた。すべての始まりであるジャクリーヌ。この遺跡の中に。
『私が……あの人と出会わなければ……』
「――お母さん、なんですか……?」
遺跡に現れたのは、エクレールに支えられて立っているミスティ。ミスティが目覚めたことに気が付いたエクレールが、エスメラルダの指示でここに連れて来たのだ。ミスティを見たクレアの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。




