魂の記憶
許可が下り、遺跡に入ったヴァルキュリア達は、遺跡を徘徊するファタモルガナを倒しながら調査を進めていた。一度、発掘作業で入ったことがあるモニカを先頭に、まずは一度調べた場所を見ていく。
「ここが、剣が刺さっていた部屋じゃ」
部屋の中央の床に、剣が刺さっていた穴が開いている。ミスティはじっとその場所を見つめていた。ミスティだけに聞こえる声。そして、セピアの映像。
――――捕らわれた光翼人が人間に囲まれて、怒声を浴びせられている。その後方には、羽交い絞めにされて女性。
「やめて!」
女性の悲痛な叫びは、人間たちの怒声によってかき消されて届かない。
1人の人間が、手にした剣で光翼人を貫いた。
「いやあぁぁぁぁっ!」
女性は目の前で起こった悲劇に泣き崩れた。
「国王を殺したコイツは、悪魔だ!」
そうだそうだと、人間たちはと光翼人を罵りだす。――なんて、人とは愚かなのだろう。
次々と手にした武器で貫いていく。息絶えただろうと武器を抜けば、血が飛び散り、その血を浴びた人々は悲鳴を上げた。皮膚が燃えるように熱くて痛い。放り投げた剣が床に突き刺さると錆びていく。「なんだ、どうした?」と、女性を羽交い絞めにしていた男性達は、彼女を突き飛ばすと、痛みでうずくまる人間に駆け寄った。
「どうしたんだ……? ヒッ!」
血がかかった部分にできた水疱が、破れてびらんをきたし、それが身体中に広がっていくと息絶えた。
悲鳴が外まで聞こえたのだろう。待機していた騎士達が駆け込むと、光翼人は、ゆっくりと立ち上がった。刺されたはずの傷が塞がっており、その光の翼が強い光を放っていた。遺跡の外から聞こえる悲鳴に、数人の騎士が慌てて引き返していく。
「やはり、不死の力を秘めている……。捕らえよ! 国王の無念を晴らすのだ!」
「もう、やめてぇぇぇぇっ!」
止めようと、騎士の足にしがみついた女性は邪魔だと踏みつけられる。
「おとなしくしていろ! この女の命はないぞ!」
怒りをあらわにした光翼人だったが、槍で刺されそうになっている女性を見て抵抗を止めた。床に押さえつけられると、呪術が込められた縄で縛られ、遺跡の奥へと連れていかれる。
そこにあったのは水牢。光翼人はそこに入れられ、死に、生き返りを延々と繰り返す――終わりのない地獄。
外では、助けにきた光翼人と人の戦いが繰り広げられ、神は嘆いた。
(これは……私の中にいる魂の記憶……。真実を教えようとしている)
水牢がある部屋への扉を探すため、ミスティは壁に手を触れた。触れた部分が凹み、横へスライドする。現れたのは水牢の部屋だった。
「な、なんじゃ⁉ こんなもの、発掘調査の時には見つからなかったぞ!」
部屋に飛び込んだモニカは、水牢が隠されていたことに愕然とする。
「まさか……ここに閉じ込めたのか……?」
「――はい。この中に繋がれて……記憶を、失っていった……ワタシハ……ダレダ……?」
魂との繋がりが急に強くなり、魂が揺らぐミスティに駆け寄った琴音が、ミスティの頬を両手で包むと、目を真っすぐ見た。
「ミスティさん!」
「っ⁉」
琴音の魔力がミスティの目から入り、正気に戻す。
「大丈夫ですか? 魂を引っ張られ過ぎると戻れなくなりますよ」
「ごめんなさい。真実が分かるかと思って、見ようとしすぎました……。でも、分かりました。ここで光翼人は呪術師によって記憶を消されていき、空っぽになって魂と身体を別に保管されることになった……。そして、私の中にその魂がいる……」
モニカは考え込む。水牢の記録は残されていなかった。恐らく、アルザス達も知らない歴史。血にまみれた街……まさにその通りじゃなと呟いて、部屋を見渡した。
「ん?」
部屋の隅に見える人影。それは、あの幽霊だ。ジッと、ミスティを見ている。ミスティも気が付き、幽霊を見ると目を丸くして驚いた。彼女は、やめてと泣き叫んでいたあの女性だ。
「……ク、レア……?」
ミスティの中にいる魂の声。気が付けば、泣いていた。涙が、止まらない。
『……ごめんなさい……ごめんなさい……』
幽霊の女性は、謝りながら消えていった。消えると同時に、ミスティは膝から崩れ落ちる。
「ミスティさん!」
傍にいた琴音が、ミスティを抱きとめて声をかけた。
「これ以上は危険です!」
「わかった。一度戻ろう」
来た道を引き返し、宮殿へと急いで戻っていった。
――――その頃、1人の男性がジャクリーヌを散策していた。名は「カミーユ」。ずっと眠っていたため、変わった世界を見るために旅をしている最中だ。自身が住んでいたこの街も変わってしまった。――――変わったのは建物だけだ。根本的なものは何1つ変わっていない。
「長く眠り過ぎた気もするけど、まあ、結果オーライってとこか。この身体にもだいぶ馴染んできたし、そろそろ戻って、準備しないと」
また、すぐ戻ってくるねと声をかけ、カミーユは成功体達が移動で使う空間へと消えていった――――。




