許さない
ヘザーが暗殺されたという報告を受けたのは朝食を終えて、雑談していた時の事。ヴェロニカは確認するために、部屋を飛び出していった。報告を終えたソニアを見送り、残された他の面々はその話をし出した。
「……スマートではないな。依頼主がいるとするならば、そういう風に殺してくれと依頼したのだろう。あやつは、やり過ぎた。その恨み……ということじゃな」
ヘザーの悪行を知っている彼女たちは、モニカの考えに同意する。
「恨みって言ってもさ、相当じゃね? バラバラにしてくれなんて依頼するか、普通?」
「でも~、キャルと一緒に対暗殺者訓練した子の中に、同じ目に合わせて殺すって考えの子がいましたから~、ありえない話ではないかなぁと思いますぅ」
「……マジか。いや、ヘザーは誰かをバラバラにしたことなんてないだろ――――ないよな?」
全員、苦笑する。可能性がないとは言えないが、一応は、ヘザーがジャクリーヌに来てからの、そういった事件の報告はない。
「ま、まあ、暗殺者が誰か分かっていても、依頼主については分からぬからな。これ以上のことを知るのは無理じゃ。しかし、次から次へと……落ち着く暇がない国じゃな」
「この国は、気の流れが集まっている点の上に作られています。本来なら繁栄するはずなのですが……こうなってしまった原因は、間違いなく遺跡です。ファタモルガナがジャクリーヌにいるのもそれが原因の可能性があります。神の許しを得ることが出来なければ、ジャクリーヌどころか、世界が終わります」
それを阻止するのが自分の役目である。琴音は、ミスティを見た。彼女の中にいる光翼人の魂と会話が出来ればいいのですが、と言う。何回か試みてみたが、それは叶わなかった。
遺跡へ、ヴァルキュリアが調査に入ることの申請はしている。許可が下り次第、すぐに取り掛かるための準備はしていた。遺跡を調査することで、進展することは間違いない。
「マスター」
眠っていたエクレールが目を覚まして話しかけて来た。
「覗き魔がいるわ」
エスメラルダは手にしていたティーカップを置き、エクレールが見ているモノを見る。それは、望遠鏡でこっちを見ている女性の姿。顔、服装。そして、望遠鏡を持つ手には、フィンガーアーマー。
「居場所がバレたか。意外と早かったわね」
その言葉に、ミスティが反応する。
「もしかして……私を追いかけて来た……」
メヌエットが言っていた、手に鎧みたいなアクセサリー。それは、フィンガーアーマー。ミスティは、タウもそのような物をつけていたことを覚えていた。
「ええ。似顔絵の女性よ。間違いなく。あ、そのまま動かないでね。ミスティが反応すると、バレていることに気が付くわ」
エクレールが姿を現さないのもそのため。バレないように慎重に動かなければ。
「仲間はいないみたいね。さて、どうする? 遅かれ早かれ、ミスティに接触してくるわ」
「殺りますか?」
キャラメルの雰囲気が一瞬で変わる。隣にいたアプリコットが、両手を合わせて大きな音を立てると、元のほんわかしたキャラメルに戻った。
「もう、ダメよ。戦闘モードに入るのは、武器を手にしたときだけって言ったでしょ?」
「あや、ごめんなさいです~。でも、仲間が増える前に殺っちゃったほうがいいと思いますぅ」
「そうじゃな。ここに襲撃される前に手を打った方がよい」
とはいえ、どうするかと考えていると、いい案を思いついたエクレールが、
「威嚇してこようか? こっちにはあたしがいるんだぞーって。少しは静かになると思うけど」
幻獣である自分の存在をアピールすることを提案してきた。遺跡の調査中に襲撃を受けるのも面倒である。
「ミスティ、とりあえずそれでいいかしら?」
「……はい。お願いします」
エクレールは任せてといい、ユプシロンの元へと向かった――。
バレていることに気が付かず、望遠鏡で覗いている女性がいた。スチームパンクファッション、そうユプシロンだ。街の外にある高い木の枝に座り、望遠鏡で覗き込んでいる。
「あんなところに堂々と……。廃棄体のくせに、仲間を作るなんて生意気!」
悪魔を騙して利用し、頃合いを見てさっさと退散したユプシロンはジャクリーヌに来ていた。自分の相方でもあるタウが殺された現場を見るために。
「オメガのせいで、色々最悪! ホント、ミステイク! 勝手なことしなければ……。聖女教会の奴らもまた動き出してるし、ろくなことないわ」
タウが殺された現場で、マーガレットに話しかけられるという最悪さ。思わず舌打ちしてしまった。
「まあ、なんか頭悪そうだったし……そんなに心配する必要ないかな」
自分の顔をしっかりと覚えられていることなどつゆ知らず、ユプシロンはミスティを始末する方法を考え始めた。なるべく、目立たずに、ミスティだけを殺す方法を。
「んー……あれだけ仲間がいると、なかなか難しいわね。おびき出す方法考えないと。下僕を使って外におびき出せるかしら? 余計なのもついてきそうだし、無理かな……」
考え込んでいるユプシロンの頭上に紫の光が走り、木へと落ちた。
「きゃあぁぁぁぁっ⁉」
木から落ちたユプシロンは、地へと叩きつけられそうになったが、何とか受け身をとった。それでも、高いところから落ちたことには変わりない。その衝撃の痛みにうずくまる。
「な、何なのよいきなり……ヒエッ⁉」
真っ二つになった木が、自分に向かって倒れて来る。ステッキを木に向けて突き出すと、魔法陣が展開し、木に接触すると爆発した。
見上げれば、青空に走る紫の光。
「なによ……、これ」
自然現象ではないことは分かる。そして、自分が狙われていることも。雷は、ユプシロンを狙って落ちて来た。それをかわして行くユプシロンは、これが警告だということに気が付く。当てる気はない。当てる気があるならば、最初の時に自分も感電していたはずだと。
「廃棄体にこんな能力があるわけない! ……誰⁉」
現れたのは本来の姿。大きな黒い羊となったエクレール。それが幻獣であることを理解した瞬間に、冷や汗が流れ落ちる。
「な、なによ、これ……? なんでこんなところにこんなものがいるのよ!?」
エクレールが咆哮を上げると、雷が暴れ出す。ユプシロンは慌てて空間へと逃げ込もうとした。いくら成功体といえども、仲間がいないこの状況で幻獣に勝てるわけがない。
『ジャクリーヌニ近ヅクコトハ許サヌ――――』




