ひと段落とは言えないけれど
「ヴェロニカ」
ロングのウルフカット。カーマインとマルーンのツートンカラー。瞳の色はスマルト。年齢は非公開。
元は傭兵。仕事で負傷し、ジャクリーヌの人達に世話になったことがきっかけで、自警団に入隊。
今は髪が長いが、昔はベリーショートであったこと、性格も勝気で口が悪いことから、男だと思われてしまうことが多かった。髪を伸ばしているのは、願かけだと言う。
悪魔を倒したことで落ち着いたわけでは無い。エリナから語られた真実を伝えるため、ソレイユは部下を城へと走らせた。
「……オフェリア嬢の遺体は見つかっていません。タモラ侯爵を殺したのはオフェリア嬢で、悪魔ではない……。オフェリア嬢の姿をした別の人間ということなのでしょうか?」
「可能性はあると思いますわ。非人道的な実験は遥か昔から行われていましたもの」
ソレイユの目の前にいる女性。聖女教会のシスターである証の十字架を首から下げている彼女の名は「シャンティ」。シスターカトリーヌの指示で監査官としてやって来た彼女は、本部に戻る前に、ソレイユから剣を回収するため、ここに来ていた。
「色々な偶然が重なった結果、こういうことになったのでしょう。今回の件で、バニティ伯爵の陞爵は無くなるどころか、追放になる可能性もありますわね。……まあ、聞く限りですと、夫人の暴走のようですし……離婚、または別居かしら? ですけど、これでリリベット様も安心できるのでは?」
リリベットや両親への刺客は、タモラ侯爵の仕業だった。そのタモラ侯爵は死に、暗躍していたバニティ伯爵夫人は処分される。ジャクリーヌの課題は1つクリアとなった。
「シスターシャンティ。剣を貸していただき、ありがとうございました」
「いいえ。お役に立ててよかったですわ。本来はわたくしがやらなければいけないのですが、わたくしは監査官として来てましたし、手を出すわけにはいきませんから」
「……聖女教会も大変ですね」
その言葉に、シャンティは苦笑した。
「悪魔祓いとしては優秀なのですけど……」
それについては、同感だ。被害は最小限で済み、穢れにやられた人達のケアも完璧にこなしていた。
「上級ではありませんでしたが、強い悪魔には変わりありません。元の状態に、戻るまで少し時間はかかりますが、大丈夫ですわ」
シャンティは会釈をすると、
「それでは、ごきげんよう」
と、去っていった。
「……さて」
エリナを護送する準備をするため、机に向かう。オフェリアのように逃げられることはないだろうが、騎士達の中でも魔法が使える者を選ばなければならない。
「失礼します。隊長にお会いしたいという方が見えているのですが、お通ししても宜しいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ」
顔を上げると、入り口にハーツが立っていて、その後ろからエプロンドレスの上にマントを羽織っている女性「チョコチーナ」が顔を出した。入口で頭を下げてからソレイユの近くに来ると、もう1度、頭を下げた。
「妖精族……?」
「はい。私はチョコチーナ。リリベット様にお仕えしております」
次期王妃の名前に、ソレイユは椅子から立ち上がった。
「リリベット様の……。そうでしたね。リリベット様はエスメラルダという女性の方が護衛してました」
「はい。私はリリベット様や旦那様、奥様の身の安全を確保することを命じられて別行動をとっておりました。ここに来たのもそのためです。しかし、すでにタモラ侯爵は死亡してました」
呪術の書物を鞄から取り出す。それは、タモラ侯爵が所持していた物だ。
「勝手ながら、タモラ侯爵の別荘に入り、これを回収させていただきました。ここに来た理由は、この呪術の書物を処分する許可を得るためです」
「なるほど。構いません。そのようなもの、必要ありませんから」
「ありがとうございます」
書物は、さらさらと崩れて粉となり、開いていた窓から外へと吹かれて消えていった。
「チョコチーナ殿。もうあなたの主に害する者はいません。全ては、バニティ伯爵夫人の計画……オフェリア嬢の事故から始まったことでした」
オフェリア嬢を事故に見せかけて殺害。それにより、リリベットがジャクリーヌに嫁ぐこととなる。タモラ侯爵の自滅を狙い、暗躍。そうして自分達は陞爵し、娘はジャクリーヌに嫁ぐ危険は無くなる。
「オフェリア嬢が生きていた……いえ、恐らくは本人ではありませんが、それにより、タモラ侯爵が殺害されたけれども、オフェリア嬢が生きているならば、いつか復讐しに来るかもしれない……そう考えたのでしょう」
「そうでしたか……。私は、リリベット様の元へ向かいます。ありがとうございました」
頭を下げて、ジャクリーヌに向かおうとしたチョコチーナを呼び止める。
「城へ向かうのなら、1つお願いしたいことがあります。エリナを護送するのを手伝っていただけないでしょうか? 幸い、リリベット様の側にはエスメラルダ殿がいます。危険はないかと」
足を止めて振り返ったチョコチーナは驚いていた。城までの護衛をお願いしたのに、何故まだそこにいるのか。ソレイユは、ジャクリーヌを守るヴァルキュリアという部隊に、エスメラルダが加わったこと、ヴァルキュリアは城の隣のため、すぐに駆け付けられることを説明した。
「……そうでしたか。分かりました。お手伝いさせていただきます」
「感謝します。こちらとしても、同じような失態をするわけにはいかないのです。本来なら、私が同行すべきですが、まだここを離れることが出来ないもので……。ハーツ。チョコチーナ殿をご案内しなさい」
入口で待機していたハーツにチョコチーナを任せて、ソレイユは腰を下ろす。
「ジャクリーヌに嫁ぐ危険……ですか。我が国は、未だ過去に縛られていますね」
リリベットは、ジャクリーヌの王妃となることをすぐに受け入れたと聞いている。そのことに心から感謝しなければならない。
「我が国の未来のために、やるべきことはまだいっぱいありますね……」
早急にここでの任務を終えなければと、ソレイユは仕事の続きを始めるのだった――――。




