ミスティを守るモノ
「エスメラルダ」
ロングストレートの軽い紫系の髪をハーフツインテールにしている。しっかりしているため、実際年齢より上に見られることからそういう髪型にしているよ。
金色の瞳はエクレールとの契約の証で、本来は青緑の瞳である。
魔法使いであるが、母親に言われて、魔法を使わなくても大丈夫なように訓練している。その中で錬金術に興味を示して勉強していたため、現在は錬金術で生活している。エアバイクもそれで購入した。
エクレールとの契約は、母親が旅に出たいというエスメラルダに課した試験であったとされる。
ミスティが語る話を静かに聞く。ファタモルガナは被験体達のなれの姿であり、それを失敗作と呼ぶという事。実験の内容は、目に見えただけではあるが、ナターシャとオーウィミィのクローンがいたこと、錬金術、試験管ベビー……ぼーっと見ていたガラスの向こう側。記憶がすべて戻った時に理解した現実。
「私は廃棄体だけど、生きています。ファタモルガナとの違いは生きてるか死んでるかです。私は……処分される前に脱走できたから……」
脱走するために多くの者を犠牲にしてしまった。その事実は彼女を苦しめている。
「……自分が見えている人間に襲い掛かるって、マジもんのホラー、悪霊じゃん……。そのドールとかってのも何体いるかわかんないんだろ?」
「はい。倒しても、スペアボディが存在している限りは……。何体作られているのかは分からないです」
「ふむ。少し気になるのだが、クローンは別人格じゃな? 記憶を共有しているが、中身は別物。して、別物である理由はなんだと思う? クローンを作った理由は?」
「それは……なんでかしら? ドールってそもそも何を目的に作られたのかは分からないのよね?」
ヴェロニカの問いに、ミスティは頷いた。そこまでの情報は得ていない。
「世界を救うため……というのも引っかかるところじゃが、ミスティ。お主は、ここにいるといい。我々はファタモルガナと戦っているヴァルキュリアというチームじゃ。お主を追ってくるドールとの関係も知っておきたいところ……。それに、お主を助けて欲しいとお願いされたからの」
「……私を、助ける……? 一体、誰に……?」
「女性の幽霊じゃ。詳しい正体は分からぬが……敵ではあるまい」
ミスティは、しばし考えたのちにわかりましたと頷いた。アプリコットとキャラメルが嬉しそうに微笑み合う。
「この短期間でたくさんの家族が増えて、キャルはうれしいです~」
「家族が増えるって嬉しいね~」
ね~、と声を合わせる2人の横で、モニカは砂糖がじゃりじゃりのコーヒーを飲み干す。底に残った砂糖をスプーンで拾って口に運んだ。
「うむ。上手くいけば、ファタモルガナの根本的な原因を取り除くことができるかもしれぬ。さすれば、万々歳じゃな」
再開された朝食は、体験したことのないことばかりで、ミスティは戸惑いつつも、これが普通なんだと感じていた。
(2人もここにいたら、もっと良かったのかな……)
病気で隔離された2人とは最後まで会うことは叶わなかった。それに、あの施設壊滅させたのは自分だ。カッパが怒るのも無理はない。
「あの、少し気になったんですが、ファタモルガナって元は人ですよね? 何か、怨霊とかそういった感じじゃなくて……魂に何かが覆いかぶさっている感じがするんです。薄い衣に包まれてるといいますか……」
「そうなのよね~。だから、人だけど人じゃない感じなのかも」
琴音の疑問に答えるように、エクレールが欠伸をしながら現れた。ミスティの傍に行くと、ジッと見つめる。見ているものは彼女の魂。
「んー……やっぱり。マスター。ミスティの中にもう1つ別の魂が存在してるわ。その実験とかで入れられたのね、きっと」
「私の中に……魂……。だからなんですね。魔法が使えるようになったのも、別の声が聞こえるのも……あの時……私の中に入れられた別の人の魂……」
そう。ミスティは魔法が使えなかった。それと、時々聞こえてくる声。あれは、自分の中に入れられた別の魂の声。あれは、その人の声だったのだろう。
「人じゃないわ。……この感じ、あたしと同じような存在の魂が入れられてる。それと、魔法は使えなかったんじゃなくて、使い方を知らなかっただけだと思うわ。ね、マスター?」
「うん。ミスティ。あなた、精霊との相性が良いわ。恐らく、ここにいる中で一番だと思う。使えた理由は、別の魂が使い方を教えてるんだと思う」
ここからはあくまでも推測だと言ってから、エスメラルダは話を続けた。
「ミスティの中に魂が入れられてから、覚醒するまでの間が何日だったのかはわからないけれど、恐らくは適合するまでに時間をかけたのね。そうしないと、ミスティの身体が耐え切れずに壊れてしまう」
「私を、守るため……?」
「ええ。あなたは間違いなく成功作なの。ドールとかっていうものが廃棄体だと呼んでいるのならまだそのことに気が付いていない。それと、他にも施設は存在する。何をしようとしているのか分からないけれど、ろくでもないことなのは間違いないわ」
「ならば、なおの事。ここにいた方がいいだろう。外に出る時は、誰かが付いていった方が良いな」
ミスティは改めてよろしくお願いしますと頭を下げた。朝食を食べた後、ヴェロニカとモニカはミスティに穴が開いたところを案内してもらうために外出する。エスメラルダと琴音は3人を2階の窓から見送った。
「……どう思う?」
「エスメラルダさんの見解は正しいかと。ファタモルガナは人間だった時に、何かの魂との融合に失敗したなれの果てという感じですかね。それが何かが分かるといいのですが……。あとはドールですね」
ドールと呼ばれている者達もミスティと同じなのだろうか。それとも違うのか。こればかりは対面してみなければ分からない。
「私の国では、錬金術を使う人がほとんどいないので、ホムンクルスとかよくわかりませんが……私は、神託を受けてここにきました。その使命を果たさなければなりません」
「神託……。コトネって、倭にいる巫女っていう立場なの?」
「いえ。神託を受けたのは、第1皇女の蓮花様です。私は蓮花様に命じられてジャクリーヌに来ました」
神託は、神はジャクリーヌを許してはいない。世界が終わる。急ぎ、祓い清めよという内容で、各国を旅していた琴音に、ジャクリーヌに行くようにと指示が出たのだ。
旅をしている理由も、蓮花のために知識などを得るためである。
「神は……許していない……か。絶対に光翼人のことよね。ファタモルガナにドール……問題は山積みかー……」
琴音はそうですねと頷くのだった――――。




