第十話 悪夢
「ここは、どこだ?」
十代前半ほどに見える少年が暗闇の中にいました。
彼の周りには、赤い霧のようなものが広がり、目の前を覆っています。
どこに向かっているのかも分からず、さまよい歩き続けていました。
何かにつまずいて転びそうになりましたが、手のひらを地面について受け身をとります。
(手のひらが痛い)
「手のひら? オレに手なんてついていないはず……」
少年がつまずいた方をふり向くと、そこには木彫りの鳥の人形がありました。
「これはメジロだ。オレが削って作った」
(メジロ? そうだった。オレはメジロだ)
「この姿では飛べない。ツバキのところへ行けない」
しばらくの間、少年がうつ向いて立ちつくしていると、どこからか歌声が聞こえてきます。
聞き覚えがある歌に、顔を上げた少年は、歌声が聞こえる方向へと進みました。
「この歌を知っている」
美しい歌声は、なぜか近付けば近付くほど、不気味なノイズ音のようなものに変わっていきます。
やがて耳をつんざくような不協和音が鳴り響く場所にたどり着きます。そこには、赤黒く染まった大きな泉がありました。
泉の中央に、一人の少年が佇んでいる姿が見えました。見覚えがある銀色の長い髪をしています。
「ミヅハ?」
メジロは、思わず銀色の髪の少年の名前を呼びました。
ミヅハはメジロの呼びかけに気づくことなく、どこを見ているのか分からない虚な瞳をしていました。そして歪な笑みを浮かべながら歌い続けています。
メジロは耳をふさぐと、涙をこぼしました。
(どうしてだ!? お前の歌が好きだったのに……)
「もうやめてくれ!! 水神さま!」
メジロの叫びに反応したミヅハが、歌をやめました。そして、ゆっくりとメジロの方を向きました。
「よかった。気づいてくれたのかミヅハ。……ミヅハ!?」
ミヅハの姿を見て驚愕したメジロは後ずさりをしようとしましたが、ガクガクと震える足がもつれて尻もちをつきました。
メジロの怯えきった瞳には、肉体が腐り落ち、骨だけの骸になったミヅハが映っていました。
ズシャッと崩れるように倒れたミヅハは、這いずりながらメジロの方に向かってきます。
「たのむ。やめてくれ。オレはツバキと一緒にいたかっただけなんだ」
ミヅハが伸ばしてきた手をメジロがはねのけた時です。だれかの声が聞こえてきました。
「……メジロさん!」
ツバキの呼び声に、メジロがハッと目を開けました。そしてあわてて自分の姿を確認しますが、いつもの小鳥のままでした。
「よかった。ぜんぜん目を覚まさないから心配してたんだよ」
「……ここはどこだ。オレは何をしてるんだ?」
「あの泉だよ。ミヅハとイソラがいた場所の……。でも、だいぶ長いこと待っていたけど二人は現れなくて。それでもメジロさんが必死で探し続けるから、私が休んでってお願いして眠ったんでしょ?」
「……そうか。そうだった」
「なにか怖い夢でも見たの?」
「分からない。どんな夢だったか思い出せない。だけど……」
「だけど?」
「なつかしい感じがした。昔の自分の夢だった気がする」




