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太陽と月の夢幻郷  作者: 森野こごみ
第一章 花と鳥の子守歌

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第十話 悪夢


「ここは、どこだ?」


 十代前半ほどに見える少年が暗闇の中にいました。

 彼の周りには、赤い(きり)のようなものが広がり、目の前を(おお)っています。

 どこに向かっているのかも分からず、さまよい歩き続けていました。

 何かにつまずいて転びそうになりましたが、手のひらを地面について受け身をとります。


(手のひらが(いた)い)


「手のひら? オレに手なんてついていないはず……」


 少年がつまずいた方をふり向くと、そこには木彫(きぼ)りの鳥の人形がありました。


「これはメジロだ。オレが(けず)って作った」


(メジロ? そうだった。オレはメジロだ)


「この姿では飛べない。ツバキのところへ行けない」


 しばらくの間、少年がうつ向いて立ちつくしていると、どこからか歌声が聞こえてきます。

 聞き覚えがある歌に、顔を上げた少年は、歌声が聞こえる方向へと進みました。


「この歌を知っている」


 美しい歌声は、なぜか近付けば近付くほど、不気味(ぶきみ)なノイズ音のようなものに変わっていきます。

 やがて耳をつんざくような不協和音(ふきょうわおん)が鳴り(ひび)く場所にたどり着きます。そこには、赤黒く()まった大きな泉がありました。


 泉の中央に、一人の少年が(たたず)んでいる姿が見えました。見覚えがある銀色の長い(かみ)をしています。


「ミヅハ?」


 メジロは、思わず銀色の(かみ)の少年の名前を呼びました。


 ミヅハはメジロの呼びかけに気づくことなく、どこを見ているのか分からない(うつろ)(ひとみ)をしていました。そして(いびつ)()みを浮かべながら歌い続けています。


 メジロは耳をふさぐと、(なみだ)をこぼしました。


(どうしてだ!? お前の歌が好きだったのに……)


「もうやめてくれ!! 水神(すいじん)さま!」


 メジロの(さけ)びに反応したミヅハが、歌をやめました。そして、ゆっくりとメジロの方を向きました。


「よかった。気づいてくれたのかミヅハ。……ミヅハ!?」


 ミヅハの姿を見て驚愕(きょうがく)したメジロは後ずさりをしようとしましたが、ガクガクと(ふる)える足がもつれて(しり)もちをつきました。


 メジロの(おび)えきった瞳には、肉体が(くさ)り落ち、骨だけの(むくろ)になったミヅハが(うつ)っていました。


 ズシャッと(くず)れるように(たお)れたミヅハは、()いずりながらメジロの方に向かってきます。


「たのむ。やめてくれ。オレはツバキと一緒にいたかっただけなんだ」


 ミヅハが()ばしてきた手をメジロがはねのけた時です。だれかの声が聞こえてきました。


「……メジロさん!」


 ツバキの呼び声に、メジロがハッと目を開けました。そしてあわてて自分の姿を確認しますが、いつもの小鳥のままでした。


「よかった。ぜんぜん目を覚まさないから心配してたんだよ」


「……ここはどこだ。オレは何をしてるんだ?」


「あの泉だよ。ミヅハとイソラがいた場所の……。でも、だいぶ長いこと待っていたけど二人は現れなくて。それでもメジロさんが必死で探し続けるから、私が休んでってお願いして眠ったんでしょ?」


「……そうか。そうだった」


「なにか(こわ)(ゆめ)でも見たの?」


「分からない。どんな夢だったか思い出せない。だけど……」


「だけど?」


「なつかしい感じがした。昔の自分の(ゆめ)だった気がする」


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