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第一章 第2話 上へ

「まずは、生きていてくださりありがとうございます」


銀髪、銀の目、金色の大きな翼。

そして煌びやかな服には20の文字。


「ここはどこなんだ?」

まだ体が焼けるように痛い。


「零階層にそのままにされていた、旧反乱軍の野営テントです」

落ち着いた声で、感情の揺れがまるで無い。


「何しに来たんだ、なぜ20階層の人間がここにいる?それに彼女をどこへやった」

わからないことが多すぎる。

それにこの男はなんだ、何が目的でこんな最下層なんか来たんだ。


「順を追って説明致します」

エリオット、という男は至って冷静に続けていく。

どこか人間離れした冷たさがその男からずっと発されている。

「まず、彼女は隣のテントにおります。軽度の傷が見られましたが、大きな怪我ではありません」

それを聞いて胸の奥が、わずかにほどける。

「......そうか」

この男の冷静さのおかげで、こっちも冷静になっていく。


「次になぜ私がここにいるか、でしたね」

そうだ、下層にこんな奴がなんで来た?

「それは私の主君ルシウス殿下の"遺志"を守り、夢を遂げる為」


「遺志?」

それと俺になんの関係があるんだ?


「貴方と、貴方の背中の翼の事です」

背中がわずかに脈打つ。


「俺たちとそのルシウスとかいう奴になんの関係もないぞ」

俺が即座に否定すると、男は首を横に振った。


「いえ、そのコアと翼を授けたのは紛れもなくルシウス殿下です」


「......は?」


理解が追いつかない。


「ただ、この場で話をするのも違いますね」

そこで一度、彼は話を切る。

「それに......」

男は視線を上へ向けた。


「レイ、マタヤツラガキテル」


空を裂く7つの影が近づいてきた。

羽監だ。

さっきよりも多い。


隣のテントから彼女が飛び出して来た。

「何が起こってるの?」


重い体を起こし、翼を広げると、感じていなかった痛みが全身に走る。

「レイ様」


男の声は変わらない。

「今はまだ無理をなさらないでください。ここは私が引き受けます」


「お前1人であの人数は無理だろ!」


「ご心配には及びません」

男は微笑む。


「殲滅対象確認!異常個体2名と...あんな奴報告にあったか?」

「あの翼おかしくないか?」

「金色だぞ......」

複数の羽監のざわめく声。


「大丈夫だ、ここは零階層だ!金色の翼がいるはずない」

「魔法爆撃用意!」


「打て!」


その瞬間、指を静かに振り下ろした。

———それだけだった。


空間が歪む。


次の瞬間、7人の羽監は地面にはたき落とされていた。

翼は折れ、地面にうずくまっている。


そこへ、金色の翼がゆっくりと羽監に近づいていく。

そしてまたしても、指を下ろす。

「いやだ、やめてくれ。死にたくな——」

羽監の羽の砕ける音と悲鳴が空喰いの音と共に響き渡る。

男は情けも、慈悲もなく、ただ淡々と排除していた。


そして男は、何事も無かったかのように振り返った。

「まずは上に向かいましょう」


戦慄した。

次元が違う。

これが上層の力。

自分達が苦しんできた羽監を、この男は指を動かすだけで制圧してしまった。


「レイ、今の——?」

彼女は震えながら指を差した。

「ああ」

"敵じゃなくて良かった"と思ってしまった。


「少し手荒ですが時間がありませんので」

エリオットは俺を軽々抱え上げる。

急に持ち上げられて視線が揺れる。


「待って......私も付いて行きたい」

エリオットは一瞬迷い辺りを見回した。

「ここに残していくのも危険ですね」

そう言ってまた軽々とセラを抱え上げた。


「舌を噛まないように」

「キケンサッチ、スリープシマス」

.....え?

危険?


金色の翼が、静かに広がった。

次の瞬間。


――世界が、置いていかれた。


衝撃が来ると思った。

風圧が来ると思った。


だが何も来ない。


音が消えた。

灰が、止まった。


いや、違う。

速すぎて、灰が止まって見える。音を感じる間もなく飛んでいく。

零階層が、一瞬で黒い羽の山が縮んで、もう一つの線に見える。

見ていた景色が、後方へと流れていく。


声が出ない。

空気が重い。


違う。


周りの重力が、外へ逃げている。

速すぎて息ができない。



やっと慣れて来たと思った所で急に男が止まり、心臓が遅れて跳ねた。

「……っ!」


次の瞬間。


景色が変わった。

街と崩れた建物。

灰は薄い。

見慣れない、色のついた景色が目の前に広がった。


「大丈夫ですか?」

何事もなかったような声。

余裕そうな顔に少し苛立ちを覚えた。

「大丈夫な訳......あるか、飛ぶなら飛ぶって言え、彼女なんて白目剥いてるぞ」


男の背中が、ほんのわずかに丸くなる。

「......失礼しました」

その声で初めて、ほんの少しだけ人間味を感じた。


「キドウシマス」

こいつ......わかってて逃げたな?


足が地面に着く。

膝が震える。

時間的にそんなに経っていないはずなのに地面がとても恋しく感じるほどの体験だった。


「それに、ここはどこだ?」

「ここは5階層です」

5階層?

「......は?」

男は静かに言った。

「移動に時間をかけるのは非効率ですので」

化け物かよ。

「まずは、あの街へ行きましょう」


「なあ、お前の事なんて呼べばいい?」

男は振り向いて言った。

「気軽にエリオットと」

金色の羽が、ゆっくり閉じる。

そしてエリオットは街へと歩き始めた。

その背中を見て、初めて理解した。


もう、下層には戻れない。

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