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第一章 第1話 遺志 (後編)

翼の無い、少女?

「ハヤク、タチサレ」


面倒に巻き込まれる。

そう思って、立ち去ろうとした。

その時。

風が吹き、青い髪と青い目が映った。

記憶の中の光と重なる。

気づけば、彼女の手を取り、路地へと走っていた。


少し経って裏の路地へと入って足を止めた。

周りでは羽監が走り回っている音が聞こえる。


彼女のフードを取り顔を見る。

目は生気を失い、頬は痩せこけ、耳には傷があった。

髪の毛や目の形は似ているが......違う。

やっぱり早とちりだったか?

「なんでここに来た、死にたいのか?」

「死にたくない。あの門は......何?」

何も知らないのか?

「死にたくないなら戻れ、翼のない君はここにはいられない」

羽監の足音が近づいてくる。

仕方なく俺は彼女の手を握り、再び走り出した。

息が荒くなっていく、裏路地の狭い道を抜けると薄汚れた地面が途切れ、灰の積もる白い鉄柵が見えてくる。


そして、その先に映るのは、黒い羽の山と崩れた翼、そしてそこに積もる灰。

零階層。

そこは飛べない人間にとって、落ちたら2度と帰れない地獄。


彼女が呟く。

「ここ懐かしい......」


心音が強くなる。

「俺はレイ、君の名前は?」

「わからない」

彼女の視線が揺れる。


「わからない?」

「でも一つ覚えてる」

「何を?」


「上で待ってる人がいる」

その時、頬を生暖かい空気が掠った。


「マズイゾ、レイ」

黙っていたルクスが急に話す。


「何だ?」

「ウカンガ、チカクニイル」

クソ、どこにでも来やがって。

俺はまた彼女の手を握り、その場から立ち去ろうとした。


次の瞬間だった。

目の前に黄色い閃光が広がり、咄嗟に彼女の手を離した。

体の中を火花のような電撃が走る。

その体を内から焼かれるような痛みに、俺は立っていることができず膝から崩れ落ちた。

コツコツと羽監のブーツの音が近づいて来る。

「ニゲロレイ、コロサレルゾ」

逃げようとも体に力が入らない。

「——っ」

髪の毛を掴まれ、鳩尾みぞおちに羽監の膝がめり込んだ。


「おい、こっちだ」

せっかく逃した彼女も、もう1人の羽監に捕まってしまった。

「暴れんな、クソ」

俺は首をつかまれ柵の奥へと乗り出された。

羽監は嘲笑うように言った。

「下を見てみろよ」

下は遠く暗い。

ここで死ぬのか。

やっと、楽になれる。

「面倒事増やしやがってゴミどもが」

羽監はそう言って手を離した。


ゆっくりと落ちていく。

自分も灰となったように、世界が白くなっていく。


その中で懐かしい声が聞こえてきた。

「ねぇレイ、空って青いんだって」

長い髪と青く澄んだ目、大きな翼。

そして無邪気な笑顔。

苦しくて、辛くて、忘れようとした思い出。


「いつかみてみたいな」

この笑顔を守りたかった。

一緒に居たかった。


誰かの声が聞こえる。

「ねえ......起きて.....レイ......」


彼女が手を握り締めている。

気づけば地面に落ちていた。


彼女の声が頭の中に響く。

いや、それだけじゃない。


——やっときてくれた

——ひかり

なんなんだ、これ。

——いたいよ

——助けて

誰かの声?

いや違う、これは羽の音?

そしていきなり彼女の周りの羽が疼いて、浮き上がる。


羽が俺の背中に集まり翼が作られ、

"黒い羽"が"白い翼"に変わっていく。

背中の重みが増していく。

ゆっくり翼を広げると、風が生まれて周りの羽を巻き上げた。


「なんだよ......あの翼......」

遠く離れた上で、羽監が何か話しているのが見える。

「ここで止めなきゃ俺たちの失態になる」

会話は聞こえない。

片方の羽監が降りてきてる?

それにしてもよく見える。

気分もいい。


「レイ、行けるか?」

ルクスの問いに俺は

「もちろん、守るためなら」

そう答えた。

これがあれば、大切な人を守れなかった自分を変えられるかもしれない。


「翼を思い切り動かしてください」

そう言われて俺は、ぎこちなく翼を羽ばたかせた。

一瞬の浮遊感を感じたその時にはもう、灰を巻き上げ、息が詰まるほどの速度で飛んでいた。

「クッソ......息が」

「レイ、前を見てください」


目線を上にやると、もう降りてきた羽監の目の前に迫っている。


俺は、拳を握った。

ただ何も考えず羽を動かし、一直線に向かった。

今、自分ができる最大限の攻撃を、守る意思を右手に込めて。

そっと目を閉じ、拳を振り抜く。

羽監の頭からメリメリと鳴る音と共に拳に鈍い感触だけが伝わる。

「——最下層のクセに......」


俺も、その拍子にバランスを崩して黒い地面に落下した。


そこからは、もうほとんど覚えていない。


うっすらと覚えているのは、いつもより流暢に話すルクスと上層に逃げるもうひとりの羽監、そして倒れた俺に声をかけ続ける彼女の姿だけだった。


目が覚めると俺はテントの中にいた。

目の前には貴族のような服装の人物が目の前に映る

「誰だ?」


胸には20の文字

見たこともないほどの大きな金色の翼

圧倒的なオーラを放っていた。


「お目覚めになられましたか、レイ様」

聞いたこともない丁寧な言葉。

そして、なぜ俺の名を知っているのか、困惑しているところに彼がもう一言放った。


「私はこの国の第二王子、ルシウス殿下の直轄部隊隊長エリオット・グラティスと申します」


零階層の闇の中

物語が動き出す。

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