第4話 友達
「ちょっとそこの1年、止まりなさいよ」
生徒会長からの呼び出しが終わり、教室に戻ろうとしていた夜子に誰かが声をかける。
振り返ると、3人の女子生徒がおり、上履きの色が緑のため2年生だと分かる。
夜子は3人を魔力探知と目視で観察する。
特に危険性は感じないが、見た目は金髪でピアスも付けており、校則違反のオンパレードである。
(この学校にもこういう人っているんだ…)
「ちょっと!聞いてるの!」
「……すみません。何でしょうか?先輩方」
ぼーっとしている夜子に痺れを切らし、女子生徒が大きな声を上げる。
夜子は返事くらいはしようと問いかける。
「あんた、明護様と何の話をしてたの?」
女子生徒は不満気な顔で怒りを込めた声で聞いてくる。
「生徒会長ですか?普通に質問されただけです。この学校はどうだと」
「嘘つくんじゃないわよ!明護様がそんな事で特定の女子生徒を呼び出すわけないでしょ!」
どうやら女子生徒は生徒会長に好意を持っているらしく、珍しく名指しで呼び出された夜子が気に入らないようだ。
夜子もそれを察し、ため息が溢れる。
「何よ!その態度は!」
それが女子生徒の気持ちを逆撫でする。
女子生徒が詰め寄って来たので、夜子は後退。
壁際に追いやられ、壁ドンを喰らう。
「あんた、明護様からちょっと気に入られてるからって調子乗ってんの?」
「別に調子には乗ってません。たった一度呼び出されただけですし」
「たった一度ですって!私なんて、一度だってないわよ!」
何を話しても悪い方向に行くので、さすがの夜子もめんどくさくなる。
「……そもそも、生徒会長ってそんなに魅力的ですかね?」
「はあ?」
「いえ、どちからといえば不気味ですし」
「!あんた─」
つい正直な感想を言うと、女子生徒は右手を大きく振りかぶる。
ビンタの1つで話が終わるなら安いものだと夜子が考えていたその時、
「何してるんですか!先輩達!」
新たに現れた女子生徒が大きな声を上げる。
先輩達はその声に驚き、振り返ると、怒りを顕にした女子生徒に睨まれる。
「寄って集って後輩いじめて、情けないですよ!」
「何ですって!あんたこそ、後輩のくせに─」
「ちょっと優子!あの娘はやめよ……」
主導していた女が反論しようとすると、後ろで立っていただけの先輩が制止する。
それを聞いて先輩達はハッとして振り上げていた右手を下げる。
「ふんっ!今日はこれくらいにしといてあげる!あの娘が来たことに感謝しなさい。この陰キャ!」
そんな捨て台詞を吐いて先輩達は自分達の教室へと帰っていく。
姿が見えなくなったところで助けてくれた女子生徒が夜子に駆け寄る。
「大丈夫!?暗狩さん!」
「……はい。助けていただきありがとうございました」
「当然だよ!だって、クラスメイトなんだもん!」
太陽のような笑顔を向ける女子生徒は、心崎 真咲
魔法協会会長の娘であり、夜子の護衛対象である。
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「全く、あの先輩達、酷い言いがかりだよね!」
真咲に助けられた夜子は自然な流れで二人で教室に戻ることに。
真咲は頬を膨らませながらぷんぷんと怒りを見せる。
「……でもさ、実際どんな呼び出しだったの?」
先輩達に怒りがあるとはいえ、気になるものは気になるのかちょっとした期待の眼差しと共に聞いてくる。
「本当にただの雑談でしたよ。わざわざ呼び出した訳もよく分かりませんでした」
「そっか。まあ、告白って感じの雰囲気ではなかったもんねー」
夜子の回答に対して真咲は追求することなく納得する。
「……あの、どうしてそんなにニコニコしているんですか?」
「え!?そんなに笑ってた!?」
真咲の言葉に対し、夜子は静かに頷く。
「ひゃー!恥ずかしい…!…いやその、クラスでまだ話せてなかったの暗狩さんだけでさ……やっと話せて嬉しかったっていうか…」
学校が始まって1週間でそれだげの交流をしている事に夜子は素直に感心する。
「でも、私と話してて楽しいですか?特別面白くは無いと思うのですが?」
「超楽しいよ!」
自分と話すのが楽しいのかという夜子の疑問に対し、真咲は食い気味に言った。
「暗狩さんって、すっごい静かでさ、何かミステリアスで、横顔すっごい綺麗だし、目の下の泣きぼくろとか本読んでる時に髪が邪魔で耳にかける仕草とか何かエロいし─ハッ!い、今の無しなし!」
凄まじい早口で色々と言った後、真咲は顔を隠して恥ずかしそうにする。
夜子は何を言っているのかよく理解できず首を傾げる。
「と、とにかく!暗狩さんの事、ずっと気になってたの…」
真咲は少し頬を赤らめたまま、ニカッと笑って言う。
その笑顔を見て、夜子の胸の当たりが少し温かく感じた。
(何?今の?)
「そ、それでさ!やっと話す事ができたし、これも何かの縁だと思うし!」
真咲は一歩夜子に近づき、手をギュッと握って、勇気を振り絞って言う。
「私と友達になってください!」
「それはお断りします」
夜子は任務のために、真咲の提案をはっきりと断った。
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『真咲と友達になりなさい』
その日の夜、会長の真弾から夜子に突然電話が来てそう言われる。
「何ですか?突然?」
『さっき真咲から連絡があってね。友達になりたかった子に嫌われたと』
「それがどうして私だと?」
『あんなに可愛い子からの誘いを断れるのは君くらいだろ?』
他にも居るだろうと言いたいところだが、上司に歯向かう気は無いので夜子は黙る。
「……友達になれというのは命令ですか?」
夜子がそう聞くと、電話越しに会長が固まる。
もしこれが命令だと言うならば、夜子も従うつもりだ。
『……いや、命令では無いよ。そもそも、友達というのは誰かに命令されてなるようなものではない』
「それならば、今のままが良いかと。任務についてはバレるリスクだってあります」
任務は絶対にバレないようにとの事だった。
もし距離が近くなれば、夜子といえど何処かでボロが出るかもしれない。
最悪の状況も考えなければならない。
『……確かに、護衛の事だけを考えればそうだね。それなら、君はどう思った?』
「どう、とは?」
『娘を見て、初めて話してみてどう思った?』
そう問われ、夜子は考える。
自分とは住む世界が違う人間で、自分にはない優しさを持っていて、太陽のように明るい笑顔を見せる。
そして、話していると胸の当たりに温かい何かを感じた。
「……太陽のような人、だと思いました」
自分からそんな表現が出た事に言ってから夜子は驚く。
それを察してか、電話越しに会長の笑い声が聞こえてくる。
『太陽、か。もしかしたら、真咲が君の闇を照らしてくれるかもしれないね』
「何の話ですか?」
『いや、何でもないよ』
会長の言っている意味が分からず聞き返すと、会長は少し笑ってからそう言った。
『友達になれとは言わないよ。けれど、真咲と一緒に居れば、君は必ず成長できる。それだけは言っておくよ』
それを最後に電話が切れる。
夜子はデバイスを机に置き、目を瞑る。
真咲は今ベッドに寝転がってゲームをしているが、表情は何処か暗い。
夜子は胸に手を当てて、真咲と話した時に感じた温もりを思い出す。
(……あの温もりはなんだったんだろう。始めて感じた……)
その温もりが何なのか。
夜子はそれを知りたいと思った。
それが自分にとって大切なものに感じたから。
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「はぁ〜……」
夜子にフラれた翌日、真咲は階段に座り込み、ため息をついていた。
クラスメイト達には明るく振る舞いながらも、何処か上の空で、その理由は、昨日、夜子に対しての自分の態度を思い出してのものだった。
(そりゃーいきなりあんな風に言われたら引かれるって…昨日の私キモすぎる…)
思い出すだけで気分が落ちる。
「はぁ〜…昨日のあの時間に戻りたい……」
「……大丈夫ですか?」
「へ?……うわぁ!?」
話しかけられて真咲が顔を上げると、そこには夜子が居て、真咲の顔を覗き込んでいた。
真咲は思わず仰け反る。
「お、おはよう!?暗狩さん……」
「おはようございます」
真咲は少し気まずさを感じているが、夜子から一切感じない。
「お隣、よろしいですか?」
「え!?あ、どうぞどうぞ!」
真咲の許可がおりると、夜子は隣に腰かける。
夜子からふわりと香る何かの匂いが真咲の鼻腔をくすぐる。
「あの、昨日はすみません。せっかくのお誘いをお断りして」
「へ!?いやいや!私の方こそごめん!急にあんな風に言われたら気持ち悪いよね……」
「いえ。別に気持ち悪いとは思いませんでした」
「え?あ、そう?」
てっきり引かれているからと思っていた真咲は、夜子の回答に拍子抜けする。
そんな真咲に夜子は続ける。
「私、今まで友達とか居なかったので、それがどういうものなのか分からなくて。あれから色々と考えたのですが」
そこまで言って、夜子は真咲の方を見る。
黒く美しい瞳が真咲を見つめ、真咲はドキッとする。
よく見ると、夜子の目には光がなく、真咲の姿が写ってはいない。
それでも、その瞳からは優しさを感じる。
そんな真咲の動揺を無視して、夜子はさらに真咲の手をギュッと握る。
昨日、真咲が夜子にしたように。
「……私を友達にしていただけませんか?」
「え?」
「他の皆様のように楽しい話はできませんし、愛想もありませんが、真咲さんが良ければ友達になってみたいなと思いました。それとも、やはり私では─」
夜子が続けようとした時、真咲は夜子にガバッと抱きつく。
あまりの勢いに、夜子は倒れ込み、真咲が夜子を押し倒しているような体勢になる。
「あの、真咲さん?」
「……本当に?本当に友達になってくれるの?」
「はい。こんな私で良ければ」
「ん〜!やったー!」
夜子が改めて言うと、真咲は大声でそう叫ぶ。
「本当に良かった〜嫌われちゃったかと思ってた〜」
「そうなんですか?すみません、やはり私が失礼な態度を─」
「あ!違う違う!私が勝手に空回りしてただけ!」
真咲は慌てて訂正し、夜子の手をギュッと握り返す。
「何はともあれ、これからよろしくね!夜子ちゃん!」
「……はい。よろしくお願いします」
真咲の笑顔を見て、夜子は胸にまたあの温もりを感じる。
この温もりが何なのか、夜子が知る日は遠くない未来に訪れるだろう。
こうして夜子は、護衛対象である会長の娘、心崎 真咲と友達になった。
夜子にとっては、人生で初めての友達である。




