第3話 生徒会長 明護 朝陽
生徒会長の朝陽に呼び出された夜子は、言われるがまま彼の後ろをついて行く。
総理大臣の息子であり、現生徒会長と地味で目立たない女子生徒が呼び出されているという状況に、周囲の生徒からは好奇の目に晒される。
「ふむ、もう少しひと気のない所へ行こうか」
そんな視線を察知してか朝陽がそう提案する。
それを断る理由は無いので、夜子は静かに首を縦に振る。
近くの階段を上がっていき、屋上へと繋がる大きな扉の前に来る。
魔法で鍵がかけられていたが、朝陽が鍵をポケットから取り出して開ける。
扉が開いた瞬間、外の風がブワッと吹く。
「どうだい?屋上に入った気分は?本来は封鎖されているんだけど、理事長に無理言って鍵を預かってるんだ。すごいだろ?」
朝陽は両腕を大きく広げて夜子の方を向いて言う。
その笑顔は子供のように無邪気に見える。
「学校の屋上に入るなんてすごいよね!まるで昔の漫画みたいだよ!」
漫画の例えが出てきたが、生憎と夜子はその手の本は読んでおらず、あまり理解できなかった。
「……あの、私を呼び出した理由は何ですか?屋上に連れてくるため、ではないですよね?」
夜子は朝陽に催促する。
任務の都合上、目立つ生徒会長と長く居たくないという理由もあるが、一番の訳は、
(……やっぱりこの人、全く気配がない)
視覚では存在を確認できるのに、魔力探知では一切気配を感じない。
そこに居るのに、そこに居ない。
その矛盾の気持ち悪さで居心地が悪い。
「呼び出した訳、ね……心当たりあるんじゃないかい?」
朝陽の無邪気な笑顔は一瞬でなりを潜め、冷たい視線が夜子を射抜く。
「一切ありませんね」
それでも夜子は一切怯むことなく答える。
「そうか……なら聞くが、昨日の夜の12時頃、君は何をしていた?」
「自室で本を読んでいました。眠る前に読むのが日課なので」
夜子の反応を見て何かを探ろうとしている朝陽だが、夜子の表情が変わることはない。
朝陽はさらに畳み掛ける。
「本を読んでいた、か。では何故、昨夜の12時頃に君と全く同じ体型の少女が中庭のテーブルに座っていたのかな?」
「何の話でしょうか?」
「僕は昨晩、生徒会長としての仕事が立て込んでいてね。自室でそれをしていたんだけど、ふと窓から中庭を見るとね、テーブルに一人の少女が座っていたんだよ」
「それが私だと言いたいんですか?さすがにそれは言いがかりかと。私と同じくらいの体型の人なんてたくさん居ます」
夜子の身長は155cmで、ロングの黒髪だ。
メガネをかけてはいるが、あの暗い夜ではそこまでは分からない。
シルエットだけ見れば学校に数え切れない程存在する。
「普通ならそうだね。けれど、僕は目がすごく良くてね。一度見た人間はどれだけ顔が見えなくとも判別できる。そしてそれに絶対的な自信がある。昨日のあれは間違いなく君だった」
朝陽は夜子の周りを腕を後ろにしてくるくると回る。
自分に間違いはないと言っているように。
「……例えばですがその誰かが私だったとして、そこまで大きな問題が?確かに消灯時間を過ぎて外に居たのは問題ですが、生徒会長が出てくるような事でしょうか?」
「大問題さ。なぜなら、同じ時間に数分間、寮内の防犯結界が解除されていたからね。その犯人の可能性がある」
どうやら襲撃者2人の姿は確認していないようで、結界が解除された事に疑念を持っている。
解除されていたのは3分にも満たない。
根回しをして消えていたという事実は削除済み。
それでもその事実を知っているというのは、あの解除された瞬間を目撃していた事以外ありえない。
偶然見られてしまったのか、それとも……
「それじゃあ、改めて聞こうか。昨日の夜、君はどこで何を─」
「証明できますか?」
朝陽の言葉を遮り、夜子は淡々と告げる。
「言っただろ?僕はこの目に─」
「会長がご自身の目に自信があるのは分かりました。では、その目以外でその何者かが私だと証明できますか?その目しかないのでしたら、私だという証明にはなりません。それとも、」
夜子は少し目を細め、わざと殺気を漏らす。
「その目をくり抜いて皆に言って回りますか?これが私であるという証明だと」
「……確かに、この目以外に証明はないね。あと、くり抜いて見せたって、焼き付けたものを映像で見れるわけではないよ」
朝陽は夜子から二歩下がり、パッと両手を上げる。
「ごめんね。圧をかけてしまって。今回は僕の勘違いだったみたいだ。でも、消灯時間は11時だから、夜更かしはしないように」
「すみませんでした。以後気をつけます」
「よし!じゃあ戻っていいよ。本当にごめんね?」
「いえ。疑いが晴れて何よりです。失礼致します」
夜子は深々とお辞儀をして屋上を出る。
閉まった扉の方を振り返り、先程の朝陽とのやり取りを思い出す。
(……やっぱり、あの人は要注意人物)
夜子は改めて朝陽と殺気に反応したもう一人を自身の中の警戒リストに加えた。
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「ふぅ…もう出てきていいよ」
夜子が屋上を去った後、朝陽が一息ついてそう呼ぶと、赤い髪の少年が姿を現す。
「君の目にはどう写った?灯広」
生徒会副会長であり、朝陽の護衛兼側近の篝火 灯広に朝陽は意見を求める。
灯広は少し考える素振りを見せて答える。
「……正直な感想を言いますと、何も分からない、ですかね」
「何も?あれだけ話したのに?」
「恥ずかしながら……不気味な者にも見えなくはないですが、警戒心の強い普通の女子生徒にも見えます。途中放った殺気も、絶妙に判断しづらいレベルで……」
灯広は反応してしまった微力な殺気を思い出す。
警戒心が強い生徒であれば、出さなくもないレベルであり、断定は難しい。
「灯広に見てもらってもそうなら仕方ない。今回は諦めようかな」
「今回は?今後も調査を続けると?」
「まあね。個人的に彼女に興味ができた」
朝陽は親指と人差し指を顎に当てながらニヤリと笑って言った。




