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暗狩夜子の魔法録  作者: おおあし


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3/3

第2話 始まる学校生活

入学式を終え、教室の前に到着する。

扉の上には1年B組の札があり、教室の中からはいくつかの話声が聞こえてくる。

扉を開けて入ると、同じ年頃の男女が30人程居て、既にグループができているのか連絡先の交換をしている者もいる。

その中から夜子は会長の娘、つまりは護衛対象を視認する。

どうやら任務をスムーズに行えるよう同じクラスに配属されたようだ。

教卓の前の黒板に座席の場所と名前が記されているのを見て、夜子は自分の席に向かう。



 (黒板って、まだあるんだ)




今の時代、授業はタブレットやスクリーンで行うのが当たり前と聞いていたため、黒板を使う事に驚く。

教科書やノートも配布されており、古き時代の文化が残されている。

そこに気品を感じるのか、この天正高校(旧慶応義塾高校)には会長の娘以外にも国を支える者たちの子供が通っている。

夜子がクラスを見回しても、某車メーカーの御曹司や世界でも活躍しているアーティストの娘など聞けば誰もが知っている者ばかりだ。

夜子は教室内にいるクラスメイト全員の顔と名前を記憶していく。



 「おはよう!今日からよろしくね!」



そんな夜子に前の席に座った女の子が挨拶をしてくる。



 「……はい。よろしくお願いします」



挨拶よりも記憶する事が大事な夜子は顔を向ける事もなく答える。

その反応に前の席に座った女の子は困惑し、夜子から体を背け隣の席の子に話しかけていた。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



初日のホームルームが終わると、夜子はすぐには帰らず、本を読み始める。

初日ということもあり、他の生徒は互いに自己紹介をして交流を広めようとしている。

会長の娘もその1人で、彼女が寮の部屋に帰るまで夜子は見守る予定である。

しばらくすると彼女が教室を出て帰路に着く。

天正高校では基本的に外出には許可が必要なため、初日である今日は寮にまっすぐ帰るしか選択肢がない。

夜子は目を瞑り、彼女の魔力を追う。

仲良くなった友人達とまっすぐ寮に帰った事を確認し、夜子も席を立つ。

その頃にはクラスメイトは全員帰っていて、夜子が最後の一人になっていた。

鍵をかけて職員室に届け終えると、夜子は寮に戻らず学校内を歩き回る。

教室の数や階段の数、どこを通ればどこに繋がるのかなど全て把握するためだ。

どこで何が起きようと対処できるように。



 「!?」


 「おっと!」



しばらく歩いていると、曲がり角で誰かとぶつかってしまう。

後ろに倒れそうになった夜子だったが、ぶつかった男子生徒がそれを支える。



 「ごめん!大丈夫?」



男子生徒は心配そうな表情を浮かべながら夜子に聞く。



 「……はい。問題ありません」


 「そう?なら良かった!本当にごめんね!」



夜子が淡々と答えた後、男子生徒は謝罪を口にしてその場を後にした。

その後ろ姿を見て、夜子は呟く。



 「……明護 朝陽(あけもり あさひ)



夜子とぶつかった男子生徒の名は、明護 朝陽

現総理大臣の次男坊にして、天正高校の生徒会長を務める男だ。

入学式で代表挨拶をしていたため、夜子は既に記憶していた。

この高校であれば、総理大臣の息子が通っていても驚きはない。

それよりも、



 (……あの人、全く気配がしなかった)



夜子は常に魔力で気配を探知し続けている。

そのため、今も会長の娘が部屋で何をしているのかなどを魔力の動きで細かく把握し続けている。

だからこそ、人が近づいてくれば気配に気づき、隠れることも可能で、ましてやぶつかる事などありえない。

それなのに、生徒会長とはぶつかった。

それは、夜子の探知に気配が引っかからなかったという事。



 (……要注意人物)



夜子は生徒会長をそう判断し、自分の中のリストに入れた。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



学校が始まって一週間、早くも夜子の1日の動きがルーティン化してきていた。

朝はなるべく早く登校し、会長の娘よりも早く席に着く。

本を読みながら魔力探知を行い、会長の娘が朝起きてから登校してくるまでの状況を常に把握、学校内では目に見える範囲で常に行動する。

気付かれないよう気配を極限まで薄めながら。

学校が終われば図書室に移動して本を読みながらまた魔力探知を行う。

移動するのは、何もないのに教室に最後まで残っていれば不審だからと学んだためだ。

娘が部屋に戻ったのを確認すれば、図書室を出て自身も帰路に着く。

その繰り返しである。

()()()()()()()()ため、初日のように学校を巡回する必要はない。

今日もこのルーティンで1日を終える予定だったが、登校する時間に異変に気づく。



 (昨日までなかった気配が2つ……)



寮を出て徒歩2分にある校門の前、そこで清掃員の格好をした男2人に変化があった。

毎朝校門掃除や中庭の手入れをしている専属の清掃員。

その2人から昨日までは感じなかった殺気を感じる。



 (……別の誰かに変わってる)



夜子は登校しながらその2人を目視でも確認。

いつも清掃服と帽子を被っているため一般生徒は気づくことができないが、魔力で探知する夜子には見抜けるレベルである。

狙いが会長の娘かどうかは不明なため、一度泳がす意味も込めて夜子はスルー。

教室に向かった。


授業中も2人の気配を探知し続けていると、妙な動きがいくつも出てくる。

普段清掃員が行かないような寮への道を掃除していたり、寮側の中庭の手入れも行っていた。

明らかな視察。

その内の1人が女子寮の方へと向かった時点で夜子は確信する。



 (もう刺客が来た…)



黒板に書き出されている数学の公式を写しながら夜子は今晩の事を考え始めた。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 「……よし、誰もいないな」


 「ああ。問題ない」



日付が変わった頃、刑事のような格好をした男2人が天正高校女子寮の前でヒソヒソと話している。

2人の男はスタンガンのような形をした魔道具を取り出し、それを寮の門に当てる。



 「本当にこんなので入れるのか?」


 「()の話じゃ、この魔道具は結界を一時的にオフにするらしい。この寮の結界は相当なものだが……どうやら嘘ではないみたいだ」



男が門の格子の隙間に手を入れているが、結果は反応しない。

魔法が発展した今、寮の外では防犯カメラの設置もない。



 「魔道具の効果は10分程度だが、それだけあれば高校生の一人くらい殺せる。さっさと行くぞ」


 「ああ。それにしても、何かこの辺空気悪くないか?頭も痛くなってきたし……」


 「確かにな……俺も手が少し震えてるな……武者震いってやつか……」



そんな事を言いながら、男2人は昼間の視察通り寮の中に侵入し、迷うことなく女子寮へと向かう。

ターゲットの魔法協会会長の娘の部屋は3階の角部屋、その窓の裏手に身を潜める。



 「ここから行けるか?」


 「ふっ!任せろ。俺の魔法なら届く!」



そう言って1人が銃を構えたその時、

ドサッ



 「!?おい!どうした!?」



銃を構えた男が突然倒れた。

よく見ると足元から体黒く染まっている。



 「くそっ!?何が起きてる!?」



動揺する男の後ろから、何か物音が聞こえる。

何かを飲んでいるような音だ。

男は振り返り、銃を構える。



 「誰だ!?」



暗闇に慣れてきた目がそこに居る何者かを視認するが顔は見えない。

その何者かは喪服を着ていて、くまのマグカップで何かを飲んでいる。



 「中庭では紅茶を飲んでいる人をよく見かけますが、やはり私はコーヒー派ですね」


 「お前は誰だと聞いているんだ!」



男に甲高い声が聞こえ、何者かが女であると理解する。

同時に安堵する。

女であれば勝てると思ったからだ。

しかし、

ガシャッ



 「な、なんだ!?手に力が……」



男は急に力が抜けて銃を地面に落とす。

もう一度拾おうとするも握る事ができない。



 「くっ!?今度は足が!?」



手の次に足も同様に力が抜け、片膝をつく。



 「……お前がやっているのか?」



その問いかけに回答は返ってこない。



 「ちっ!」



不利だと確信した男は力を振り絞り、どうにか立ち上がり走る。

仕切り直しのための逃走、それを女が追う様子はない。



 (とにかく、ここは退く!もしこれがテリトリー系の魔法なら、寮を出れば解除されるはずだ!)



男は走り、ついに寮の校門を抜ける。

そのまま走り、学校の門まで辿り着く。



 「よし。ここまで来れ、ば……」



そこで、男は膝から崩れて倒れ込む。



 「な、何で……テリトリーの魔法の範囲は精々50mとかだろ!?」



女は追ってきておらず、寮の敷地からも出たはずなのに、男の体には力が入らない。



 「それとも、テリトリー系の魔法じゃないのか!?」


 「いいえ。これは私のテリトリー魔法ですよ」



男が焦る中、寮の中庭で女が独り語る。



 「単純な事です。まだあなたが、私のテリトリーから出ていないだけです」


 「くそっ!何で力が入らない!?」



男は立ち上がろうともがくが、先程のように上手く行かない。

そして手の震えが強くなっていることにも気づく。



 「あなたの手の震えは武者震いではなく、魔力欠乏。所謂貧血です」


 「な、何で手が震えて…何か、頭もぼんやりと……」


 「人間にとって魔力とは血液と同じ。人によって量も型も違う。体内から魔力が減りすぎれば、貧血と似たような症状を起こすのです」


 「ここは魔法で切り抜けて……くそっ!何で魔法が出ないんだ!」


 「私のテリトリー〈暗闇の鳥籠〉は、私が定めたテリトリー内の任意の人から魔力と体力を吸収できるのです」



女の語りは当然男に届かず、男の足元が黒く染まり始める。



 「い、嫌だ!?こんな所で終われない!俺は警察の威厳を示すまで死ねない!親父の無念を晴らすんだ!この世の正義のため、に……」


 「そして、約10万坪。天正高校の敷地の全てが私のテリトリーであり、あなた達お2人の鳥籠です」



独り語り終えると、夜子は飲んでいたコーヒーの最後の一口を口にした。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



初日に学校内の敷地全てに自身の魔力を充満させ、自身のテリトリーして運用できるように夜子は準備を終えていた。

そのため、今回のような襲撃も難なく対処可能となった。

寮に転がったままだった男を校門前に運び、2人まとめて拘束する。



 「私です。早速襲撃がありました。対処済ですので、処理をお願いします」



近くの支部に控えている回収班に連絡し、今日の仕事は終わりとなる。

黒くなった男を見て、夜子はつぶやく。



 「……あなたのお父さん、警察官だったそうですね」



犯人については、襲撃前にある程度の調べは付いていた。

今回の犯人は警察組織の解体により、父親が職を失い家庭崩壊が起こったそうだ。

その復讐のために、元凶である魔法協会会長の娘を殺そうとした。



 「……復讐する時間があったなら、一人でも多くの人を助けるべきでしたね。正義のためと言いますが、女子高生を殺すような正義は、今の日本にはありませんよ」



それだけ言って、夜子は寮へと戻って行った。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



翌日、いつものように登校すると、何も変わらない日常になっていた。

昨日の夜に襲撃があった事など知るはずもない会長の娘は笑顔で友人達と談笑している。

その姿を見て夜子が特に思う事はない。

いつも通り、本に目を落としていると、廊下がざわつき始める。

そのざわつきはどんどん大きくなり、夜子の居る教室の扉が開かれた。



 「暗狩 夜子さんって居るかな?」



透き通った甘い声が教室内に響く。

まさかの名指しにざわつきはさらに大きくなる。

スっと手を挙げて質問に応える。



 「はい。私です」


 「少し話があるんだけど、いいかな?」



夜子の姿を確認した甘い声の男、生徒会長である明護 朝陽はそう言った。

解説

テリトリー系魔法:自身の魔力範囲に入ったものを任意で攻撃する魔法。

普通の魔導師は精々50mだが、七大魔王レベルだと数万mにも及ぶ。

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