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暗狩夜子の魔法録  作者: おおあし


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第1話 暗狩夜子

 「暴漢の捕獲、お疲れ様!夜子君!」



魔法協会本部 会長室

長期任務を終えて帰ってきた暗狩 夜子(くらがり よるこ)は魔法協会会長の心崎 真弾(しんざきはずま)から労いの言葉を受ける。



 「それにしても、長期任務終わりによく捕まえたね」


 「ちょうど通りかかっただけなので」



真弾の言葉に夜子は表情を変えることなく事務的に答える。

真弾の秘書が2人にお茶を差し出し、それを1口飲む。



 「任務の方も滞りなく終わりました」


 「さすが、史上最年少の[七大魔王]だね。仕事が早くて助かるよ」


 「あとこれ、お土産です」


 「お土産?」


 「はい。沖縄名産の冷凍タコライスです」



夜子はお土産を真弾に手渡した。



 「……夜子君、密輸犯を捕まえに行ったんだよね?」


 「はい。なのでお土産です」



夜子の変わらぬ態度に真弾はツッコムのをやめた。



 「それで、ここに呼び出した訳はなんですか?」


 「お!そうだったそうだった!」



真弾はお土産を秘書に渡し、咳払いをして改める。

長期任務を終えたばかりの夜子を呼んだ理由。

会長の真剣な表情に夜子も姿勢を正す。



 「夜子君……高校生になりなさい!」


 「……はい?」



会長の言葉に夜子は首を傾げた。



 「すまない、言葉が足りなかった。一から説明するよ」



会長は立ち上がり、夜子に1枚の写真を手渡す。



 「この人は?」


 

写真には女の子が写っており、輝く笑顔を見せている。



 「その子は、私の娘だ。娘はこの4月から晴れて高校生になるんだが、私の娘という立場だからね。この子の護衛を君に頼みたいんだ」



夜子への依頼をまとめると、

会長の娘はこの春から高校生になる。

その高校は全寮制で、家を出ることになっている。

魔法協会会長の娘という立場、今までも危険が何度かあり、その度に陰で守り続けてきた。

しかし、全寮制の隔離された学校の中で会長の部下が四六時中傍で守り続けるのは厳しい。

そこで、同い年で実績もある夜子に白羽の矢が立ったのだ。



 「君の新たな任務は、僕の娘の3年間の高校生活を陰ながら傍で守って欲しいというものだ」


 「3年、ですか…?」



夜子が今までこなしてきた長期任務の中でも最長、そして何より、学校に行ったことがない夜子にとっては想像もできない世界だ。



 「……私に務まりますか?」


 「君以外には務まらん。何せ君は、この世で最も強い16歳の女の子なのだから」


 「……会長がそう言うなら、分かりました。この任務暗狩 夜子が務めさせていただきます」



夜子は立ち上がり、会長に深くお辞儀をする。

引き受けてくれた事に安堵し、会長もにっこりと笑う。



 「入学手続きや必要物資の調達は当然、こちらが準備するよ。夜子君はその日まで初めての学校に胸を昂らせておきなさい」


 「はあ?分かりました?」



任務とはいえ、初めて学校という場所に通う事になった夜子だが、気持ちに大きな変化はなかった。



 「それと、この任務は陰ながら、だ。くれぐれも娘にはバレないように」


 「承知しました」



話は終わり、夜子は会長室を後にしようとし、

扉の前で一度立ち止まる。



 「そういえば」


 「ん?どうかしたかな?」



夜子は言い忘れた事を言うために、真弾の方を振り向く。



 「会長、私の事16歳って言いましたけど、私早生まれなのでまだ15歳です」


 「え?あ、うん」



夜子はそう言い残し、表情一つ変える事なく会長室を後にした。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 「どうぞ」


 「ありがとう」



夜子が去った会長室で、秘書が真弾にお茶を出す。

真弾はお茶を飲みながら魔導師達の報告書に目を落とす。



 「一つ、お聞きしてもよろしいですか?」


 「いいよ。なんだい?」


 「ご息女の護衛、何故彼女なんですか?」


 「さっきも言っただろ?彼女には大事な娘を任せられると思える実績があるんだ」


 「それは分かりますが、会長であればもっと上手くやれそうな気がするのです。彼女でなければならない理由でもあるのかと思いまして…」



真弾は心の中で秘書に拍手を送る。

国力とも呼ばれる魔導師、その長の秘書は感覚も鋭い。

そこに敬意を込めて、真弾は話し始める。



 「……そうだね。実績あってなのはもちろんだけど、僕は彼女に知って欲しかったんだよ」


 「何をですか?」


 「……魔法以外の楽しみをだよ」


 「と言うと?」


 「あの子はね、生まれてからずっと魔法の事しかやってこなかった。学校にも通わず、ただひたすら魔法だけを求め続けた。その結果、実績を認められ[七大魔王]に上り詰めた」


 「それは、とても素晴らしい事なのでは?」



誰もが認めるその実力と功績は誇らしいものだ。

それなのに、真弾は少し寂しそうに話した。

秘書もそれを不思議に思い、首を傾げる。



 「そうだね……でも、彼女はまだ子供だ。学校に行って、友達を作って、恋をして、それが当たり前で、そうでなくてはならない。そういう年頃なんだよ」



魔法しか知らず、魔法に囚われた少女。

感情さえもほとんど知ることなく生きてきた。



 「そんな普通の生活を知って欲しかった。だから僕は、娘の護衛に彼女を選んだんだ」



そう言って扉を見つめる真弾の表情はまるで我が子を思う親のようだった。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



4月7日

始まりの季節

とある高校では入学式が行われる日で、新入生の子供達は期待を胸に桜舞い散る道を歩く。

そんな中、夜子はメガネをクイッと上げて、校門前に立つ。



 (……これが学校)



会長の娘の護衛

その仕事で初めての学校に通う。

それでも、夜子の感情に変化は無い。

周りを見渡すと、自分と同年代の子供ばかりだが、表情を見るだけで、自分とは違う世界て生きてきたのだと実感する。

ざっと周囲の確認を終え、夜子は正面を向く。



 (……任務、開始)



夜子は一歩踏み出し、学校に足を踏み入れた。

ここから、暗狩 夜子の魔法録が幕を開ける。

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