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世界を救った代償に存在を消された盲目の魔術師、黒猫と静かに世界を直していたら「第二の魔王」に認定されました【毎日更新中】  作者: ミロク
第2章 琥珀氷の黄昏郷

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飢えた怪物に、「太陽」を

放たれた黒雷が怪物を穿ちますが、そこからが絶望の始まりでした。

体温さえも吸い尽くす「吸熱フィールド」に対し、ノアが繰り出した前代未聞の「逆転撃」をお楽しみください。


世界が——黒く、光った。


 矛盾した表現だと思うけれど、それ以外に言いようがない。


 僕の指先から放たれた雷は——黒かった。


 闇を纏った稲妻。


 漆黒の光を帯びた一条の雷撃が、冷気のブレスを正面から貫いた。


 ブレスが——裂けた。


 白い冷気の奔流が左右に割れ、その裂け目を黒い雷が一直線に駆け抜けていく。


 ウェンディゴの胸に、着弾。


 骨でできた装甲が砕ける轟音。


 氷の破片が四散する。


「——ギィッ!!」


 怪物が、初めて苦痛の声を上げた。


「直撃、胸部の氷甲が一部崩壊。——でもまだ浅いわ、あの仔の檻まで届いてない」


 シオンの声は冷静だ。


 分かってる。


 一撃で終わるような相手じゃない。


 何しろ一年間、太陽の神獣の熱を吸い続けてきた怪物だ。


 溜め込んだエネルギーの総量が、桁違いなのだ。


「次いきますね」


「——来るわ、怒ったみたい。前脚、同時叩きつけ!」


 ウェンディゴの両前脚が同時に振り上げられる。


 さっきの単発とは比べものにならない殺意。


 ——でも。


「左に一歩、半身。——そこで止まって」


 シオンの声に従う。


 一歩だけ左に。


 ウェンディゴの左前脚が、僕の右肩を掠める距離で地面を砕く。


 右前脚は——三十センチ先の床を粉砕している。


 当たっていない。


 シオンのナビゲートは、ミリ単位で僕を生かしている。


「ありがとうございます、シオン」


「お礼は後! ——今、両脚が地面にめり込んで引き抜けてない。三秒ある!」


 三秒。


 僕には、それで十分。


 今度は左手。


 空気中の「炎の糸」を、掻き集める。


 この空間は異常なほど冷たいいけれど、冷たいということは、熱が移動した痕跡があるということだ。


 ウェンディゴに吸われ、空間に放出された後の余熱。


 移動中の熱を、横取りする。


 指先に、じわりと温度が灯る。


 一本。


 三本。


 十本。


 百本——。


 集めた炎の糸を、右手で螺旋状に撚り合わせる。


 圧縮して。


 さらに、圧縮して。


 もう一息——。


 ——い。


 リンッ。


 二度目の鈴の音。


 今度は——熱かった。


 僕の指先から生まれた炎は、竜巻の形をしていた。


 渦を巻きながら天蓋に向かって立ち昇り、時計塔の最上階を丸ごと朱金の光で満たす。


 炎の嵐。


 塔の壁に張りついていた氷が、蒸発する悲鳴を上げて溶けていく。


「——ギャアアアアアアッ!!」


 怪物が暴れる。


 尾が横薙ぎに振られ——僕は頭を下げてやり過ごし——次の瞬間にはもう、三本目の糸に手を伸ばしていた。


 雷。


 炎。


 次は——。


「ノア、ウェンディゴが後退してる、一四メートル。胸部の氷甲がさらに剥離してきた——あの仔の檻が、少しだけ見え始めてるわ」


 シオンの声に、期待が混じる。


 もう少し。


 もう少しだ。


「……あの頃は、こういう戦い方、あんまり好きじゃなかったんですけどねぇ」


 ルークたちがいた頃、僕の仕事は後方で糸をほどくことだった。


 ガルドさんが盾で守ってくれて、セシリアが聖歌を歌って。


 ルークが前に出て斬り込んで。


 僕はその裏で、静かに、敵の弱点を見つけてほどくだけ。


 派手な攻撃は必要なかった。


 三人が、いたから。


「でも今は——こうするしかないみたいです」


 右手に「風」。


 左手に「雷」。


 これは、かつて魔王との決戦でルークの聖剣に纏わせた術。


 黒い雷を風の刃で加速させて、音すら置き去りにする一閃。


 ルークが「お前の指先で俺の剣が化け物になるな」と苦笑いしていた魔術。


 剣があろうとなかろうと、やることは同じだ。


「シオン、位置」


「正面一二メートル、胸部。——あの仔の檻の三メートル右上に装甲の亀裂がある、そこを狙って」


「了解」


 ——い。


 リンッ。


 三度目の鈴の音は、今までで一番、澄んでいた。


 風の刃に乗せた黒雷が——空気を切り裂いて、亀裂に吸い込まれていく。


 着弾の衝撃で、ウェンディゴの体が大きく仰け反った。


 骨でできた肋骨の一部が吹き飛び——中から、琥珀色の光が漏れ出す。


「——見えたわ!」


 シオンの声が跳ねた。


「あの仔よ! 氷の檻の中で丸くなってる! まだ——まだ息がある!」


 生きてる。


 よかった。


 僕の口元が緩む。


 あと少しで——。


「——っ! ノア、下がって!!」


 シオンが叫ぶ。


 ウェンディゴの体内の糸が——変質した。


 今まで「冷気を吐き出す」だけだった回路が、逆転し——周囲の熱を吸い込み始める。


 僕の体温さえ。


「ノア! あいつ今まで防御に回してた力を全部解放してる——吸熱フィールドよ! このままじゃあなたの体温が——!」


 温度が、落ちていく。


 指先から、つま先から。


 じわじわと、確実に。


 呼吸が、白い。


 意識の端が、うっすらと暗くなっていく。


 寒い。


 寒い。


 これは——まずい。


 このフィールドの中では、指が動かなくなれば終わる。


 肩の上で、シオンの体も震えている。


「ノア……」


「……大丈夫ですよ」


 声が掠れていた。


 唇が上手く動かない。


 でも。


 ウェンディゴの胸の奥から——まだ、あの声が聞こえている。


 『……さむい……だれか……』


 あの子は、僕よりずっと長い間、この寒さの中にいたのだ。


 それに比べたら、僕の寒さなんて。


 僕は、凍えかけた右手を——もう一度、持ち上げる。


「……シオン」


「——なに」


「一つ、試したいことがあります。この怪物が吸い込んでいるのは『熱』です」


「それは見れば分かるわ」


「なら——『吸い込ませて』あげたら、どうなると思います?」


 シオンが、息を呑んだ。


「ノア、あなた——まさか」


「限界を超える量の熱を、一気に流し込む。器の容量を超えれば——あふれる」


 僕は笑う。


 凍えた唇で、無理やりに。


「ちょうどいい熱源が、あそこにいるじゃないですか」


 太陽の仔の熱を解放して、怪物に逆流させる。


 檻の中の太陽を、爆発させる。


 それはあの子を救う手段であり——同時に、この怪物を内側から打ち砕く一手。


 問題はあと何秒、この凍えた指先が動いてくれるか。


「……もう少しだけ」


 僕は、最後の糸を、紡ぎ始めていた。


 極限まで体温を奪われ、絶体絶命の窮地。

 そんな中で現れる、ノアの「規格外の解決策」。

 あの子を助けるための情熱が、冷え切った塔を一気に灼熱へと変える、逆転の瞬間を描いていきたいと思います。


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