表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【休載中】世界を救った代償に存在を消された盲目の【最強】魔術師、黒猫と静かに世界を直していたら「第二の魔王」に【勘違い】認定されました  作者: ミロク
第4章 咆哮の峰ヴォルグと孤独の黄金宮殿

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
105/105

泥の影と、三つ巴の夜

 一触即発の戦場に、突如として数千年前の記憶と同じ「泥の匂い」を持つ男が現れます。

 勇者、獣人、そして悪魔の三つ巴の戦いが幕を開けます。

 その時だった。



 空気が——腐った。


 砂漠の温かい風が、一瞬にして凍りつき、泥のように重く、澱んだものに変わった。


 僕の全身の理の糸が、同時に悲鳴を上げた。


 知っている。


 この匂いを。


 ほんの数刻前に——セトの記憶の奥底で嗅いだ、あの匂い。


 泥のような、黒い、澱んだ匂い。世界の理そのものが腐って溶け出したような——嫌な、嫌な匂い。


「——ノア!」


 シオンが叫んだ。


「上よ! 空から来る——!」


 頭上の空気が裂けた。


 音がない。風もない。ただ、理の糸が空間ごと引きちぎられるような、暴力的な断裂が——真上から降ってきた。


 ドスンさんが反応した。


 僕を覆うように体を広げ、最大厚の盾に変形する。金属が軋む音。


衝撃。


ドスンさんの盾ごと、僕は砂の上を吹き飛ばされた。


フクの悲鳴。レオンの咆哮。ガルドが盾を構え直す轟音。セシリアの詠唱が空気を震わせる。


そして——着地音。


砂の上に、何かが降り立った。


音はない。足音もない。まるで影が地面に落ちるように、ただそこに「在った」。


僕の理の糸が——その存在を拒絶した。


読めない。


糸が、見えない。


いや、違う。糸がないのではない。糸が——腐っている。生きた理の糸ではなく、死んで崩れかけた理の残骸が、人の形をして立っている。


セトの記憶の中にいた、あの男と同じ。


「やあ」


声が聞こえた。


明るい。軽い。まるで友人に挨拶するような、気さくな声。


けれどその声の下に——底知れない虚無が、口を開けて笑っている。


「いい夜だね。砂漠に音が戻ったばかりで——ちょうど、宴会の片付け時かな?」


誰も答えない。


全員が——勇者も、獣人も、僕たちも——凍りついていた。


その存在が放つ「気配」が、あまりにも異質だったからだ。


人間の気配ではない。獣の気配でもない。特異点の歪みとも違う。


もっと根源的な——世界の構造そのものに穴を開けているような、冒涜的な存在感。


「おっと、固まらないでよ。せっかくの三つ巴なんだから——もう少し、楽しませてくれないと」


男が——一歩、踏み出した。


その一歩で、足元の砂が黒く変色した。理の糸が、触れただけで腐り落ちていく。


「——何者だ」


ルークの声だった。


さっきまでの揺らぎが嘘のように、勇者の声に戻っていた。聖剣を構え直し、まっすぐに「それ」を睨みつけている。


「何者だ、と訊かれると困るな。名前なんてたくさんあるし——そもそも、君たち人間の言語で名乗れるようなものでもないんだけど」


男が肩をすくめた。少なくとも、動作としてはそう感じた。


「まあ、便宜上——帝国の方々には『顧問』と名乗っていたよ。メビウス君とは、なかなかいい仕事をさせてもらった」


「帝国の……」


ガルドの声が、地の底から湧き上がるように低く震えた。


「お前が——帝国の裏にいた——」


「裏? いやいや。ちゃんと表にもいたよ。調査隊の端っこで、大人しく立っていただろう?」


シオンの爪が、僕の肩に深く食い込んだ。


「こいつよ、ノア。セトの記憶の中にいた男——数千年前と、同じ顔」


「ああ、あれね」


男が、くすりと笑った。


「セトちゃんの思い出を覗いちゃったんだ? あの子、意外としぶとかったからね。何千年も眠ったまま、核を渡してくれなくて困ってたんだよ」


核。


セトの核——特異点の中心にある、世界の綻びそのもの。


「まさか、ここまで丁寧に浄化してくれる調律師が現れるとは思わなかったけど——おかげで助かったよ」


男の声が、明るいまま冷たくなった。


「浄化されたセトの核は、もう暴走のノイズがない。きれいな、純粋なマナの結晶だ。——ようやく、回収できる」


僕の血が、凍った。


僕がセトを浄化したことで——セトの核が「使える」状態になってしまった。


この男は——最初から、それを待っていた。


「渡さないわ」


シオンの声が、冷たく響いた。


僕の肩の上で、小さな猫の体から——圧倒的な闇のマナが、ぞわりと溢れ出した。


「あら。エクリプスちゃんまでいるの」


男が、楽しそうに言った。


「こりゃあ本当に——いい夜だ」


砂漠の風が、止んだ。


さっきまで音を取り戻して歌っていたはずの風が——この男の存在に怯えるように、息を潜めた。


ルークが聖剣を構えている。レオンが炎を燃やしている。シオンの闇が広がっている。


三つの力が——三つの方向から、一つの闇に向き合っている。


三つ巴。


セトを救った安息は——もう、終わっていた。




お読みいただき、ありがとうございます!


 突如として乱入した、泥の匂いの男。

 セトの記憶の中にいた、数千年前の都を狂わせた張本人であり、現代の帝国の陰でメビウスたちを操っていた黒幕。

 ノアがセトを浄化したことにより、利用可能なマナの結晶となった「セトの核」を回収するため、彼は現れました。


 魔王ノア、勇者ルーク、そして帝国の黒幕。

 それぞれの思惑が交錯する三つ巴のパニックの中、物語は激動の戦いへと進んでいきます。

 次回もお楽しみに!


【☆作者からのお願い☆】


壊れかけた世界を静かに直すノアとシオンの旅を、**下にある【ブックマーク登録】と【☆評価】**で応援していただけないでしょうか?


皆様の☆とブクマの温かい一票が、作者の執筆の命の糸(日々の更新の強力な原動力)になります。


少しでも「面白い!」「ノアの旅の続きが読みたい」と思っていただけましたら、どうかお力添えのほど,よろしくお願いいたします……!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ