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藤城皐月物語 3  作者: 音彌
第8章 修学旅行 準備編
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342 八坂神社の由緒

 藤城皐月(ふじしろさつき)たちの班は最初の訪問地の清水寺の起源を調べ終え、これから次の訪問地の八坂神社について調べ始めた。


「もっとも尊重すべきは八坂神社の公式サイトの情報だと思うけど、これがちょっと問題があって……」

 口ごもる神谷秀真(かみやしゅうま)に促されて八坂神社の歴史のページを見ると、創祀については諸説あり、社伝としては2つの説が伝わっているという。


1 渡来人が神様をお祀りしたのがはじまり

2 お坊さんがお堂を建立したのがはじまり


「説が二つあったら、どっちかが嘘か、両方が嘘じゃん」

 真っ先に突っ込みを入れたのは栗林真理(くりばやしまり)だった。

「そうなんだけどさ、八坂神社って複数の神社の集合体だから、両方とも正しいっていうこともあるよね。まあ、気分はすっきりとはしないけど」

 皐月も真っ先に真理と同じことを考えた。でも境内社がたくさんあるので、境内社の数だけ由緒があるとも考えられる。


 公式サイトの、渡来人が神様をお祀りした、という話は、斉明(さいめい)天皇2年(656)に高麗(こうらい)より来朝した伊利之(いりし)新羅(しらぎ)国の牛頭山(ごずさん)に座した素戔嗚尊(すさのをのみこと)を当地(山城国愛宕郡八坂郷やましろのくにおたぎぐんやさかごう)に奉斎したことにはじまる、とある。


「素戔嗚尊って新羅の神様?」

「いや、日本の神様だよ」

「でも伊利之って外国人だよね?」

「うん、渡来人だから」

「じゃあ、どうして素戔嗚尊が新羅にいたの?」

「天から追放されて、新羅の曽尸茂梨(そしもり)ってところにいたことがあるんだって」

 秀真の説明を聞いていた真理は露骨にげんなりとした顔をした。これは皐月も同感で、神社の由緒や神話のことを調べていると、糸が絡まったように事情が複雑で、考えるのが嫌になる。


 公式サイトの、お坊さんがお堂を建立した、という話は、貞観18年(876)南都の僧・円如(えんにょ)が当地にお堂を建立し、同じ年に天神(祇園神)が東山の麓、祇園林に降り立ったことにはじまる、とある。


「お坊さんがお堂を建てたって、それじゃお寺でしょ?」

「まあ、そうだね。平安時代は神道と仏教がごっちゃになってたからね。明治時代に神道と仏教がまた分かれたんだけど」

「ややこしい……。くっついたり離れたり、もう訳わかんない」

 真理の機嫌が悪くなってきた。秀真が悪いわけじゃないのに、秀真から覇気が消えた。


「とりあえずさ、八坂神社の創建は飛鳥時代ってことでいいんじゃない? 公式にそう書いてあるんだし」

 皐月は強引に結論に持っていった。ウィキペディアには、伊利之による創建説は現存する歴史資料からは根拠に乏しい、と書かれている。それでも公式の見解を尊重して、二つの説の古い方を頭に入れて八坂神社に訪れたいと思った。


「神谷さん。八坂神社の御祭神についてなんだけど、聞いてもいい?」

「うん、わかる範囲で答える」

 二橋絵梨花(にはしえりか)は八坂神社の祭神に興味を示したようだ。これは皐月も事前に調べたことがあるが、ややこしい話で、いまだによくわかっていない。


「ウィキでは明治時代の神仏分離以前の主祭神が牛頭天王(ごずてんのう)になってるよね。でも、もう少し読み進めると、祭神は当初は『祇園天神』または『天神』とだけ呼称されていたって書いてある。天神ってどんな神様なの?」

「天神か〜。天神っていろいろ意味があるんだけど、この時代だと天津神(あまつかみ)って意味なのかな……。今の時代だったら、天神といったら菅原道真だけど」


 日本神話に登場する神は二系統に分類できる。一つは天津神で、もう一つは国津神(くにつかみ)という。

 天津神は高天原(たかあまのはら)にいる神々、または高天原から天下った神々の総称。(やまと)王権の皇族や有力な氏族が信仰していた神が天津神。天津神を天神(てんじん)とも言う。

 国津神は地(葦原中国(あしはらのなかつくに))に現れた神々の総称。蝦夷(えみし)隼人(はやと)など倭王権によって平定された地域の人々が信仰していた神が国津神。国津神を地祇(ちぎ)とも言う。


「それで、八坂神社の御祭神の素戔嗚尊は天神なの?」

「素戔嗚尊は高天原の神だから天津神なんだけど、高天原から追放されたから国津神になったんだよね……」

 皐月は素戔嗚尊のことを天津神だと思っていたので、秀真の説明に驚いた。皐月の関心は素戔嗚尊と牛頭天王の方に向いていて、天神はノーマークだった。


「牛頭天王は天神?」

「いや、違う。牛頭天王は祇園精舎の守護神。インドの神様ってことなんだけど、実際はどうなのかよくわかっていないらしい。祇園精舎の守護神だから祇園天神って呼ばれるようになったみたいだけど」

「じゃあ、天神って何なんだろう……」

「わかんない……」

「天神は主祭神の素戔嗚尊や、かつての主祭神だった牛頭天王とは違う神様ってことになりそうだね」

 秀真も絵梨花も黙り込んでしまった。皐月も何が何だか分からなくなった。そんな中、岩原比呂志(いわはらひろし)が疑問を投げかけてきた。


「そもそも、ここで言っている神って本当に神様のこと? それとも神と崇められていた人のこと? 今って何かに秀でている人のことを神って言うよね。昔もそうだったのかな?」

 比呂志の疑問は信仰の根幹に関わることだ。神を神と信じるかどうかの話になる。

「たぶん人のことだろうね。私には神話が神様の話だなんて思えない。変な神ばっかりだし」

 吉口千由紀(よしぐちちゆき)は信仰から距離を置くタイプのようだ。


「天津神って宇宙人のことじゃない?」

 真理は少しふざけ気味に深刻になった場を和ませようとした。皐月の影響で、真理は宇宙人の話には免疫がある。

 幼馴染の真理と皐月は、親が仕事から帰ってくるまでの暇つぶしに色々なことを話してきた。こういうオカルトの話は皐月が好きで、よく真理に聞いてもらっていた。


 次の訪問地の事前学習のこともあるので、八坂神社のことはこの辺りで打ち切らなければならない。皐月は秀真に代わって強引にまとめることにした。


「八坂神社の創建は飛鳥時代で、祀られている神様は素戔嗚尊。公式サイトの見解に沿って覚えておけばいいんじゃないかな。疑問はいろいろあると思うけど、そういうのは謎として残しておいてもいいと思う」


 無難にまとめたな、と皐月はあまり面白くなかった。

 謎を謎として残しておいても気持ち悪いだけだ。完全に不完全燃焼だが、時間がないから仕方がない。


 これで八坂神社の予習は終わった。調べれば調べるほど興味深いということは、ここにいる六人全員が感じていた。もっと調べたい気持ちを抑えながら、皐月たちは次の訪問地のことを調べ始めた。


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