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蠱毒の鬼 -シンギュラリティオブオーガ-  作者: 高美濃四間
第三章 鬼の鼓動
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漢たち

「――てめぇの相手は俺だ」


 海野の拳が繰り出されると同時に、新たな拳が悠哉の後ろから割り込んだ。

 凶悪な拳と極限の拳が激突する。


 ――ドガァァァンッ!


 凄まじい衝撃音が鳴り響き、海野が吹き飛ばされる。

 乱入者は――右腕が肥大化し、半人半鬼の仮面を付けた雅人だった。


「大丈夫か?」


 悠哉は目を見開き、困惑した表情で頷く。雅人が再び前を向くと、海野が無表情のまま静かに立ち上がっていた。


「相変わらずなに考えてるのか分かんねぇ奴だな。俺はもう、あのときみたいに弱かねぇぞ」


 雅人の右腕は極限まで強化されていた。獰猛な膂力が凝縮され、灼熱の熱気を纏ってる。それも狂鬼化薬の力だ。その力を使うのに、躊躇いなどあるはずもなかった。その拳は、誰かを救うためにあるのだ。代償など二の次に考える。


「あいつに……光汰に言っちまったんだ。この拳は誰かに手を伸ばすためにあるんだって。それを曲げるわけにはいかねぇ。だから、てめぇは俺が倒す。この拳にかけてなぁっ!」


 海野は、転がっていたゴンドラを両手で掴み、雅人へ投げた。雅人は冷静に拳を引き、亜音速の掌底を放つ。ゴンドラはグシャっと凹み、弾丸のように海野の真横を吹き飛んで行った。海野はさらに木馬を片手で放り投げる。


「ちっ! 小賢しいんだよ!」


 雅人は強く地を蹴り海野へと駆け出す。そして、豪速で飛来した木馬を右腕で弾き飛ばす。そのまま海野へと肉薄し、渾身の一撃を放った。空間を唸らせるほどの右ストレートだ。海野は両腕をクロスさせ受け止めるが、衝撃で後ろへ吹き飛ばされた。右腕のみではあるが、その力は明らかに海野の膂力を超えていた。雅人はひたすら打ち込む。


「オラァッ!」


 両腕で素早い連撃を繰り出し、海野の反撃を紙一重で躱す。そこにできた隙へ右拳を叩きこむ。だが、鬼人としての俊敏性も健在だった。


「ちっ!」


 雅人が苛立たしげに舌打ちする。決め手がなかった。

海野の蹴りが繰り出され雅人は右腕で受ける。前を見たとき、海野はいなかった。


「後ろだ!」


 雅人が咄嗟に右腕を後ろへ薙ぎ払い、海野の蹴りを相殺した。海野は俊敏に飛び退く。

 もし悠哉の声がなかったら、雅人は直撃を喰らってバラバラになっていただろう。


「へっ、恩に着るぜ」


 雅人の額には冷汗が滲んでいた。海野は体勢を立て直し性懲りもなく雅人へ向かってくる。


「はっ、いい加減、見切ってんだよぉっ!」


 雅人は、眉に皺を寄せ拳を引いた。そして、海野が間合いに入る刹那――地面を殴打する。轟音が響き嵐のような砂塵が巻き上げられた。


「っ!」


 振るわれた海野の拳は砂を払っただけ。すぐさま首を振り雅人の姿を探すがどこにもいない。


「――トロいんだよ……でくの坊がぁぁぁっ!」


 雅人の声は海野の真上からだった。彼は地面を殴った衝撃で上空へ跳び上がったのだ。そして海野の頭上に渾身の一撃が振り下ろされる。海野は両腕を交差させ防いだ。が――


「なっ……」


 初めて海野の声が漏れた。その両腕で受け止めていたのは、ただの『かかと落とし』。なんのダメージもない。そして、雅人はそれを起点に上体を前へ倒すと『右の拳』を海野の脳天に叩きつけた――


 ――グキャッ!


 頭蓋が砕ける音と共に海野の頭から血が飛び散る。その巨体は真後ろにバタンと倒れ再び砂塵を巻き上げた。


「お前とじゃ、拳に乗せた覚悟がちげんぇだ」


 雅人は厳かな表情で告げると背を向ける。


「っ! まだだ!」


 必死の表情で叫んだのは悠哉だった。まだ、終わってはいなかった。


「――グオォォォォォッ!」


 耳をつんざくような野獣の雄たけびが大地を、空間を震わせる。雅人が振り向いたときには、体がさらに巨大化し理性を失った海野が目前まで迫っていた。防御が間に合わない。あまりの迫力に、絶望に、雅人は「くそがっ」と歯を食いしばり死を覚悟した。そのとき――


「――はぁぁぁっ!!」


 勇ましい叫び声と共に海野の首が飛んだ。

 首を失った海野の体はドサリと前に倒れる。後ろに立っていたのは――満身創痍といった体で息を切らせながら龍断包丁を手にした成田清悟だった。


「大丈夫かっ!? 内村!」

 

 彼は、目の前の鬼人の死骸には目もくれず、瞠目している部下へ駆け寄り肩に手を置いた。


「……リーダー……姫川さんがっ!」


 ぽつりと機械的に呟いた悠哉だったが、悲痛で顔をぐしゃぐしゃに歪め俯いた。その頬を一筋の涙がつたう。

 清悟も顔を歪め、辺りの惨状を見回した。自分の預かった班が自分の知らぬ間にほぼ全滅したのだ。その無念さは計り知れない。

 清悟は分断された後、大量の獣鬼に囲まれたものの一人で戦い抜いたのだ。全身に付着している血は全て獣鬼のもの。皆も生きて戦い続けているのだと信じて疑わなかった。


「すまない。俺が離れたりしなければっ……」


 清悟は姫川の亡骸の前に片膝をつくと、頭を下げ悔しさに奥歯をギリギリと噛みしめた。悠哉もその後ろに立ち嗚咽を漏らす。

 やがて、二人は落ち着きを取り戻すと、仲間たちの遺体を一列に並べ、ガレージの中から適当なシートを持ってきて被せてその死を弔った。

 雅人の姿は既になく、清悟は悠哉に拠点へ戻って傷の手当てをするよう指示する。

 自身は、龍断包丁を背に城へと向かうのだった。


「――鬼人よ、貴様らを許しはしない」


 

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