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蠱毒の鬼 -シンギュラリティオブオーガ-  作者: 高美濃四間
第三章 鬼の鼓動
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大切な人

 一方、先行していた第七班も苦戦していた。近くを浮遊するアトラクションから獣鬼が降って来たのは、こちらも同じだ。


「はぁっ!!」


 悠哉は愛刀で獣鬼の首を刎ね、姫川は二丁拳銃で冷静に心臓を撃ち抜き、清悟は龍断包丁で真っ二つに叩き斬っていく。


「とにかく先を急ぐぞ!」


 なんとか己を奮い立たせ、前進していく第七班だったが――


「――伏せてぇっ!」


 姫川が悲鳴にも似た叫び声を上げた直後、


「ぎゃっ!」

「な、なん――」

「ぐへぇっ」


 凄まじい勢いでアトラクションの一部が飛来した。ジェットコースタの車両、メリーゴーランドの馬、観覧車のゴンドラなどだ。運悪く軌道上にいた戦闘員たちが潰されていく。


「リーダー!」


 清悟もゴンドラに直撃し、吹き飛ばされた。その先にはホラーハウスがあり、屋敷内まで突き抜けた。姫川と悠哉が助けに行こうと踵を返すが、


「アァァァァァ」


 ホラーハウスの周辺からわらわらと獣鬼の集団が溢れ出て来た。


「くそ!」


 悠哉が絶望に顔を歪め刀を強く握りしめるが、姫川が手で制する。


「内村さん」


「……分かっています」


 七班の残存戦力は、姫川と悠哉、加えて戦闘員が十名程度。大量の獣鬼を相手取るのは分が悪すぎる。今は止んだものの、再び障害物が飛来するかもしれない。この状況で次にとるべき行動はただ一つしかなかった。


「――申し訳ありません、リーダー」


 姫川はホラーハウスの方を一瞥すると、凛とした声で残存隊に前進の指示を出した。

 第七班はひたすら先へ進む。迫り来る獣鬼を切り伏せながら、悠哉は無念さに歯を食いしばっている。


「――止まってください」


 姫川が突然指示を出す。第七班の残存隊は困惑の表情で足を止めた。


「一体どうしたんですか?」


「あなたは違和感を感じないのですか?」


 悠哉はそう言われて周囲を見渡した。すぐに気付く。メリーゴーランドの馬が不自然に取り外されているのだ。


「まさか、さっきの……」


「ええ。あれを見て下さい」


 姫川が指さしたのは、やや大きめのガレージだった。アトラクションの不良品を格納しているような注意書きが横にある。となると、先ほどの飛来物はここで何者かが投げたのだと考えるのが妥当だ。悠哉は気を引き締め、慎重に辺りを見回した。すると視界の下の方で大きい影がよぎった。


「上か!?」


 悠哉が驚愕の声を上げ、真上を見上げるとゴンドラが降って来るところだった。


 ――ドゴォォォン!


「う、うわぁっ!」


 最後列の戦闘員が怯えたような悲鳴を上げ尻餅をついた。それもそのはずだ。目の前で仲間が三人下敷きになって潰れたのだから。


「――大丈夫ですか!?」


 悠哉が駆け寄ろうとするも姫川が手で制した。困惑する悠哉。しかし、その理由もすぐに分かる。落下してきたゴンドラの中から多数の獣鬼が這い出てきたのだ。


「皆、慌てず撃破してください!」


 姫川が銃を撃ち始める。しかし最後列で尻餅をついていた戦闘員が真っ先に喰われた。


「くそ!」


 悠哉が抜刀術で即座に敵の首を刎ねる。次の獲物に狙いを付けようと素早く旋回すると、視界をよぎったものに違和感を感じた。


「あれはっ!?」


 再びそれを見ると、巨漢でスキンヘッドの鬼人『海野』がメリーゴーランドの横から現れた。両手でそれぞれ木馬の首を鷲掴みにしながら、悠哉たちの方へ静かに歩いている。

 だが、悠哉と目が合うとフルスイングで右の木馬を投げてきた。


「危ない!」


 姫川と悠哉は辛うじて回避が間に合うが、他の戦闘員が対峙していた獣鬼ごと吹き飛ばされてしまう。


「くっ! よくもっ!」


 姫川が銃二丁を海野へ向け乱射した。それに続き、銃を持っている他の戦闘員たちも撃ち始める。流石の鬼人といえど命中すれば無傷では済むまい。しかし、


「なっ!」


 悠哉は目を見開き驚愕の声を上げた。海野が左手に持っていた木馬を盾にして走り出したのだ。巨体のくせに速い。いくら腕力強化の鬼人といえど、脚も人間の比ではないということか。海野は既に目と鼻の先まで迫っていた。


「くっ、散開!」


 戦闘員たちは、姫川の指示で左右に散った。悠哉は海野の背後に回り、一斉に攻撃を始める。

 しかし、桁が違った。海野は素早く銃口を確認し、的確に馬で防御。近接武器で斬りかかろうにも、躱されカウンターで殴り飛ばされる。戦闘員たちは瞬く間に倒されていった。姫川は俊敏に動き回りながらも、冷静に連射するが倒せない。遂に姫川の銃弾も底をついた。目を光らせ、姫川へ向かおうとする海野。しかし、


「くっそぉぉぉっ!」


 悠哉がむしゃらに斬りかかった。冷静さを欠いた斬撃は馬で防御され、脇腹に蹴りが直撃する。悠哉はそのまま転がると呻きながらうずくまった。


「内村さん!」


 海野の攻撃はそれで終わらない。彼は手に持っていた木馬を振り被っていた。


「ま、待って!」


 我を忘れた姫川の必死な声が響く。しかしそんな言葉、鬼人には届かない。海野は悠哉へ向かって木馬を投げつける。それは極悪な凶器となって迫った。死を覚悟する悠哉。


 ――ガゴンッ!


「……え?」


 目を見開いた光汰。彼は無傷だった。なぜなら……


「ひ、姫川さんっ!!」


 彼女が悠哉に覆いかぶさってかばっていた。倒れ込む姫川を抱きかかえる悠哉。彼女の後頭部に触れた手には、べっとりと真っ赤な血が付いていた。


「うち……むら、さん」


 姫川は虚ろな目を彷徨わせながら、うわ言のように呟く。悠哉は慌てて彼女の手を握った。


「ここに、ここにいます!」


「良かった。無事だったんですね」


「なんで僕を庇ったりなんか……」


 悠哉は涙を我慢しながら、姫川の手を強く握った。


「大切な……人、だから……」


 姫川は最後にふわっと花開くような可憐な笑みを浮かべると、息を引き取った。

 悠哉は姫川の亡骸を抱いて泣き叫ぶ。


「……っ……ぁ……あぁぁぁぁぁ!」


 やがて姫川の体を優しく地面へ預けると、静かに立ち上がり海野へと向き合った。


「許さない」


 悠哉は無心で駆け出す。海野へ憎悪の眼差しを叩きつけながら、刀を握りしめまっすぐに。海野はあくまで冷静に右ストレートを繰り出した。冷静さを失った剣士など、恐れるに足らない――はずだった。


「……っ!」


 初めて海野が表情を変えた。意表を突かれたというように口を開け固まっている。悠哉が海野のストレートを紙一重で回避したのだ。しかし、その拳圧が凄まじく空間すら裂いた。その衝撃波で全身を薄く切り刻まれる悠哉。それでも止まらない。


「お前だけはぁぁぁ!」


 そして遂に、その切っ先が海野の胸を捉えた。が――


 ――パキンッ!


 海野の胸に刺さった瞬間折れた。その心臓に届く前に。海野は瞬時に胸筋を強化したのだ。そのとき、悠哉は自分の失態に気付く。狙うべきは心臓でなく首だった。


「くっ……」


 悠哉は憤怒に顔を歪めながらも後ずさった。海野が無慈悲に右の拳を引く。今度は外さないように、鬼の眼でしっかりと標的を見据えて――

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