時は少しだけ巻き戻る 2
地下牢のベッドに横になりながらも、眠る気になれなかった俺はたくさん泣かせてしまったココ嬢との出会いの前後の記憶を思い出していた。
……その日も俺は退屈していた、今よりもう少し前に蘇った前世日本人だった記憶のせいで調子に乗って天狗になってたんだなと、今なら分かる。
だが、あの当時は異世界転生スゲー!もしかして知識チートとかできちゃう!?
みたいな変なハイテンションで生きてた。
今思うとマジで黒歴史だよなぁ……そのせいで城での俺の評判はどん底一歩手前くらいまで落ちてた事を当時の俺は全然知らなかった……そりゃそうだよな……王太子殿下に面と向かって『お前頭おかしいんじゃねぇの』って言えるやつなんてそうはいない。
普通に考えて、突然訳の分からない言動や根拠のない知識をひけらかしたり王太子教育を施すために来ている教師に向かって『お前の知識は古い! こっちの計算方法を使えば簡単に答えなんて割り出せるじゃないか』なんて高慢な態度で教師をやり込めたり、『畑に連作障害が出るから続けて作付けしてはいけないんだ』とか、この世界で本当に通用する知識か調べもせずに偉そうに講釈をするクソ生意気なアホ餓鬼だった。
いやね……言い訳させてください!
あの当時確かに俺の前世の記憶は蘇ったけど、10歳児の中に前世の知識だけがインストールされた感じっていえば分かりやすいか?
前世の良識とか理性っていうのか? 今になると当たり前に考えられることが全然理解できない暴走少年が出来上がってた……本当なら両親が殴ってでも説教して辞めさせるような言動なはずなんだけど、両親は当時まだ可愛い一人息子だったせいで甘やかしまくってくれたんだよなぁ……。
それを反省した両親は、弟の事はちゃんと教育したみたいだから反面教師として役に立てただけでもまだマシだったと思っておこう……(遠い目)
そんなこんなで評判が地に落ちてた俺を流石にこのままではマズイと思ったらしい両親は、後ろ盾になってもらうのも兼ねてアクマー公爵に両親揃って、必死に頭を下げてココ嬢との顔合わせを頼み込んでくれた。
その必死な様子に渋々1回会うだけならと茶会で顔合わせの機会を作ってくれた義父上(公爵本人に言うと殴られるから心の中だけで呼んでる)には何度感謝してもし足りないくらいだよ!
……だけど当時の俺は、両親が勝手に婚約の打診をしたっていう事実に反抗心しか持ってなかった。
ふてくされた態度で、母である王妃殿下に手を引かれながらイヤイヤ茶会の会場の中庭へ辿り着いた時に……天使が座ってたんだ!
いやぁ、あの時マジで雷に打たれたような衝撃っていう言葉の意味がよーーーーーく分かったわ。
ふわふわの長い髪を側面だけ編み込んで、緊張したように強張った顔で必死に王族たる俺と母上に可愛くカーテシーをして口上を述べてる姿にマジで見惚れて言葉もでなかったよ。
俺が無反応でココ嬢をガン見してる様子を見て大人達は不審そうな顔になってたけど無視だよ無視!
「あの……王太子殿下……? なにか失礼でもしてしまったでしょうか……」
と不安そうな顔でみるみるうちに目に涙を浮かべそうになってるココ嬢を見てやっと我に返った俺を、今なら殴りつけてやりたいもんだぜ……。
当時の俺はその姿を見て慌てふためきながら
「いっ……いやっ!? アクマー公爵令嬢は何も悪くないよっ! そ…………その……アクマー公爵令嬢が天使みたいに可愛いからその……あ……いやそうじゃなくてっ……いや違わないけどっ!?」
と顔を真っ赤にしてアワアワと、しどろもどろになってる俺を見て、あんぐりと口を開けて王妃にあるまじき様子で俺を見ている母上と、そうだろう! そうだろう! と言わんばかりに娘の可愛さに頷いているアクマー公爵夫妻、ココ嬢本人は可愛いという言葉に真っ赤になって
「えっ……?」
と声を上げながらソワソワと落ち着かない。
「お……オホン! 少々取り乱しました。 改めて王城へようこそいらしてくださいました!アクマー公爵御夫妻には令嬢との面会の機会をいただけましたこと改めて感謝します。 そして、アクマー公爵令嬢、改めてこの王太子アフォーディス、貴女にお会いできたことを神に感謝いたします!」
そう言いながら素早くココ嬢の手を取り
「どうか私の事はぜひアフォーディスと呼んでください! そしてアクマー公爵令嬢、どうかココ嬢と呼ばせてくれませんか?」
と当時の俺は10歳児なりに前世の物語知識を総動員して必死のアピールをかましたよ!
使える手段なら何でも使うべきだと、顔だけは天使みたいに美しいって言われてた自分の顔も利用してニコリとほほ笑む。
「え……えぇ?」
ますます真っ赤になって俯くココ嬢に、下から覗き込んで
「ダメ……?」
とションボリ顔を見せたら
「い、いえそんなことはございませんが、王太子殿下を呼び捨てなんて恐れ多い事はできませんっ」
とお断りされてしまった、ならば
「じゃあ、ココ嬢って呼ぶのは良い?」
と押していく
「それは勿論……光栄でございます殿下」
とココ嬢は、はにかみながら笑顔を見せてくれたっ!
「それは良かった! それじゃあこれから婚約者としてよろしくね!」
と畳みかけていく!
「お待ちいただきたい殿下っ!」
と待ったをかけてきたアクマー公爵。
【ちっ……やっぱりなし崩しに婚約まで持っていくのは無理か……】
と内心舌打ちしながら俺は
「アクマー公爵、どうかココ嬢との婚約をお許しいただけませんか……? もしお許しいただけるのであれば私にできることならなんでもいたします!」
と宣言した。
「アフォーディス! 王太子たるものそのように軽率な発言などしてはなりませんよ!」
と母上は仰天しながら叱りつけるがそんなもので止まるような暴走少年はいなかった。
「王太子として約束してはいけないというのであれば、私を廃嫡していただいて構いません! ですからどうかココ嬢と婚約させてください!お願いします!」
と俺は日本人の必殺技であるジャンピング土下座を放った!
その様子を呆然と見ていたアクマー夫妻だったけど、一応俺の様子から本気だと伝わったみたいで
「殿下? まずはわたくし達ではなくココ本人に気持ちを聞いてみるのが順番ではなくて?」
と、アクマー公爵夫人に声をかけられた……その言葉で一番大事な事をすっ飛ばしていたことに気が付いた俺は
「ココ嬢! すまない……私が一番にお願いする相手を間違えてしまった……どうか許してほしい……。
そして、どうか私の婚約者としてずっと隣にいてくれないだろうか……ココ嬢の為ならなんでもするし何でも言う事を聞くからどうかお願いしますっ!」
必死で土下座から五体同地(知らない人から見たら寝っ転がってるだけだろ)までして懇願した。
「王太子殿下! まずはお座りくださいませ!」
ビシッとした声で俺を呼ぶココ嬢。
「はいっ!」
シュタッと用意されていた椅子へ座りココ嬢のお言葉を待つ
「まずは、王太子たるもの軽々しく『なんでもする』などという言葉を使うべきではありませんわ!」
「はい!」
「そして、婚約者したいからとすべてを肯定し甘やかすような方とは婚約できません!」
「ごめんなさい! ちゃんと婚約者として適切な関係を守ります!」
「本当にできますか?」
「がんばります……だから捨てないでぇ」
べそべそとココ嬢の前で泣いた事もマジで黒歴史すぎる……。まぁあの時は必死だったからなぁ……そんな様子に呆れたようにため息をつきながら
「約束ですわよ?」
泣きながらコクコクうなづく俺の頭をそっと撫でてくれながら
「破ったら婚約解消しますからね?」
とニッコリ笑うココ嬢をみてまた惚れ直したんだよ!
その後なんだかんだと、親同士の話し合いがあってアホ餓鬼を尻に敷いて矯正してくれるのはココ嬢しかいない! っていう事でなんとか婚約にこぎつけたんだけど、後日婚約に置いてのガチガチの内容の契約書をにこやかに差し出してきたアクマー公爵に
「娘を泣かせるような真似をなさったときは……お分かりですよね?」
と凄まれたのは今でも思い出すと震えがくる……ていうか今の俺もう確実に殺られるなこれ……。




