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一ニ三五村のどろどろ様~火車女教授の現代妖怪譚~  作者: 綺村 亮介


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9/15

09_独りの夜

 夜、火車さんが帰ったあと、わたしは空き家に案内された。

 【祭】が終わるまで、この村に滞在しなければならないからだ。


 さぞやオンボロな家なんだろうと覚悟していたが、中に入ってビックリ。

家具は歴史を感じさせるが、とても立派なものだ。それに、チリもホコリも全く見当たらない。どうやら村の誰かがまめに掃除をしているのだろう。

多分、理由は――。


 わたしは神棚を見上げる。……やっぱり、ここにも例の巻物がある。

 全ての家々に飾ってあるってことなのかな? ほら、この村の風習的な?

それとも、全ての家々が【どろどろ様】の持ち家ってことなのかな? いや、妖怪なのに地主ってのも変だよね。


 それにしても、未だに現実感が湧いてこない。

朝、火車さんと二人きりでフィールドワークが出来るってワクワクしてたのがウソのようだ。


でも……『分かって』しまう。平八郎さんが口にしたように、自分は超常的な存在に――妖怪かさえも不明な【どろどろ様】に、招待されてしまったのだと。


ああ……とんでもないことになっちゃった。わたし、普通の大学生なのに。

せめて火車さんが側に居れば、どんな事が起こっても怖くないのに……。

連絡しようにも、スマホの電波はずーっと圏外のままだ。


「うう……火車さぁん……」

 涙を拭いながら、愛しき人の名前を呼ぶ。


「――――」

 ん? 今、何か聞こえたような……? それも、聞き慣れた声だった気がする。

 もしかして、火車さんが危険を顧みずに助けに来てくれたとか……!?


 コンコンと、玄関から音が聞こえた。

やっぱりだ! やっぱり火車さんが来てくれたんだ!


「火車さん!」

 わたしは玄関まで走り、大急ぎで扉を開けた。だが――。

「きゃあっ!?」

 黒い影が、わたしに覆いかぶさってきた。まさか、そんな……!


「わんにゃー」

「ス、スネコスリ!? どうしてここに……!?」

 黒い影の正体は――本物の妖怪こと、火車さんの相棒こと、ネコのスネコスリだった。


「ぐるるぅ……わんにゃー」

 スネコスリは、わたしの頬をペロリと舐めた。まるで、はげますように。流れ落ちた涙を拭うかのように。


「……もしかして、火車さんの代わりに残ってくれたの……?」

「わんにゃー」

 なんて……なんて心強い味方なんだろう。さすが火車さんの相棒だ。


 この村に、たった一人残されたと思っていた。寂しかったし、怖かった。

でも今は……独りじゃない。それだけで、なんだか勇気が湧いてきた気がする。


「……よぉーし!」

 わたしは、自分の頬を叩いて気合を入れる。


 この村を調査出来るのは、もはや自分だけしか居ない。

 だったらいっそ、【祭】の間に徹底的に調べて、火車さんに報告しよう。

 それがきっと、助手としての役目だ。


 覚悟を決めたら、なんだか楽になった気がする。

 いろんな事がありすぎて、マヒしていた疲れが今になってドッと襲いかかってきた。


「ふぁ~あ……明日に備えて寝よっと。夜に村の中を歩くだなんて、どう考えてもバッドエンドフラグだもんね……」

 平八郎さんが用意してくれた布団に潜り込む。だけど――。


「うわ!? な、なにこの布団!?」

 驚きのあまり、わたしは飛び上がってしまった。

 これは……なんてことだ! あり得ない! この布団は、この布団は――!


「超温かい……!? 凄い身体にフィットするし、布は肌に吸い付くんだけど!?」

 詳しくは知らないけど、とんでもなく高級な羽毛布団だっていう事だけは分かる。

 でも、どうしてこんなに良い布団をわたしに……?


 【どろどろ様】に選ばれた【祭】の参加者とはいえ、わたしは急に来た厄介者でしかない。

なのに、この好待遇だ。


 それとも……これに……なにか……意味が……。

 ああ……ダメ……。羽毛布団が……気持ちよすぎて……なんにも……考え……。


 するりとスネコスリが布団の中に入ってくる。気持ちよさそうにぐるぐるとノドを鳴らしている。

 それがトドメとなり、わたしは深い眠りに落ちていった――。




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