10_【祭】一日目・一ニ三五村での生活
******************
【祭】一日目
******************
朝、玄関を叩く音で目が覚めた。スマホで時間を確認すると、まだ午前6時だ。
いつもは8時まで寝ているから、眠いのなんのって。やっぱり田舎って朝が早いなあ……。
そういえば、夜は一回も起きなかったかも。さすがは高級羽毛布団。眠りの深さも違うね。
スネコスリは……知らない間にどっかに行ってしまったみたいだ。
「はーい、今開けまーす」
パタパタと小走りで玄関に向かい、鍵を開けて扉も開ける。
「トーノさん、おはようさんです」
そこに居たのは、昨日小銃を突き付けてきたおじさん――平八郎さんだった。
「は、はい! お、おはようございます!」
思わず姿勢を正してあいさつをした。
朝からいったい何の用だろう? ま、まさか……やっぱり村の秘密が大事だから、口封じに来たとかじゃないよね!? うう、緊張するなあ……。
「は、はは……。ずいぶんと嫌われたもんで。いやまあ、おりゃあがあんな事したからな。無理もねえか」
平八郎さんはバツが悪そうに頬をかく。
「昨日はすまなかった」
平八郎さんは深々と頭を下げる。どうやら今日は小銃を背負っていないようだ。
「だが、あれが大番としての役目でな。許してくれとは言わんが、理解してくれ」
「え、は、はい……」
わたしは別の意味で困惑した。昨日の横暴な態度とは打って変わって、とても紳士的で礼儀正しいからだ。
「それよりも、腹、減ってるでしょう? 食べ盛りの若い娘さんなのに、昨晩は大した飯も用意出来ず悪かったね」
「い、いえ、そんなことは……」
そう、平八郎さんは夜ごはんにとお弁当を差し入れてくれた。
シンプルな幕の内弁当だったが、今まで食べたことがないぐらい美味しかった。空腹が調味料にでもなったのかな?
「ごはんは村の集会場で、みんなで食べるのがこの村のルール……というか、習慣でね。おりゃあが案内するから、付いてきてもらえるかい?」
「は、はい、分かりました」
わたしはそのまま玄関を出る――って、危ない危ない! うっかり【守り事】を忘れてた!
わたしは振り返り、巻物を再確認する。
――『家出る時、柏手三回』
つまり……この玄関を出る前に、お参りのように三回手を叩く、ってことで合ってるよね?
わたしはパンパンパン、と三回手を鳴らす。そして、そーっと玄関から出てみる。
……ふぅ、どうやらこれで合ってるみたい。なんとなく、大丈夫だって『分かった』。
村のあちこちからも、パンパンパン、という柏手が聞こえてくる。
なんだかそれが滑稽で、つい笑ってしまった。
※----------※
案内された先にあったのは、武家屋敷を思わせるような集会場だった。多分、この村で一番立派で大きな家なんだと思う。
村人たちが談笑しながら中に入っていくのが見えた。
「お、おじゃましまーす……」
わたしは恐る恐る中に入る。平八郎さんが礼儀正しいだけで、他の村人たちもそうだとは限らないからだ。もしかしたら、塩でもぶつけられるかも……。
「おっ、来た来た! いらっしゃい、新人さん!」
昨日は草刈り鎌を構えていたであろうおばあさんが、ウェルカムと言わんばかりにニコニコとした表情で出迎えてくれた。
「ああ、あんたがウワサの!」「とんでもない大型新人が来たもんだねぇー」「【どろどろ様】も若い子には目がないってか! ガッハッハ!」
おじいさんやおばあさんたちはわたしを囲み、楽しそうに話しかけてくる。
まるで遠くから来た姪っ子を可愛がっているかのようだ。
予想とは真反対な反応に、わたしは困惑する。
昨日はあんなに敵対視していたのに、どうして急に……?
「まーまー、みんな落ち着いて。トーノさんが困ってるでしょうに」
見かねた平八郎さんが割って入ってくれた。ほっ……。正直助かった。
「悪いね、みんな珍しがっちゃって。あんな形でこの村に入ったのは初めてのパターンだから」
「は、はあ……」
「そうそう、朝ごはんはセルフでね。あっちから好きなだけ取って食べてな」
「はあ……ありがとうござ――え、えええぇぇぇ!?」
教室ぐらいの広間に、まるで最高級ホテルのビュッフェを思わせる料理が所狭しと並んでいる。
「な、なんですかこれーーー!?」
「何って……朝ごはんだよ。普通でしょ、このぐらい」
「い、いやいやいやいや! 普通じゃないですって!」
タイにマグロにアワビ。エビにカニにホタテ。高級食材のオンパレードだ。しかも、生け花を連想させるような、ため息がもれるほど美しく盛られている。
これが、朝ごはん……? 最後の晩餐じゃなくて……?
他の村人たちはさも当然のように食べている。
じゃあ、これが本当にこの村の『いつも通り』なんだ……。
「……あっ! お金……!」
しまった。お財布には三千円も入ってない。ここって電子マネー使えるかな? まあ……そっちの残高も三千円ないけど。
「あっはっは! 何言ってるんだい、貰うわけないだろ? あんたはこの村の住人なんだからさ。遠慮なく食べな」
カラカラと笑うおばあさん。
この村の住人……? その言葉に引っかかった。引っかかったけど――。
「じゃあ……いただきます!」
豪勢なごちそうの前では、そんなことなんてどうでも良かった。
この村に来て良かった! うん、フィールドワーク最高!
読んでいただきありがとうございます!少しでも楽しんでいただけたら、下部の☆☆☆☆☆から評価をお願いできると嬉しいです!




