08_助手として
「ダメーーーーーー!!」
わたしは銃口の前に立ちはだかる。頭で考えるよりも、身体が先に動いていた。
「お、おい! 危ねぇぞ、トーノさん! そこを退いてくれ!」
「ぜ、絶対に退きません!」
「その娘っ子は、この村の秘密の片鱗を知っちまった。だから帰すわけにはいかねぇんだ。な? 選ばれたトーノさんになら『分かる』だろう?」
「分かりません!!」
「それに――その娘っ子は赤髪だ。まるで死を――火車を彷彿させる不吉な髪色だ。断言してもいい。この村に、不幸をもたらすと。だから、ここで――」
「そんなの知りません!!!」
分かる、分からないじゃない! 髪の色だってどうでもいい! 何より大事なのは、火車さんの無事なんだから!
「何でもいいから、この村からわたし達を帰してください!!」
「いや、だからな、そいつはちょいと――」
「帰してくれないなら、わたし、【祭】なんかに参加しません!!!」
わたしの叫び声に、村人たちは大きくどよめいた。
「あぁ……勘弁してくれ……。そいつが一番困る……」
平八郎さんは、初めてうろたえた表情を見せた。
「……はぁ、分かった。おりゃあの負けだ。赤髪の娘っ子も大したもんだが、トーノさんが一番だったな。【どろどろ様】に一目で気に入られただけはあるってことか」
平八郎さんは深い溜め息をもらし、小銃を下ろした。
「特別に見逃してやる」
その言葉を聞いた途端、わたしは腰から砕けて座り込んだ。
「はっ……ははっ……。よ、良かったぁ……」
「トーノ! 貴方、なんて無茶を……!」
火車さんは、嬉しいような困ったような、そんな顔でわたしを覗き込んでいる。
我ながらもの凄い無茶をしたと思う。でも――。
「でも、火車さんの役に立ちたかったんです……。わたしは、火車さんの助手ですから……」
「ふふ、どうやらとんでもない助手を雇ったみたいね。本当にありがとう、トーノ」
火車さんは笑みを浮かべながらお礼を言ってくれた。それだけでわたしは満足だ。
「ただし、だ。帰ってもいいのは、赤髪の娘っ子だけだ。トーノさんはこの村に残ってもらう」
「えっ、そんな……!」
「頼む、トーノさん。それがおりゃあの――いや、この村の総意だと思ってくれ」
平八郎さんは、土下座するような勢いで頭を下げた。さっきまでわたしたちを殺そうとした人とは思えない腰の低さだった。
「ここでトーノさんに帰られたら、何が起こるかわからねぇ。【祭】そのものが無くなっちまう可能性がある。最悪、【どろどろ様】の怒りを買うなんてことになったら……」
平八郎さんの言葉に、村人たちは恐ろしさで身を震わせていた。
きっとこれが、最大限の譲歩なんだろうと思った。例え村の秘密が外に漏れる危険性があっても、【祭】を優先させたいんだろう。
「うう……分かり、ました……。火車さんだけでも助かるなら……」
よほど心配だったのか、平八郎さんと村人たちは一斉に安堵のため息をもらす。
「トーノ……こんな事に巻き込んでしまってごめんなさい……」
火車さんは謝りながら、わたしを優しく抱きしめてくれた。
「火車さんの助手になった時から、ある程度の覚悟はしてましたよ。……そ、それにほら、これでフィールドワークは続行できますね」
わたしは精一杯の笑みを浮かべ、精一杯強がってみせた。少しでも火車さんの罪悪感を軽くする為に。
そんな気持ちすらお見通しなのか、火車さんは強く、強くわたしを抱きしめてくれた。
「赤髪の娘っ子、トーノさんに感謝するんだな。それと……分かってると思うが、今起きたことは一切外に漏らすなよ。もし漏らしたと分かれば、地の果てまで追いかけてコイツで脳天を撃つからな」
平八郎さんは鋭い眼光で睨みつける。それが脅しでないことは誰にでも分かった。
「ええ、もちろんよ。そうね……私からも警告させてもらうわ。貴方たち、トーノに手を出すような真似事をしてみなさい? 私の名前通りに、燃える車輪で地獄まで運んであげるわ」
火車さんも負けず劣らずの眼光で睨み返す。戦場帰りにこんなタンカを切れるのは、火車さんぐらいだろうな。
「トーノ、くれぐれも気をつけてね。私にも、貴方にも分からないことだらけだと思うけど、これだけは言えるわ」
火車さんは神棚近くの巻物を指差し、
「そこに書かれているという【守り事】を、絶対に守り通しなさい」
そう言い残し、火車さんは口惜しそうに去っていった――。
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