06_村の大番
そうしてわたしは、火車さんの助手になった。
もっとも、助手になって初めての仕事がこれっていうのは、あまりにもヘビーハードすぎるけど……。
「待たせたな。これから『大番』の家に連れて行く」
村の奥に行ったおじいさんが戻ってきて、そう言った。
「大番……?」
「皇居などを警護した武士の事よ。さしづめ、村の警備員といったところね」
警備員。そう聞いてわたしは、ホッと胸を撫で下ろした。いかにも、といった人が待ち構えているんじゃないかと思ったからだ。
おじいさんの案内で、大番と呼ばれる人の家を目指す。
村人たちはこちらをジロジロと見ながらヒソヒソと話している。正直、気味が悪い。でも、火車さんが側に居るから、そこまで気にならなかった。
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「連れてきました」
ここが目的地らしい。ジブリでしか見たことがない、築100年は経ってそうな古民家だ。まあ……他の家々も全部そうなんだけど。
おじいさんは錆びたガラス戸の玄関を開けて、家の中に入っていく。
「お、お邪魔します……」
わたしたちもそれに続いた。
扉をくぐり抜けると、村人たちがこの家に詰め寄ってきた。まるで、わたしたちを閉じ込めるかのように。
家の中はとても質素で、最低限の家具と座布団しかない。
座敷の奥に、黒い帽子と茶色いツナギのおじさんが座っていた。年齢は……40歳ぐらいかな? 少し俯いているせいで、顔はよく見えない。でも、温和そうな雰囲気だ。
「遠路はるばる娘っ子たちだけで調査しに来るとはご苦労なこって。おりゃあこの村の大番をしてる、坪井 平八郎ってもんだ」
坪井 平八郎と名乗ったおじさんは、変わった口調で自己紹介をしてくれた。声に威圧感はないし、態度もどちらかというと友好的に感じる。
もしかして……許可が降りたってことかな?
「あら、ご丁寧にありがとう。今度はこちらの番ね。私は――」
「ああ、ああ、そういうつもりで名乗ったんじゃねぇ。ほら、アレだよ。――エンマ様に報告するにも、名無しじゃやりづれぇだろ?」
そう言うと平八郎さんは背中に手を伸ばし、
「いったい何を、どこまで知っている?」
何の脈絡もなく――猟銃を突きつけてきた。
「ひっ……!」
わたしは、金縛りにあったように動けなくなった。
誰だって銃は怖い。でも一番怖いのは、わたし達を見る平八郎さんの目だ。眼光は鋭くもないし、笑ってもいない。まるで……日常会話でも交わしているかのように普通だ。
もしかして、『こういうこと』に慣れてるってことなの……? じゃあ、これは脅しじゃなくて――。
まさか、本当に……? ウソだよね……? お願い! ウソって言って……!!
「三十八年式歩兵銃……第二次世界大戦で使われた小銃ね。その使い慣れた感じ、もしかして戦争帰りかしら?」
銃を突きつけられてもなお、火車さんは冷静だ。その姿を見て、わたしはギリギリのところでパニックにならずに済んだ。
だけど、とんでもない事に気づいてしまった。
「あの、第二次世界大戦って……終戦から80年経ってますよね?」
もし本当に戦争帰りだとしたら、百歳は超えているハズだ。だけど、平八郎さんは40代にしか見えない。でも、でも……!
ひどくくすんだその瞳は、わたし達とは違う『日常』を経験した事を物語っている。
「まさか……本当に不老があるの……?」
今の今まで信じていなかった。絵空事だと思っていた。でも……目の前に証拠がある。生きた証拠があってしまっている。
平八郎さんは、わたしの言葉に納得したように頷く。
「そうか……桂太郎さんの件から、ここに行き着いたってワケか……」
しまった。そう思った時には遅かった。
火車さんはさも当然というように――でも、わたしには微かに焦ってるように見えた――言い放つ。
「……ええ、その通りよ。でも安心して。私たちは政府の依頼で、この村の民族文化を調べに来ただけだから。何も見つからなければ、そのまま帰るだけよ」
そのまま帰る? 妖怪を見ようとして、三日三晩徹夜でキャンプするような人が? そんなのあり得ない!
もしかして……わたしを無事に帰す為にこんなウソを……?
ああ……わたしがうかつな発言をしてしまったばっかりに……! ごめんなさい、火車さん……!
「だから、その銃を降ろしなさい。もし私たちに何かあれば、ずっと隠してきたこの村が表沙汰になり、大量の警察が押しかけることになるわよ?」
火車さんの言葉に、村人たちは大きくうろたえる。だけど、平八郎さんだけは――。
「へっ、それで対等のつもりか? 大した肝っ玉だが、戦争帰りを舐めんなよ。なら、こいつはどうだい? アンタら途中で事故を起こした。だから、この村には誰も来なかった。……そういう筋書きに出来るぐらいの権力者が揃ってることぐらい、知ってんだろ?」
平八郎さんの言葉に、火車さんは――初めて見るぐらいに――表情を歪めた。
「この村はおりゃあが守る。【どろどろ様】、要らねぇかも知れねぇが――」
平八郎さんは天を仰ぎ見る。
「今度の【祭】に向けて、この二人を捧げます」
ガチャリ、と重々しい音が響いた。初めて聞く音。だけど分かる。これは、死の足音だって――。
「おめぇらの天佑はここまでだ。……あばよ」




