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一ニ三五村のどろどろ様~火車女教授の現代妖怪譚~  作者: 綺村 亮介


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51/57

51_【本祭】・祝いの宴


 ※--------------※



 いつもの集会所が見えてきた。

 その窓からは、煌々とした明かりが漏れていた。

 そして、中からは賑やかな声が漏れ聞こえてくる。


「もしかして……宴会でしょうか?」

「ええ。成功者を祝う祝宴です」

 平八郎さんが重厚な引き戸に手をかけ、ガラガラと開け放った。

 その瞬間、熱気と光の洪水が溢れ出した。


「おおっ! 来たぞ! 平八郎さんとトーノさんだ!!」「主役たちの登場だな!!」「よっ! 待ってました!!」

 中には、村人たちが勢揃いしていた。


 みんな、満面の笑みを浮かべている。

 手にはクラッカーや扇子を持ち、わたしたちに向けて一斉に歓声を浴びせてきた。

 乾いた破裂音と共に、色とりどりの紙テープが舞う。


「いやぁ、失敗知らずの平八郎さんも凄いが、来たばっかりのアンタが成功するだなんて誰も思っちゃいなかったよ!」

 紋付羽織袴を着たおじいさんが駆け寄ってきて、わたしの手を強く握りしめた。


 他にも、恰幅の良いおじさんが泣きながら肩を叩いてきた。

 上品なおばあさんが、とても立派な花束を渡してきてくれた。


 みんな、顔をくしゃくしゃにして喜んでくれている。

 失敗してしまった村人たちも、わたしの成功を心から祝ってくれている。


「あ、ありがとうございます! 祝ってくれて本当に嬉しいです!」

 わたしは圧倒されながらも、ペコペコと頭を下げた。

 なんというか、じんわりと温かい気持ちが込み上げてくる。


「ほらほら! こっちこっち! 成功者たちは上座に座るって決まってんだよ!」

 紋付羽織袴を着たおじいさんに案内されたのは、広間の一番奥。

 床の間の前にある、ひときわ豪華な座布団だった。

 そこには既に4人の成功者が座っていて、わたしと平八郎さんが加わって6人になった。


 目の前には、いつもの倍ぐらい豪華な食事が所狭しと並んでいた。

 大皿に盛られた伊勢海老の活造り。

 金粉がまぶされた特大のアワビ。

 霜降りの最高級和牛のステーキ。

 トリュフとフォアグラのソテー。

 キャビアが山盛りにされたクラッカー。

 桐の箱に入った高級メロン――。

 これまで毎日のように豪華な食事を見てきたけど、今夜のはまさに別格だった。


「す、すごい……!」

 思わず生唾を飲み込んだ。

 そんなに空腹じゃなかったハズなのに、今ではお腹が減って仕方がない。

 当然だ。この圧倒的な『食の暴力』には抗えるはずもなかった。


「さあ、始めようか! 【三十日祭】の本祭を!!」

 紋付羽織袴を着たおじいさんが音頭を取る。


「乾杯!!」

「「「乾杯ーーー!!」」」

 村人たちが一斉にグラスを掲げた。


 そこから祝宴は一気にヒートアップする。

 飲めや歌えやの大騒ぎ。

 三味線の音が響き、誰かが民謡を歌い出し、それに合わせて踊り出す人も居る。


 ただしそれらは全員、【祭】に失敗した人たちだった。

 わたし以外の成功した5人は、むしろ緊張した表情で固まっている。

 わたしはわたしで、慣れない祝宴に借りてきたネコのように緊張して固まったままだ。


 わたしは緊張をほぐす意味も含めて、目の前の料理を食べようと思った。

 キラキラ光る黄金のアワビに向かって、箸を伸ばす。


「おっと、トーノさん。そいつはいけねぇ」

 横から平八郎さんの手が伸びてきて、わたしの手首をガシッと掴んだ。


「え? な、なんでですか?」

「おりゃあたちは、こんな料理を食べなくていいんですよ」

 こ、こんな料理……? すごく美味しそうで、すごく高そうな食材を目の前にして言えるセリフじゃない。

 だけど平八郎さんの顔は、真剣そのものだった。


「どうしてですか? みんな食べてるじゃないですか」

「これは、ただの宴会です。成功者たちを祝うための。そして、失敗者を慰めるための」

 平八郎さんは、わたしから視線を外して会場を見渡した。


「彼らは【祭】には失敗したが、村の仲間として祝いに参加している。だから彼らは食べていいんです」

 わたしには全く理解出来ない理由だった。

 だけど、他の成功者たちは深く頷いていた。


「だけど、おりゃあたちは違う。おりゃあたちは『本祭』の参加者。【どろどろ様】に会う前に、こんな料理を食べるなんて失礼に当たるんです」

「え? 今ここで行われているのが本祭なんじゃ……?」

「トーノさん、いつの日だったか言ったでしょう? 【どろどろ様】に会えるのは、成功者だけだと。『本祭』に参加出来るのは……成功者だけなんです」

 平八郎さんは――いや、成功者の5人は、仄暗く、薄気味悪い笑みを浮かべていた。


「さあ――そろそろ時間だ」

 平八郎さんが立ち上がった。

 他の成功者たちもスッと立ち上がる。

 まるでそれが合図だったかのように、会場の喧騒が波が引くように静まった。


 全員の視線が、わたしたち6人に注がれる。

 その視線には、羨望、嫉妬、敬意、そして狂信的な期待が入り混じっていた。


「皆様!」

 平八郎さんがよく通る声で宣言した。


「我々6名は、これより【どろどろ様】の御元へ参ります! 此度の【三十日祭】の完遂を報告し、その御利益を賜って参ります!!」

 その瞬間、万雷の拍手が巻き起こる。  


「おおおおお!!」「行ってらっしゃい!!」「万歳! 万歳!!」

 地鳴りのような歓声に背中を押され、わたしたちは広間を後にした。



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