49_火車の調査録・終
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火車の調査録・【祭】最終日の夕方
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――夕暮れ時、空は切り裂かれた傷口から血が滲み出したような、不吉な赤色に染まっていた。
過去を思い出しながら、火車はずいぶんと歩いていた。
寒空だというのにうっすらと汗をかき、疲労感を覚えていた。
周囲に人気はない。それどころか、家すらほとんどなかった。
視界いっぱいに広がるのは、まだ水の入っていない茶色の田んぼ。
それらは地平線が見えそうなほど遠くまで広がっている。
他にあるものと言えば、電柱ぐらいなものだ。
ふと、視界の端に『違和感』が引っかかった。
何の変哲もないコンクリートの柱に、真新しい立て看板が括り付けられている。
それは黒い縁取りで、達筆な文字でこう書かれてあった。
――『故 平井とみ江 儀 葬儀会場』
「……葬儀?」
火車は眉をひそめた。
今更ながら気づいたが、あちこちに同じ看板がある。
それにしても、これは何の看板だろうか?
葬儀と書いてあるが、それ以上のことは分からなかった。
火車は、覚悟を決めて近くの家のチャイムを鳴らした。
すると、怪訝な顔をしたおばあさんがのっそりと出てきた。
「夕方にすみません。実はお尋ねしたいことがあるのですが……」
「はあ、何でしょうか……?」
「電柱にある看板についてお聞きしたくて。あれは何を知らせるものなんでしょうか?」
「おや、知らないのかい? これは『葬儀会場への案内板』さ。亡くなった人が居ると、こうして葬儀屋が電柱に看板をつけるんだよ」
「え……!? 亡くなった人のお知らせ……!?」
都会では絶対見ない光景に、火車はカルチャーショックを受けた。
「お、教えていただきありがとうございました」
動揺しながらも、火車は丁寧にお礼を言って家を後にした。
「さすがは田舎。個人情報がダダ漏れね……」
葬儀の看板を見ながら、火車は呆れ返っていた。
それにしても、一ニ三五村の近くで葬儀の案内とは皮肉が効いている。
火車はシニカルな笑みを浮かべた。
しかし――『何か』が引っかかるのを感じていた。
それが何なのかはまだ分からない。
だが、火車の民俗学者としての直感が、ここを見過ごすなと警鐘を鳴らしている気がした。
「……そういえば……」
ふと気になった火車は、この辺一帯の地図を開いた。
指でなぞりながら目的のマークを探すが……無かった。
田舎であろうと、都会であろうと、必ずある『アレ』がこの村には――いや、この辺一帯には一つも無かったのだ。
火車は慌ててさっきの家に戻り、もう一度チャイムを鳴らした。
「そ、そんなに慌ててどうしたんだい?」
「すみません! もう一つだけお聞きしたいことがあるんですが……!」
火車は、『アレ』がどこにあるのかを尋ねた。
「知らないのかい? ……いやまあ、普通は知らないか。アンタみたいな若い人なら特に。私も爺様から伝え聞いた程度だからね」
おばあさんは、山の向こうを指した。そこは、一ニ三五村がある方角だった。
「――あそこだよ」
ゾクリ、と背筋を冷たいものが駆け上がった。
「まさか……! じゃあもしかして……!?」
火車の中で、『何か』が繋がりつつあった。
礼を言うのも忘れて、火車は図書館へと駆け出していた。
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図書館は、閉館間際の静けさに包まれていた。
火車は受付の司書に目もくれず、郷土資料のコーナーへ飛び込んだ。
棚の奥から引っ張り出したのは、江戸時代に作られたという古い地図だ。
現在の地図と、過去の地図。
二つを机に広げ、食い入るように見比べる。
「……あった!」
火車の指が、過去の地図の上で止まった。
現在の地図では何も書かれていない――一ニ三五村すら書かれていない――が、過去の地図にはハッキリと記されていた。
この周辺唯一の『アレ』が、ある時期を境に地図から消されていたのだった。
「でも、『アレ』を隠して何の意味があるの……?」
だが、意味がなければここまで徹底的に消すこともないだろう。
徹底的に消したのは、何かを隠すため。
あの一ニ三五村が隠したいものといえば――。
「【どろどろ様】の……正体」
つまり、『アレ』の存在が【どろどろ様】の――妖怪の正体を探るための唯一無二にして最大のヒント。
火車は百鬼夜行が描かれた手帳を取り出し、恐ろしい勢いで情報を整理していく。
不老。
【祭】。
【守り事】。
それから――。
そして――パタンと閉じた。
「……間違いないわ。これが、【どろどろ様】の正体……!」
火車の脳内で、一枚の『妖怪の絵』が出来上がっていた。
「急いで一ニ三五村に行かないと……!」
火車は図書館を飛び出した。外はもう完全な闇に包まれていた。
【守り事】を三十日間守りきった者は、【どろどろ様】に会えるという。
ならば、不老の秘密とは――。
火車はヘルメットを被り、バイクのエンジンを限界まで吹かした。
「間に合って……!」
トーノが、取り返しのつかない『あちら側』へ行ってしまう前に――。




