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一ニ三五村のどろどろ様~火車女教授の現代妖怪譚~  作者: 綺村 亮介


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48/57

48_【祭】最終日・『踊る阿呆、同じ阿呆』

******************

【祭】最終日

******************


――チャンカ、チャンカ♪  チャンカ、チャンカ♪


 その音は、夢の淵からわたしをすくい上げるようにリズミカルに響いていた。

 朝の静寂を破るような、でもどこか懐かしいような不思議な音色。


「……んん?」

 わたしは重いまぶたを擦りながら、布団から上半身を起こした。


 なんだろう、この音は。

 いつものような張り詰めたような静けさじゃない。

 なんだかとっても楽しげな音がする。


 まだ眠気の残る頭で、わたしは習慣のように神棚を見上げた。



――『踊る阿呆、同じ阿呆』



「……は?」

 わたしは目をパチクリさせた。

 これが……本当に最後の【守り事】なの……?


 いや、それよりも外だ。

 窓の外から聞こえてくる音は、どんどん大きくなっていた。


「踊る阿呆に見る阿呆! 同じ阿呆なら踊らにゃそんそん!」

 その奇妙で楽しげな音頭に誘われるように、わたしはフラフラと玄関を開けた。


 外では村人たちが、全員踊っていた。

 愉快に、思い思いの踊りを全力で踊っていた。


 笠の代わりに帽子を被り、手を高く上げて阿波踊りを踊るおばあちゃん。

 やぐらの周りを回るように、しっとりと盆踊りを踊るおじいちゃん。

 中にはクワを担ぐような仕草で田植え踊りをしている人もいる。


 バラバラだ。

 地域も、リズムも、動きも、てんでバラバラだ。

 なのに……不思議と一体感があった。


 成功者も、失敗者も、村人全員が満面の笑みを浮かべて楽しそうに踊っている。


 【祭】だ。これは、わたしが知っている【祭】だ。

 わたしは、思わず喜んだ。


「あはっ……あははははは!」

 口から勝手に笑い声が漏れた。

 なんだか楽しくなって、わたしはその踊りの輪の中に飛び込んだ。


「エライヤッチャ! エライヤッチャ! ヨイヨイヨイヨイ!」

 やり方なんて知らない。伝統なんて分からない。

 でもそれでいい。


「エンヤートット! エンヤートット!」

 周りの人をマネするのもいい。記憶を頼りに適当に踊るのもいい。

 楽しければそれでいい。


「ハッ! ソレソレソレソレ!」

 誰かの掛け声に合わせて、わたしも叫ぶ。

 ノドが枯れても構わない。

 足が痛くなっても構わない。


 【祭】は【祭】らしく、もっと盛り上げないと。

 もっともっと楽しまないと。


 視界がぐるぐると回る。

 思考が溶けていく。

 楽しい。楽しい。楽しい!


「踊る阿呆に見る阿呆! 同じ阿呆なら踊らにゃそんそん!」

 それは村人たちの声であり、わたしの声であり、そして――。

 どこか遠くで、地面の底から響いてくるような低い低い笑い声のような気がした。


 それでもわたしは踊るのを止めなかった。

 日が暮れるまで。

 この身体が動かなくなるまで。


「あはははははははははは!!!」

 わたしは、この狂った輪の中でただひたすらに踊り続けた――。 


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