41_【祭】十四日目・『福笑い、集めて楽し』5
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絶望な気分のまま、更に一時間が経過した。
空が茜色に染まる。いよいよタイムリミットがすぐそこまで迫っている。
もし最後まで見つけられなかったら、どうなるんだろう?
左目は戻らないままなの? 一生片目のままなの?
それとも、全部没収されてしまうの……?
分からない。分からないからこそ恐ろしい。
恐怖で足がすくんで、涙が出てくる。
「イヤ……! もうイヤ……!」
もうパニック寸前だった。いっそパニックになった方が楽な気さえしてきた。
なんとかしないと。でもどうやって?
なんとかするんだ。でもどうやって?
わたしの思考は、この繰り返ししか出来なくなっていた。
そもそも、わたしには無理な【守り事】だったんだ。
いや、初めからそうだ。三十日間も【守り事】を守り通せるハズがなかったんだ。
どうしてわたしが選ばれてしまったんだろう?
火車さんが選ばれていれば、すぐにでもこの【守り事】をクリアしているハズなのに。
三十日間守り通すのも簡単なハズなのに。
火車さんなら、火車さんなら――。
「火車さんなら……どうやってこの左目を見つけるのかな?」
わたしの考えではもう無理だ。
だからわたしは、火車さんならどうするかを考えることにした。
火車さんならどんな方法で見つける? きっと培った知識で解決するはずだ。
もしかしたら意外な方法で道を切り開くかもしれない。
そうだ。火車さんの助手として、諦めてたまるもんか……!
きっとまだ何か方法があるハズ。
空を見ているなら、空にあるもので合図を送れないかな?
「位置を特定するには……」
空を見ている目の、現在地を知る方法……。
ドローン? そんなハイテクなものはない。
風船? ダメだ、ヘリウムがないと浮かび上がらない。
じゃあ……もっとアナログな方法だ。
遠くからでも見えるもの。空に――いや、空を見ている目にサインを送れるモノ。
「そっか、煙……!」
そうだ! 狼煙があった!
今も使われている、最古の通信手段。
空を見上げているなら、煙が上がれば絶対に見えるハズ!
……いや、ダメだ。煙を上げても、結局視界の片隅に煙が見えるだけで、位置の特定までは出来ない。
でもすごく惜しい気がする。何かが足りないだけな気がする。
……分かった! 『三角測量』だ!
わたしは近くの小屋に飛び込んで、必要なものをかき集める。
ライター、古新聞、黒いビニールシール、着火剤の代わりの灯油。
あとは、あとは……やった! 発煙筒もあった!
これでなんとかなるハズ……! ――いや、なんとかするんだ!
わたしは走った。
もう体力なんて残っていないけど、最後の力を振り絞って走った。
息が切れる。でも止まったら終わりだ。
日が沈む前に煙を上げなきゃいけない。
これが……本当のラストチャンスだ。
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わたしはまず最初に、村の南にある広場で灯油をかけた新聞紙を燃やした。
白い煙がモクモクと立ち昇る。
これまで空しか映ってなかった左目に、やっと新しいヒント――白い煙が映った。
「やった!」
だけどまだ早い。だけどまだ足りない。
わたしは急いで次の場所に移る。
次は村の西にある畑で、黒いビニールを燃やした。
真っ黒な煙がモウモウと立ち昇る。
これで左目には、白い煙と、黒い煙の二つが映った。
そして最後に、村の東の入り口で発炎筒を焚いた。
鮮やかな光と赤い煙がゴウゴウと立ち昇る。
まぶしい。でもわたしにはそれが希望の光に見えた。
これで三つの狼煙が上がった。
白、黒、赤の三つが、村を囲うような三角形になっている。
これで……ついに準備完了だ。
わたしは村の中央に戻って、左目に全神経を集中させる。
暗くなりかけた空に、希望の三本の煙が見える。
「よし、これで……!」
視界の下からは、黒い煙が。
視界の左からは、白い煙が。
そして視界の右からは、赤い煙が見える。
一番大きく見える煙は、黒い煙。
そして次に大きいのは、赤い煙。
一番小さく見える煙は当然、白い煙。
つまり――。
村の入口を南とするならば、東か、南東よりの位置に左目がある……!
わたしは村の中央から、東に向けて石を放り投げる。……何も見えない。
次は、ちょっとだけ南東に動かして石を放り投げる。……また何も見えない。
陽はもう落ちかける寸前で、微かな夕日だけが村を照らしている。
もうタイムオーバー寸前だ。
「お願い……! もうこれしか方法がないの……!」
わたしは震える手をぐっと押さえ、石を放り投げ続ける。
そしてついに――南南東やや南に投げた石が、視界を横切った。
「ここだ……! 間違いない……!」
この直線上に、必ず左目がある……!
わたしはハシゴを片手に、直線を突き進む。
屋根に昇り、また降り、そしてまた昇るを繰り返していく。
夕日が完全に落ちた時――真っ暗な影がわたしの左目に入ってきた。
それは、わたし自身だった。
「……あった……。あったよ! わたしの左目が! ここに!!」
わたしはわたしの左目を持ち上げる。
確かめるまでもない。これはわたしの左目だ。
最後の……最後の顔のパーツだ……!
間に合った……。間に合ったんだ……!
嬉しさのあまり、わたしは号泣する。
持ち上げた左目と、最初に見つけた右目の涙が、空中で混ざりあった。
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それから少しして、タイムオーバーになったことが直感で『分かった』。
ギリギリだった。本当にギリギリだった。
村のあちこちから絶叫とすすり泣く声が聞こえてくる。
今回の【守り事】に失敗した村人は、全体の半数――26人にもなったことを後で知った。
平八郎さんも、わたしと同じぐらいギリギリだったそうだ。
いつもは助けてくれる平八郎さんだけど、今回ばかりはその余裕もなかったらしい。
きっと翌日には、【守り事】に失敗した罰が執行されるだろう。
26人もの指が、平八郎さんの手によって【どろどろ様】に捧げられるだろう。
ああ、今になって分かった。
そのぐらいの犠牲、安いものだと。
こんな試練の後なら、きっと誰だってそう思うだろう。
わたしは、自分の顔をもう一度触った。
でもこれは、本当に「私の顔」なんだろうか?
一度バラバラになって拾い集めたこの顔は、本当に元のわたしと同じなんだろうか?
もし微妙に配置がずれていたら?
もし知らない誰かのパーツが混ざっていたら?
疑心暗鬼になりそうになる。
でも……きっと大丈夫だ。なぜかそう思えた。
そう信じて、私は家路を急いだ。
背後の闇から、誰かの視線を感じながら。
【祭】十四日目は、こうして幕を閉じた。
それは、わたしがわたしを取り戻すための、長い長い一日だった――。




