40_【祭】十四日目・『福笑い、集めて楽し』4
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顔のパーツが揃ってきたからなのか、要領を掴んできたからなのか、そこからは早かった。
右耳をすますと、チョロチョロという音が本当に微かに聞こえた。
その時点で、水の近くにあることは間違いないと確信した。
水道の蛇口? いや、それなら下に落ちた時のピチャピチャという音も混じるハズ。
川の近く? いや、この村には川は通っていない。だけど、それに近い音だ。
……分かった! 田んぼ用の排水路だ!
この推測は見事にビンゴで、水の流れている方向に沿って歩いていったら、草むらの中に埋もれているのを見つけた。
次は『鼻』だった。探す手段は、もちろん匂いだ。
クンクンと嗅ぐと、甘くて優しい香りがした。
なんというか、とても嗅ぎ慣れた匂いだ。懐かしさすら感じた。
そういえば、昨日もどこかで――。
……いや、待って。もしかしてこの匂いって……まさかトイレ!?
イヤー! なんでよりによってトイレに鼻があるの!? 止めてーーー!!
あれ? でもどうしてトイレだと思ったんだろう?
臭いじゃなくて、甘くて優しい香りなのに。
そこでわたしはピンと来た。本当の花の匂いを、トイレの芳香剤と勘違いしたのだと。
花には詳しくないけど、きっとこれは――ラベンダーの香りだ。
記憶違いじゃなければ、プランターで育てている人が居たハズだ。
わたしは記憶を頼りに家の軒先を順番に見ていくと……。
あった! ラベンダーだ! わたしの鼻もある!
これで残りは左目だけ。空を見上げると、日はまだまだ高い。
これなら安心だ。これなら問題ない。
絶望に満ちたこの【守り事】も、やっと終われる。
その時のわたしは、そんな風に思っていた。
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「よし! あとは左目だけだ!」
わたしは全神経を『左目』に集中する。探す手順も慣れたものだ。
「……あれ?」
見えるのは――一面の青。どこまでも広がる青い空だけ。
「ほ、他に何か映ってないの……?」
固定された視界を必死に探ってみるが、本当にそれだけだった。
完全に『上』を向いている。周りの景色が一切映っていない。
地面も、木も、建物も無い。ただひたすらに青い空。
これでは情報量がほぼゼロだ。
なんてことだ。これでは場所を特定できない。
空が見える場所なんて、この村にはいくらでもある。
屋根の上かもしれないし、道端かもしれない。
あるいは畑の真ん中とか、木のてっぺんとか、崖の上とかかもしれない。
「ど、どうしよう……!?」
とりあえずわたしは、村中を走り回ってみた。村の東へ西へと。
どこかでわたしが映ることを期待して。
「映れ! 何でもいいから映ってよ!」
空に向かって大きく手を振る。あちこちでジャンプしてみる。
でも、左目の視界には相変わらず空しか映っていない。
これだけ走り回っても映らないということは、やっぱり高いところにあるのかな……?
ううん、そう断定するのは危なすぎる。
とにかく今は、足で稼ぐしかない。
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そこから一時間経過しても、左目は見つけられなかった。
手がかりすら得られなかった。
耳なら音が聞こえる。
口なら音が出せる。
鼻なら匂いが分かる。
それは場所を特定する大きなヒントに繋がる。
だが目は、見えるだけ。
一番のヒントのハズなのに、何のヒントにもなっていない。
それがより一層、わたしを焦らせた。
どうしよう? どうしよう? どうしよう……!?
何も出来ず、焦りだけが募っていく。
太陽が傾いてきた。影が長くなる。
時間が経つのが怖い。心臓の音がうるさいくらいに響く。
タイムリミットが刻一刻と迫ってくる。
ひたひたと、得体のしれない『ナニカ』が音もなく近寄ってくる気がした――。
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そこから更に一時間が経過した。
わたしはまだ、ヒントすら見つけられずにいた。
空の色が少しずつオレンジ色に変わっていく。
きれいな夕焼けだけど、今はそれが恐ろしい。
「よこせ! それは俺の目だ!」「違う! わたしのだ!」
皿の上に乗った目玉を巡って奪い合いが始まっていた。
自分の視界を確かめればすぐに分かるハズなのに、冷静さを失った村人はそれすらも出来なくなっていた。
村人たちの様子がどんどんおかしくなっていく。
完全に発狂して暴れている人がいる。
殴り合ったり、掴み合ったりしている。
昨日まであんなに仲良くしていたのに……。
わたしはもう見ていられなかった。
でも……気持ちが分かってしまう自分も居た。
他人の目を見つける度に思ってしまうのだ。
これが自分のだったらいいのに、と。
いっそ自分がつけてしまおうか、と――。




