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一ニ三五村のどろどろ様~火車女教授の現代妖怪譚~  作者: 綺村 亮介


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40/57

40_【祭】十四日目・『福笑い、集めて楽し』4


 ※-------------※



 顔のパーツが揃ってきたからなのか、要領を掴んできたからなのか、そこからは早かった。


 右耳をすますと、チョロチョロという音が本当に微かに聞こえた。

 その時点で、水の近くにあることは間違いないと確信した。


 水道の蛇口? いや、それなら下に落ちた時のピチャピチャという音も混じるハズ。

 川の近く? いや、この村には川は通っていない。だけど、それに近い音だ。


 ……分かった! 田んぼ用の排水路だ!

 この推測は見事にビンゴで、水の流れている方向に沿って歩いていったら、草むらの中に埋もれているのを見つけた。



 次は『鼻』だった。探す手段は、もちろん匂いだ。

 クンクンと嗅ぐと、甘くて優しい香りがした。

 なんというか、とても嗅ぎ慣れた匂いだ。懐かしさすら感じた。

 そういえば、昨日もどこかで――。


 ……いや、待って。もしかしてこの匂いって……まさかトイレ!?

 イヤー! なんでよりによってトイレに鼻があるの!? 止めてーーー!!


 あれ? でもどうしてトイレだと思ったんだろう?

 臭いじゃなくて、甘くて優しい香りなのに。

 そこでわたしはピンと来た。本当の花の匂いを、トイレの芳香剤と勘違いしたのだと。


 花には詳しくないけど、きっとこれは――ラベンダーの香りだ。

 記憶違いじゃなければ、プランターで育てている人が居たハズだ。


 わたしは記憶を頼りに家の軒先を順番に見ていくと……。

 あった! ラベンダーだ! わたしの鼻もある!


 これで残りは左目だけ。空を見上げると、日はまだまだ高い。

 これなら安心だ。これなら問題ない。

 絶望に満ちたこの【守り事】も、やっと終われる。


 その時のわたしは、そんな風に思っていた。



 ※-------------※



「よし! あとは左目だけだ!」

 わたしは全神経を『左目』に集中する。探す手順も慣れたものだ。


「……あれ?」

 見えるのは――一面の青。どこまでも広がる青い空だけ。


「ほ、他に何か映ってないの……?」

 固定された視界を必死に探ってみるが、本当にそれだけだった。

 完全に『上』を向いている。周りの景色が一切映っていない。

 地面も、木も、建物も無い。ただひたすらに青い空。

 これでは情報量がほぼゼロだ。


 なんてことだ。これでは場所を特定できない。

 空が見える場所なんて、この村にはいくらでもある。

 屋根の上かもしれないし、道端かもしれない。

 あるいは畑の真ん中とか、木のてっぺんとか、崖の上とかかもしれない。


「ど、どうしよう……!?」

 とりあえずわたしは、村中を走り回ってみた。村の東へ西へと。

 どこかでわたしが映ることを期待して。


「映れ! 何でもいいから映ってよ!」

 空に向かって大きく手を振る。あちこちでジャンプしてみる。

 でも、左目の視界には相変わらず空しか映っていない。


 これだけ走り回っても映らないということは、やっぱり高いところにあるのかな……?

 ううん、そう断定するのは危なすぎる。

 とにかく今は、足で稼ぐしかない。



 ※-------------※



 そこから一時間経過しても、左目は見つけられなかった。

 手がかりすら得られなかった。


 耳なら音が聞こえる。

 口なら音が出せる。

 鼻なら匂いが分かる。

 それは場所を特定する大きなヒントに繋がる。


 だが目は、見えるだけ。

 一番のヒントのハズなのに、何のヒントにもなっていない。

 それがより一層、わたしを焦らせた。


 どうしよう? どうしよう? どうしよう……!?

 何も出来ず、焦りだけが募っていく。


 太陽が傾いてきた。影が長くなる。

 時間が経つのが怖い。心臓の音がうるさいくらいに響く。

 タイムリミットが刻一刻と迫ってくる。

 ひたひたと、得体のしれない『ナニカ』が音もなく近寄ってくる気がした――。



 ※-------------※



 そこから更に一時間が経過した。

 わたしはまだ、ヒントすら見つけられずにいた。


 空の色が少しずつオレンジ色に変わっていく。

 きれいな夕焼けだけど、今はそれが恐ろしい。


「よこせ! それは俺の目だ!」「違う! わたしのだ!」

 皿の上に乗った目玉を巡って奪い合いが始まっていた。

 自分の視界を確かめればすぐに分かるハズなのに、冷静さを失った村人はそれすらも出来なくなっていた。


 村人たちの様子がどんどんおかしくなっていく。

 完全に発狂して暴れている人がいる。

 殴り合ったり、掴み合ったりしている。


 昨日まであんなに仲良くしていたのに……。

 わたしはもう見ていられなかった。

 でも……気持ちが分かってしまう自分も居た。


 他人の目を見つける度に思ってしまうのだ。

 これが自分のだったらいいのに、と。

 いっそ自分がつけてしまおうか、と――。



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