04_一ニ三五
わたしとスネコスリはサイドカーに乗り、今回の調査対象だという村に向けて出発する。
トラックとすれ違う度に、向こうの運転手はギョッとした顔をしていた。
それもそうだろう。こんな辺ぴな所に、真っ赤なライダースーツを着た、真っ赤なバイクが走っているのだから。
……新たな都市伝説にならなきゃいいけど……。
出発して10分ほど経った頃、
「……トーノ、気づいたかしら?」
ふいに、火車さんがそう質問してきた。
「気づいたって……何にですか?」
「こんな田舎だというのに、コンテナトラックがやけに多いわ」
「ああ、言われてみれば確かに……」
道路の中央線すらない狭い道だというのに、コンテナトラックとばかりすれ違っている。
田舎っていうのは、もっとこう……自転車とか、トラクターとかとすれ違うイメージだったけど。
「意外と国道が近いんでしょうか? それとも、言わずと知れたショートカットだったり?」
「その可能性は否定できないわね。でも……アレはどう説明するかしら?」
「アレ? ……ええ!? な、なんですか、これ!?」
突然現れた光景に、わたしは思わず目を見開いた。
わたしたちが向かっているのは、山の中腹にある限界集落らしき村だ。にも関わらず、片側四車線という、まるで東京のような立派な道路が整備されてあった。
「こ、ここって田舎ですよね……? どうしてこんなに立派な道路が……?」
「さて、ね。税金の無駄遣いでない事を祈るわ」
「……ん?」
ふいに、奇妙な看板が目に飛び込んできた。
『一ニ三五』? 何の表記だろう? よく見ると、あちこちに同じ看板があった。
「あの、火車さ――」
大きな道路に出たからか、火車さんはグンとスピードを上げた。
まあいいか。わたしは質問するのを止めた。
スネコスリの肉球をぷにぷにと触りながら、田舎ではありえない光景をなんとなく眺めていた。
※----------※
バイクを飛ばすこと30分、急に整備された道路が終わり、田舎らしいデコボコの土道に変わった。
「揺れるわよ」
その宣言通り、アトラクションのようにサイドカーが飛び跳ねる。
「ちょっ! なっ! まっ!」
痛た! 硬いシートがお尻にガンガンぶつかって痛い!
「わ、にゃ。わ、にゃ。わ、にゃ」
スネコスリもサイドカーの中でぶるんぶるん揺れ回っている。
多少不気味でも、やっぱり道路は整備されている方が嬉しいと痛感したよ……。
※----------※
「――着いたわよ」
地獄のアトラクションがやっと終わり、わたしは避難するようにサイドカーを降りる。うう……お尻が痛い。
「……え? こ、ここが調査対象の村なんですか……?」
不老の秘密を守る村。だから、どんなに奇妙で、どんなに恐ろしい所かと思っていたら……拍子抜けするほど普通の田舎の村だった。
赤や黒の瓦屋根の家々。畑に突き刺さったままのスコップ。軒先に吊るされた柿。錆びたトタン板の倉庫。年季の入った猫車――。
夕暮れが郷愁さをより増しており、まるでジブリ世界のようでホッとするぐらいだ。
ふと、『一ニ三五』という数字がまた目に入った。来る途中で何回も見た数字だ。違うのは、丸太を削って作られた古い看板であることと、そして――。
「あれ……? よく見ると、最後に『村』って書いてますね。『一ニ三五村』って読むんでしょうか? ……変な名前ですね」
「……トーノ、これはなんて読むか分かるかしら?」
急に火車さんは手帳に文字を書き、わたしに見せた。
「えーっと、『春夏冬』……?」
んん? 何か違和感が……。
「普通は『春夏秋冬』ですよね? どうして秋がないんですか?」
「そう、秋がない。あきない。『春夏冬』と書いて、『春夏冬』と読むのよ。江戸時代の言葉遊びね」
「ええー……なんて強引な……」
「きっとこの村名も、それと同じよ。普通なら『四』が入るのに、入っていない」
「えーっと……『一ニ三五村』?」
なんか……ダサい。ひたすらにダサい。わたしならそんな村に住みたくないかも。
「『四』は、『四』とも読めるわね。昔からの忌み数字の一つよ」
「じゃあ……『一ニ三五村』?」
そう口にした途端、身体に寒気が走った。
分かった。分かってしまった。この村の名前が――。
「まさか……『一ニ三五村』と読むんじゃ……?」
火車さんは、静かに頷いた。
「恐らく、ね。あるいは、少し昔風に言うなら、『一ニ三五村』……かもしれないわね」
それはまさに、不老の秘密を守るに相応しい村名だった。
次回更新は日曜日――明日の19時10分からです!
どうかお楽しみに!




