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一ニ三五村のどろどろ様~火車女教授の現代妖怪譚~  作者: 綺村 亮介


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4/15

04_一ニ三五

 わたしとスネコスリはサイドカーに乗り、今回の調査対象だという村に向けて出発する。

 トラックとすれ違う度に、向こうの運転手はギョッとした顔をしていた。

 それもそうだろう。こんな辺ぴな所に、真っ赤なライダースーツを着た、真っ赤なバイクが走っているのだから。

……新たな都市伝説にならなきゃいいけど……。


 出発して10分ほど経った頃、

「……トーノ、気づいたかしら?」

 ふいに、火車さんがそう質問してきた。


「気づいたって……何にですか?」

「こんな田舎だというのに、コンテナトラックがやけに多いわ」

「ああ、言われてみれば確かに……」


 道路の中央線すらない狭い道だというのに、コンテナトラックとばかりすれ違っている。

田舎っていうのは、もっとこう……自転車とか、トラクターとかとすれ違うイメージだったけど。


「意外と国道が近いんでしょうか? それとも、言わずと知れたショートカットだったり?」

「その可能性は否定できないわね。でも……アレはどう説明するかしら?」

「アレ? ……ええ!? な、なんですか、これ!?」


 突然現れた光景に、わたしは思わず目を見開いた。

 わたしたちが向かっているのは、山の中腹にある限界集落らしき村だ。にも関わらず、片側四車線という、まるで東京のような立派な道路が整備されてあった。


「こ、ここって田舎ですよね……? どうしてこんなに立派な道路が……?」

「さて、ね。税金の無駄遣いでない事を祈るわ」


「……ん?」

ふいに、奇妙な看板が目に飛び込んできた。

『一ニ三五いちにさんご』? 何の表記だろう? よく見ると、あちこちに同じ看板があった。


「あの、火車さ――」

 大きな道路に出たからか、火車さんはグンとスピードを上げた。

 まあいいか。わたしは質問するのを止めた。

 スネコスリの肉球をぷにぷにと触りながら、田舎ではありえない光景をなんとなく眺めていた。


 ※----------※


バイクを飛ばすこと30分、急に整備された道路が終わり、田舎らしいデコボコの土道に変わった。

「揺れるわよ」

その宣言通り、アトラクションのようにサイドカーが飛び跳ねる。


「ちょっ! なっ! まっ!」

 痛た! 硬いシートがお尻にガンガンぶつかって痛い!

「わ、にゃ。わ、にゃ。わ、にゃ」

 スネコスリもサイドカーの中でぶるんぶるん揺れ回っている。

 多少不気味でも、やっぱり道路は整備されている方が嬉しいと痛感したよ……。


※----------※


「――着いたわよ」

 地獄のアトラクションがやっと終わり、わたしは避難するようにサイドカーを降りる。うう……お尻が痛い。

「……え? こ、ここが調査対象の村なんですか……?」


 不老の秘密を守る村。だから、どんなに奇妙で、どんなに恐ろしい所かと思っていたら……拍子抜けするほど普通の田舎の村だった。

 赤や黒の瓦屋根の家々。畑に突き刺さったままのスコップ。軒先に吊るされた柿。錆びたトタン板の倉庫。年季の入った猫車――。

夕暮れが郷愁さをより増しており、まるでジブリ世界のようでホッとするぐらいだ。


ふと、『一ニ三五』という数字がまた目に入った。来る途中で何回も見た数字だ。違うのは、丸太を削って作られた古い看板であることと、そして――。

「あれ……? よく見ると、最後に『村』って書いてますね。『一ニ三五村いちにさんごむら』って読むんでしょうか? ……変な名前ですね」


「……トーノ、これはなんて読むか分かるかしら?」

 急に火車さんは手帳に文字を書き、わたしに見せた。


「えーっと、『春夏冬はるなつふゆ』……?」

 んん? 何か違和感が……。

「普通は『春夏秋冬しゅんかしゅんとう』ですよね? どうして秋がないんですか?」


「そう、秋がない。あきない。『春夏冬はるなつふゆ』と書いて、『春夏冬あきない』と読むのよ。江戸時代の言葉遊びね」

「ええー……なんて強引な……」

「きっとこの村名も、それと同じよ。普通なら『よん』が入るのに、入っていない」


「えーっと……『一ニ三五村よんないむら』?」

 なんか……ダサい。ひたすらにダサい。わたしならそんな村に住みたくないかも。

「『よん』は、『』とも読めるわね。昔からの忌み数字の一つよ」


「じゃあ……『一ニ三五村しないむら』?」

 そう口にした途端、身体に寒気が走った。

分かった。分かってしまった。この村の名前が――。



「まさか……『一ニ三五村しなないむら』と読むんじゃ……?」

 


 火車さんは、静かに頷いた。

「恐らく、ね。あるいは、少し昔風に言うなら、『一ニ三五村しなずむら』……かもしれないわね」

 それはまさに、不老の秘密を守るに相応しい村名だった。


次回更新は日曜日――明日の19時10分からです!


どうかお楽しみに!

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