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一ニ三五村のどろどろ様~火車女教授の現代妖怪譚~  作者: 綺村 亮介


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03_不老不死


「え? ……えええぇぇぇ!?」

思わず、やまびこが帰ってくるぐらいの悲鳴をあげてしまった。

あの日に亡くなったのが、『本物の桂太郎』だった? でも、そんなのあり得ない……!


「じゃ、じゃあ本当に170歳を超えていたってことなんですか!?」 

「ええ、間違いないわ」

火車さんは、さも当然と言わんばかりに涼しい顔で返す。


「いや、だって、170歳だなんて……! じゃ、じゃああの娘さんは何だったんですか!?」

「関係者が用意した偽物でしょうね。DNA鑑定の結果から、血縁者ではない事はハッキリしているわ」

「か、関係者……?」


「真実が明るみになるのを嫌った人たちよ。そうね、言い換えるなら――」

 火車さんは自分の赤髪をすうっと撫で、

「『不老の秘密を守る人たち』……といったところかしら」

 微かに、でも蠱惑的な笑みを浮かべてそう言った。


「不老の……秘密……?」

 だんだん話がきな臭くなってきた。現実感が薄れ、頭も痛くなってきた。


「あ……あはは……。まさか、そんな、ねえ……? 人魚の肉でも食べたっていうんですか?」

「いいえ、それはないわ」

「そ、そうですよね! 昔話じゃないんだし!」

 良かった。火車さんが否定してくれたおかげで、現実に帰ってきた気がする。


「桂太郎の死因は、心不全。いわゆる、老衰だったそうよ。もし本当に人魚の肉を食べたのなら、老衰はありえないわ」

「あー……ないって、そっちのないだったんですか……」

 前言撤回。また昔話の世界に戻されてしまった。

「ギネスをゆうゆうと超える、あり得ない長寿。私はこの事件を――」



「妖怪の仕業だと考えているわ」



 私はその言葉を――半ば呆れながら聞いていた。

 容姿端麗、頭脳明晰。完璧ともいえる火車さんの、唯一にして最大の欠点。

 それは……『妖怪バカ』なところだ。


「誰が妖怪バカよ、失礼ね」

「そ、そそそ、そんなこと思ってませんよ!」

 ウソ!? か、考えを読まれた!? いやー……火車さんの方がよっぽど妖怪じみてる気がする……。


 自分では認めてないけど、確固たる妖怪バカの証拠がある。それは――。

「わんにゃー」

 サイドカーから、ぴょこんと白ネコが飛び降りる。


「スネコスリ、やっと起きたの?」

 火車さんは呆れたように言う。

 そう……この変わった鳴き声と、変わった名前のネコこそが、火車さんの相棒であり、妖怪バカの証拠でもある。


「火車さん。この子の名前の由来を、もう一度教えてくれませんか?」

「人のスネにまとわりついて転ばせようとしてくるから、スネコスリよ。つまり、立派な妖怪ね」

 この通り、自分の飼い猫を妖怪だと言ってはばからないのだ。いくらなんでも無理がある。


「正体不明のモノに、名前をつけたモノ。故に、モノノケ。故に、妖怪なのよ」

「その理由付けは理解出来ないです……」

 わたしが凡人だから分からないのか、それとも火車さんにしか理解出来ないのか……。


スネコスリは我関せずといったご様子で、大きなあくびを開けながら、ぐしぐしと顔を洗っている。

不思議な事に、飼い主に似て毛並みの一部が赤茶けているのが特徴的だ。


「あのー……いいタイミングなので聞きたいんですが、火車さんって妖怪に呪われてるって本当ですか? だから前髪が赤くなったとかなんとか……」

「呪われてる? そんなワケがないでしょう」

「で、ですよねー……」

 やはり人のウワサはあてにならないものだ。


「私は、妖怪に育てられたのよ」

「ですよねー……って、はい!? よ、妖怪に育てられた!?」

 呪われたより、そっち方がよっぽど驚きなんですけど!?


「前髪が赤くなったのは、妖怪が作ったご飯を食べたからよ。さながら、黄泉戸喫よもつぐへいみたいにね」

「え? ええ? えええぇぇぇ!?」

 衝撃的な情報の多重攻撃に、わたしの頭はすっかりパニックだ。


「……なんてね、冗談よ、冗談」

「へ? あっ、な、なーんだ! 冗談だったんですか! あ、あはは! もう火車さんったらお茶目なんですから!」

 そ、そうよね。妖怪に育てられたとか、妖怪ご飯を食べたとか、民俗学あるある(?)な冗談よね! ……でも、火車さんには本当だと信じ込ませる魔性さがあるから困るわ……。


「まあ……冗談は一つだけなんだけど」

「一つだけ!? ど、どれが本当でどれが冗談なんですか!?」

 火車さんはクスリと笑うだけで、それ以上答えてくれなかった。火車さーーーん! お願いだから教えてーーー!!


「さて、そろそろ本題に戻りましょう。トーノは今回の目的を知りたがっていたわね」

「は、はい。行き先も教えてくれないから、いつも通りのフィールドワークだと思ってたんですが……」

「あの山の中腹に、村があるのが見えるわね?」

 火車さんが指差す方向を見ると、いかにも限界集落っぽい村があった。


「はい、見えますね。あの村がどうかしたんですか?」

「桂太郎の足跡を調査した結果、あの村に住んでいた事が分かったわ。少なくとも、百年近くにわたってね」

 百年……。普通なら、生まれた地で育って、そのまま骨を埋めるような年月だ。


「でも、それがわたしに何の関係が――」

 口にして気づいた。気づいてしまった。もしかして、こんな辺ぴな場所まで来た理由って……!



「あの村の調査が、今回の目標よ。不老を与えたと思われる妖怪――【どろどろ様】が本当に居るかどうかの、ね」


次回更新は土曜日――明日の19時10分からです!


どうかお楽しみに!

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