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一ニ三五村のどろどろ様~火車女教授の現代妖怪譚~  作者: 綺村 亮介


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02_火車とトーノ



――五ヶ月後――



 一台のバイクが、寂れた丘の上に止まる。

 そのバイクは炎のように赤く、ドライバーもまた赤いライダースーツに身を包んでいた。まるで、彼女の名を表すかのように。


「ふう……」

 火車かしゃ女教授は、なんとも艶っぽいため息をもらしながらヘルメットを取った。

 長い黒髪が、春風にそよぐ。――わたしはそれを、うっとりと見ていた。


「……トーノ、いつまでそこに座ってるつもりなの?」

「わわっ、すみません! 今降ります!」

 わたしは急いでサイドカーから降りる――つもりだったが、足が引っかかって転んでしまった。


「あいたっ! 痛たたた……」

「三時間以上も乗っていたものね。足がもつれるのも無理ないわ」

 火車さんはわたしの手を取り、優しく起こしてくれた。ふわー……。やっぱり火車さんはステキな女性だなぁー。


 火車さんはわたしが通う大学の、民俗学の教授だ。といっても、妖怪のことしか教えない変わり者でもある。けど、その容姿とミステリアスな雰囲気もあって、その筋――妖怪学では有名人らしい。

 一番の特徴は、赤い前髪だろう。美しい黒髪の中に、一筋の朱が混じっている。自分で染めたのではなく、生まれつきらしい。

 なんでもウワサでは、妖怪に呪われてるからなんだとか……。なんていうか、ミステリアスさに拍車がかかってるね。


 一方わたしは、本当に普通の大学生。本名は佐藤さとう 望乃ののなんだけど、火車さんはなぜかトーノと呼ぶ。

 ちなみに20歳。そして火車さんはなんと24歳! 今のわたしと同じぐらいの年齢で、もう教授になってたって。

 美人な上に頭も良いだなんて、ズルいよね。反則だよね。チートだよね。

 まあ……そこが火車さんのステキなところなんだけどさ。


「それで、今日はどこをフィールドワークするんですか? 寂れた田舎だなんて、いかにもって感じですけど」

「その前に、トーノは三週間前に起きた『桂太郎事件』を知ってるかしら?」

「あっ、それってアレですよね。渋谷で倒れた人が、実は桂太郎なんじゃないか? ってヤツ。SNSですっごい賑わってましたけど、最後はなんとも言えない終わり方をしてましたね……」


 『桂太郎事件』とは、SNS上で勝手につけられた一連の騒動名のことだ。

 <ただのホームレスかと思ったら、なんとかつての陸軍大臣だった! もし本物なら、なんと170歳超え!? 不老不死は本当にあったんだ!!>というタイトルが、毎時間……いや、毎分ぐらいのペースでSNSにまとめサイトやらyoutubeやらにアップされていた。

 ところが、センセーショナルな話題は、なんとも地味な結末を迎える。

 そう……本物の遺族――娘が現れたのだ。


 娘は、「父がネット上で毎日おもちゃのような扱いを受けています。とてもガマンできることではありません」と声明を出した。

 これによって、『桂太郎事件』は一気に終わりを迎えた。そして、最初に言い出したYouTuberは袋叩きにされ、チャンネル閉鎖まで追い込まれたのだった――。


「まあ……わたしは最初から信じてませんでしたが。でも、それが今回のフィールドワークと何の関係があるんですか?」

「関係も何も、全て、よ」

「……はい?」



「あの日、あの場所で亡くなった人物は……『本物の桂太郎』だったのよ」


次回更新は今日の20時50分からです!


どうかお楽しみに!

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