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一ニ三五村のどろどろ様~火車女教授の現代妖怪譚~  作者: 綺村 亮介


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37/56

37_【祭】十四日目・『福笑い、集めて楽し』1


 ※--------------※



 玄関を出てすぐさま右目に飛び込んできたのは――静かな地獄だった。


 何十人もの村人が、わたしの家の前を通過していく。

 彼らもみんな、同じように顔のパーツを失っていた。

 でもその様子は、わたしよりもずっと悲惨だった。


 茶色の作業服を着たおじいさんが、壁伝いに這いずり回っている。

 おじいさんの顔には、右耳だけがポツンとついていた。

 おじいさんは必死に壁を手探りして、なにかを探している。


 目がないから、目の前に何があるのかが分からない。

 口がないから、助けを呼ぶこともできない。


 ただただ、もがくように必死に手を動かしている。

 その動きは、おぼれている人がワラをも掴もうとしているみたいだった。

 時々、壁に頭を打ち付けている。

 痛みを確かめているのか、それとも絶望しているのか――。


 向かいの畑では、紫の服を着たおばさんが四つん這いになっている。

 おばさんの顔の真ん中には、鼻だけがあった。

 地面に顔を近づけて、クンクンと匂いを嗅ぎ回っている。


 その姿は、もう人間じゃなかった。

 犬だ。臭いだけで獲物を探そうとしている犬になってしまっていた。


 泥だらけの手で土を掘り返している。

 そこに自分のパーツが埋まっているんだろうか。

 野菜を掘るみたいに、自分のパーツを探している。

 泥まみれの顔が、悲しく歪んでいるように見えた。



 しかしそれは、まだマシな方なのだと思い知った。



 何十人もの村人たちは、まだ目も鼻も耳も口も、何一つとしてなかった。

 彼らはぶつかり合って、転んで、また起き上がる。

 世にも恐ろしい『のっぺらぼう』の大行進だ。


 ある人は、手当たり次第に地面の物を拾っては顔に押し当てていた。

 石ころ、木の枝、落ち葉――。

 自分の目や鼻が、すぐ側に落ちているんじゃないかと信じてるみたいに。

 でも、くっつくワケがなかった。


 ある人は、隣の人に必死にしがみついていた。

 助けを求めるように。

 自分の代わりに顔のパーツを探してきて欲しい、とでも言うように。

 でも、すぐに振り解かれて転んでいた。


 わたしは、思わず後ずさる。

 なんて……なんておぞましい光景なんだろう。

 【守り事】が変わっただけなのに、地獄の釜が開いてしまったかのようだ。


 もし顔のパーツが見つからなかったら、わたしもあんな風におかしくなって、片目のまま探し回る亡霊になってしまうんだろうか……?


 そんなの……絶対にイヤだ! 私はまだ二十歳なのに!

 これから楽しいことがいっぱいあるハズなのに……!


 いっぱい遊んで、いっぱい美味しいものを食べるんだ!

 それから、もっと火車さんと一緒にあちこちフィールドワークに行くんだ!

 

 絶対に諦めてたまるもんか……!

 わたしは右目だけの視界で、慎重に歩き出す。


 最初に見つけたのが目で本当に良かった。

 自分が今どこに居るのか分かるし、何より他の顔パーツを『見逃す』心配もないからだ。


 だけど、大きな問題が立ちはだかる。

 他はどうやって探したらいいんだろう……?

 幸いにも右目は、特徴的な目印――わたしのスニーカーがあったから、なんとか分かったけど……。


 その時だった。

 ふと、頭の中に違和感を覚えた。


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