37_【祭】十四日目・『福笑い、集めて楽し』1
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玄関を出てすぐさま右目に飛び込んできたのは――静かな地獄だった。
何十人もの村人が、わたしの家の前を通過していく。
彼らもみんな、同じように顔のパーツを失っていた。
でもその様子は、わたしよりもずっと悲惨だった。
茶色の作業服を着たおじいさんが、壁伝いに這いずり回っている。
おじいさんの顔には、右耳だけがポツンとついていた。
おじいさんは必死に壁を手探りして、なにかを探している。
目がないから、目の前に何があるのかが分からない。
口がないから、助けを呼ぶこともできない。
ただただ、もがくように必死に手を動かしている。
その動きは、おぼれている人がワラをも掴もうとしているみたいだった。
時々、壁に頭を打ち付けている。
痛みを確かめているのか、それとも絶望しているのか――。
向かいの畑では、紫の服を着たおばさんが四つん這いになっている。
おばさんの顔の真ん中には、鼻だけがあった。
地面に顔を近づけて、クンクンと匂いを嗅ぎ回っている。
その姿は、もう人間じゃなかった。
犬だ。臭いだけで獲物を探そうとしている犬になってしまっていた。
泥だらけの手で土を掘り返している。
そこに自分のパーツが埋まっているんだろうか。
野菜を掘るみたいに、自分のパーツを探している。
泥まみれの顔が、悲しく歪んでいるように見えた。
しかしそれは、まだマシな方なのだと思い知った。
何十人もの村人たちは、まだ目も鼻も耳も口も、何一つとしてなかった。
彼らはぶつかり合って、転んで、また起き上がる。
世にも恐ろしい『のっぺらぼう』の大行進だ。
ある人は、手当たり次第に地面の物を拾っては顔に押し当てていた。
石ころ、木の枝、落ち葉――。
自分の目や鼻が、すぐ側に落ちているんじゃないかと信じてるみたいに。
でも、くっつくワケがなかった。
ある人は、隣の人に必死にしがみついていた。
助けを求めるように。
自分の代わりに顔のパーツを探してきて欲しい、とでも言うように。
でも、すぐに振り解かれて転んでいた。
わたしは、思わず後ずさる。
なんて……なんておぞましい光景なんだろう。
【守り事】が変わっただけなのに、地獄の釜が開いてしまったかのようだ。
もし顔のパーツが見つからなかったら、わたしもあんな風におかしくなって、片目のまま探し回る亡霊になってしまうんだろうか……?
そんなの……絶対にイヤだ! 私はまだ二十歳なのに!
これから楽しいことがいっぱいあるハズなのに……!
いっぱい遊んで、いっぱい美味しいものを食べるんだ!
それから、もっと火車さんと一緒にあちこちフィールドワークに行くんだ!
絶対に諦めてたまるもんか……!
わたしは右目だけの視界で、慎重に歩き出す。
最初に見つけたのが目で本当に良かった。
自分が今どこに居るのか分かるし、何より他の顔パーツを『見逃す』心配もないからだ。
だけど、大きな問題が立ちはだかる。
他はどうやって探したらいいんだろう……?
幸いにも右目は、特徴的な目印――わたしのスニーカーがあったから、なんとか分かったけど……。
その時だった。
ふと、頭の中に違和感を覚えた。




