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一ニ三五村のどろどろ様~火車女教授の現代妖怪譚~  作者: 綺村 亮介


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34/50

34_【祭】十四日目・【どろどろ様】の夢

******************

【祭】十四日目

******************


――夢を見た。それはとても奇妙な夢だった。


 私の目の前に、【どろどろ様】が居る。

 でも、どんな顔をしているのか、どんな姿をしているのか、モヤがかかっていてまるで分からない。

 だけど、『分かる』のだ。それが【どろどろ様】だと。


 【どろどろ様】は、わたしの頭に向かって手を伸ばす。

 何をするんだろう? おっかなびっくりに、頭を差し出す。


 すると、【どろどろ様】はわたしの頭を撫でてくれた。

 まるで、よく頑張ったねとほめてくれるかのように。

 

 それから【どろどろ様】は楽しそうに笑い、そして、そして――。



 瞬間、世界がズルリと落ちた――。



 ※-------------※



 わたしは、ビクッとなって起きた。

 ああ……なんだか気分が優れない。きっと変な夢を見たせいだ。


 いや、気分が優れないだけじゃない。

 なんというか……すごく表現し難いけど、『世界がズレている』という感じがする。

 まるで度の合っていないメガネをかけさせられているような、そんな気持ちの悪い違和感。


 頭ははっきりしている。昨日の記憶もある。

 でも身体の感覚はバラバラで、五感の歯車が噛み合っていないみたいだ。

 ベッドに横になっているはずなのに、自分が宙に浮いているのか、それとも泥の中に沈んでいるのかさえ分からない。


 とにかく起きて今日の【守り事】を確認しないと。

 わたしは目を開けて身体を起こす。


 ……え? なに、これ……?

 わたしは今しがた、信じがたい体験をした。

 身体が起き上がった感覚はあるのに、視界は微動だにしなかったのだ。


 おかしい。おかしいと言えば、見えている景色もおかしい。

 いつもなら枕元のシーツとか、天井とか、あるいはわたしの顔を覗き込んでくるスネコスリが見えるはずだ。


 なのに今、私の視界いっぱいに広がっているのは――巨大な壁のような、わたしのスニーカーの側面だった。


 わたし今、ちゃんと起き上がったハズだよね?

 なのにどうして、スニーカーが見えているの?

 まるで、地面から見上げているかのように。


 これは夢の続きなの? それとも――。

 あまりにも現実離れした光景に、頭が理解を拒否している。


 わたしは目を強く閉じ、その場に寝転がる。

 背中には高級羽毛布団のフカフカした感触がある。

 シーツの滑らかな肌触りも感じる。

 手足もちゃんと動く。温かい血が通っているのが分かる。

 これは……夢じゃない。


 わたしは目を開け、改めて立ち上がってみる。

 夢じゃないなら、視界はいつも通りの高さに戻るハズ。


 ……戻らない。どうして? なぜ?

身体は起き上がっていて、布団の上に立っているハズなのに。


 見えている景色は、相変わらずスニーカーの側面のままだった。


 身体の動きと、目で見ている景色がまるで一致しない。

 首が動く感覚はある。頭が回転する感覚もある。……でも、視界は微動だにしない。

 視界が――完全に固定されている。


 心臓が、ドクンと跳ねた。パニックの波が押し寄せてくる。

 わたしはずっと、羽毛布団の上に居ると思い込んでいた。

 だけど、わたしの視界は違うところにある。


 じゃあ、じゃあわたしは今……本当はどこに居るの?


 慎重にしゃがんで、手を伸ばしてみる。

 ツルツルしたシルクの感触が伝わってくる。

 間違いない。『ここ』は羽毛布団の上だ。


 じゃあ、このリアルな映像は何?

 誰かが見ている映像が、わたしに直接送信されているの?

 SF映画みたいに、VRゴーグルでも括りつけられているの?

 まさかと思いつつ、わたしは自分の顔に触れる。



 何も、無かった。



 何度触ろうとも、どこを触ろうとも、指先に伝わってくるのはツルツルしたゆで卵みたいな感触。


 目も、鼻も、口も、耳も――。

 あるハズのモノが、全て消えていた。


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