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一ニ三五村のどろどろ様~火車女教授の現代妖怪譚~  作者: 綺村 亮介


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28_【祭】七日目・初の失敗者2


「ひっ……!?」

 思わず悲鳴をあげてしまった。

 だって、だって……!!



 指が……三本しかないなんて……!!



 なんで? どうして? いったい何が?

 わたしの疑問は、またしてもすぐに分かってしまった。


「それで……次はどの指にする?」

「小指、薬指ときたら……やっぱ次は中指だろうなぁ」

 おじいさんは近くの丸太に手を置きながら、平然とした様子でそう言った。

「え? うそ? え?」


 動揺しているわたしなど気にも留めず、平八郎さんは素早くナタを取り出す。

 そして、まるで竹でも切るかのように、無表情のまま――中指を切断した。


「…………っ!!」

 声が、出なかった。悲鳴すら、上げられなかった。

 なんで……!? どうしてこんな酷いことを……!?


「ん? どうしたんだい、トーノさん? ……ああ、これか。【どろどろ様】は優しいから、【祭】に失敗しても罰はない。――だがそれじゃあ、おりゃあたちの気がすまん。だから村の掟で決めたんだ。せめて――指一本ぐらいは捧げ物にしようと」


「いちち……まあそういうことだ。悪いのは、【祭】に失敗した自分だ。むしろ、自分の所為で【どろどろ様】の機嫌を損ねるほうが恐ろしいよ。この捧げ物で、【どろどろ様】の機嫌が少しでも良くなってくれたら嬉しいんだけどな。ははは」

 おじいさんはカラカラと笑いながら言った。


 どうして……? どうして笑っていられるの……!?

 中指を失ったんだよ……!?


 周りの村人たちもそうだ。動揺しているわたしを、不思議そうに見ている。

 まるで……まるでわたしの方が変だと言わんばかりに。


 マヒしていた。流されていた。

 この村は……この一ニ三五村はやっぱりおかしい!


「指を何本も失ってるってことは……もう何度も失敗してるってことですよね? なのに、また参加してるんですか? この村を去ろうとは思わないんですか……?」

「え? いったい何を言っているんだ? この村を去ったら、【祭】に参加できるチャンスすら無くなるのに? それに、不老がもらえるならたかが指ぐらい――」


 おじいさんは、ハタと気がついたように、

「ああ……トーノさんは若いから、まだ分からないよね。自分にはお金がある。地位も権力もある。山のように成功もしてきた。けどね……このまま歳をとって死ねば、全部が消えるんだ。それ以上に怖いことなんてあるかい?」

 おじいさんの言葉に賛同するように、村人たちは大きく頷いていた。


 もしかして……間違っているのはわたしの方なのかな?

 わたしがまだ若いから、そう感じるだけなのかな?

 この村のルールの方が……正しいのかな?


 ……そう言えば、火車さんが授業で言ってたっけ。


 『村社会のルールがどんなにおかしなモノでも、それを否定することは民俗学の否定に繋がる』――って。

 それがどんなに歪んで捻れていたとしても、村というコミュニティを守るために作られた文化なんだって。


 そう……そうだよね。

 長生きしたいから、わざわざこんな辺ぴな村に住んで、【どろどろ様】を信仰して【祭】に参加してるんだもんね。

 それが……この村の【守り事】なんだよね。


 どうやら間違っていたのは、わたしの方だったみたいだ。

 この村の正しさが、やっと『分かって』きた気がする……。



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