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一ニ三五村のどろどろ様~火車女教授の現代妖怪譚~  作者: 綺村 亮介


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27/47

27_【祭】七日目・初の失敗者1

******************

【祭】七日目

******************


 この村に暮らし始めて、七日目の朝を迎えた。

 正直に言えば、今日はどんな【守り事】が追加されるんだろうと、怖さ半分、楽しさ半分なところはあった。――しかしそれも、四日目ぐらいまでだった。


 今では朝を迎える度に、憂鬱な気分になる。

 今度はどんな厄介事が増えるのか、恐ろしさしかない。


 わたしはふと、これまでの【守り事】を振り返ってみた。


====================

一日目、『家出る時、柏手三回』。

二日目、『歩く時、けんけんぱ』。

三日目、『無機物万歳、石は殿様』。


四日目、『見ざる、触れざる』。

五日目、『賛美賛美、新人賛美』。

六日目、『腹話術、大事で一番の口』。

====================


 なんともまあ、カオスなラインナップだ。

 規則性も何もあったもんじゃないな、と強く感じる。


 一番大変だったのは、二日目かな。

 転びそうになるし、何より肉体的に辛かった。


 一番怖かったのは、文句無しで四日目だ。

 あんな思い、もう二度としたくない……。


 一番楽しかったのは、もちろん五日目だ。

 あんなに笑ったのは本当に久しぶりだった。


 それにしても、【どろどろ様】はいったいどういう基準で【守り事】を決めているんだろう?

 時に簡単だったり、時に難しかったり。

 時に滑稽だったり、時にシュールだったり。


 平八郎さんは、これは【祭】であると同時に試練でもある、って言ってた。

 【守り事】は毎年違っていて、予習も復習も出来ない。

 人知を超えた力――不老を得る為の、困難で辛い試練だって。


 本当に……そうなのかな?

 なんていうか、言葉にはしづらいんだけど、試練というよりは……。


 子どもが好き勝手に決めている、遊びのように感じていた――。



 ※--------------※



 そして昼過ぎ、ついに――初の失敗者が出た。


 今日の【守り事】は、『毎時毎礼、七礼一拍四礼』。

 つまり、一時間に一回七礼一拍四礼をしなさい、ということだ。


 普通であれば『二礼二拍手一礼』だ。

 この数字とテンポが、身体に刻み込んであると言っても過言ではないと思う。


 正直、わたしも何度も失敗しそうになった。

 七礼のところで一回足りなかったり、逆に四礼のところで一回多くやりそうになったり。


 失敗した村人は、一拍手多くやってしまったそうだ。

 分かる。よく分かるよ、その失敗。わたしも何回寸止めしたことか。


 新しい【守り事】の恐ろしいところは、こういうところだ。

 常にルールが更新されるから、常に適応していかなければならない。


 練習も出来ない。法則性もない。

 毎日が失敗の許されない本番だから、ずっと丸裸の自分で挑戦し続けているような気分になる。


 失敗した村人――黒のベストを着たおじいさんは、拝むように手を合わせ、額をこすりつけるように土下座した。

「ああ……! 申し訳ねぇ! 申し訳ねぇ、【どろどろ様】!! せっかく自分を選んでもらえたってのによぉ!!」


 あまりにも必死に謝る姿に、わたしはギョッとなった。

 どうしてあんなに謝るの? それに……凄く怖がっているように見える。


 もしかして……失敗したら何かあるの? そう、例えば――【どろどろ様】からの罰とか?

 ……え、待って。そ、そんなの聞いてない!

 わたし、勝手に【祭】に参加することになっただけなのに……!?


「……そんな顔をすんなって。トーノさんの心配しているような事はねぇよ」

 いつの間にか近くに来ていた平八郎さんが、わたしを励ますように言った。


 ほ、本当に? どうしてわたしの心配事が分かったんだろう?

 そんなに顔に出てたかな……?


 平八郎さんは土下座したままのおじいさんに近づき、背中を優しくポンポンと叩く。

「今回は残念だったな。だが、次もきっと【どろどろ様】が選んでくれるさ」

「ああ……ああ、そうだな。ありがとうよ、平八郎さん」

 平八郎さんに励まされ、おじいさんは笑顔で立ち上がった。


 どうやら本当に罰は無いみたいだ。

 そうだよね。【祭】に失敗して、ショックなだけだったんだよね。


 おじいさんには悪いけど、わたしは心の底から安堵していた。

 もし失敗したらどうなるのか――。

 正直、ずっと心配だった。けど、これでもう安心だ。もし失敗しても、何の問題も――。


「じゃあ、『分かってる』よな?」

「ああ、頼むよ」

 平八郎さんにうながされ、おじいさんは左の革手袋のボタンを外す。


 そういえば……どうして村の人たちはずっと黒の革手袋を付けたままなんだろう?

 思い出してみると、この村に初めてきた時からそうだった。


 今になって、そう疑問に思った。

 疑問に思うことが、他に多すぎたから。


 その答えは――すぐに目の前に現れた。


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