24_【祭】六日目・『腹話術、大事で一番の口』2
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ガックリと肩を落としてトボトボと歩いていると、遠くに見慣れた後ろ姿があった。
いつも通りの、茶色のツナギに黒い帽子――平八郎さんだ。
あの格好は、村の警備役としてのユニフォームなのかもしれない。
「おはようございます、平八郎さん」
わたしは少し離れたところから挨拶する。
すると平八郎さんは、勢いよく足を後ろに下げ、そのままクルリとその場で180度回転した。
キビキビとしたその動きは、まるで兵隊さんのようだ。
「おはようございます! トーノ女史! 今日もいい天気でありますね!」
『捧げ銃』のポーズで決めている平八郎さんが、ハツラツとした様子で喋った。
なんというか、とにかく威勢がよくて声が大きかった。
いかにも体育会系というか、絵に書いたような兵隊さんというべきか……。
ああ、そうだった。平八郎さんは昔、本当の兵隊さんだったんだっけ。
「……平八郎さん? あの、その声は……?」
「はい、自分ですか!? 自分は『三十』! コイツの相棒であります!」
平八郎さんは、持っている小銃をビシッと突き出した。
三十……? そういえば、平八郎さんが持っているのは『三十八年式』じゃなくて、その前の『三十年式歩兵銃』だって言ってたっけ。
つまり平八郎さんは、自分の大事な相棒である『小銃』になりきって喋っているんだ。
「ボ、ボクはトーノの相棒、スネコスリだニャン」
「ハッハッハ! ネコ女史とは実に可愛らしい! 自分とは大違いだ! お互いに古びてしまった相棒と交換してもらいたいものですな!」
平八郎さんはそう言って笑い飛ばす。
お互いに古びた相棒と言うけれど、130歳を超える平八郎さんにとって、その小銃はただの武器じゃないハズだ。
人生のほとんどを一緒に過ごしてきた本当の『戦友』であり、もはや身体の一部みたいなものなんだろうな。
「本日も戦線に異常なし! ではトーノ女史、自分はこれで!」
平八郎さんが小銃を揺らす。まるで本当に敬礼しているように見えた。
この村に来てから、こんなに元気な平八郎さんは初めて見た。
「古びた相棒……か」
わたしは改めて村人たちを見回してみた。
あるおばあさんは、ボロボロになったクマのぬいぐるみを抱いていた。
もう綿が出てきてしまっているような、古びたぬいぐるみ。
「おはようクマ」
と、おばあさんは子ども番組のような声であいさつをしていた。
きっと、子どもの頃からずっと一緒だったんだろう。
あるいは、誰かの形見なのかもしれない。
あるおじいさんは、金ピカの置時計を抱えていた。
いかにも高そうな、宝石がついた時計。
もし喋るなら、『時は金なり』が口グセだろうな。
お金持ち自慢に見えるけれど、その時計のガラスは指紋一つないほどピカピカに磨かれていた。
おじいさんが一生懸命働いて買った、『生きた証』なのかもしれない。
ギョッとしたのは、黒服のおばさんが持っている『一番大事なモノ』だった。
黒いリボンがついた、白黒の写真。
アレってもしかして……遺影? わたしと同じくらいの子が笑っている。
「おはよう、トーノちゃん!」
黒服のおばさんは、若い女の子の声で腹話術をする。
まるで、友達のように。
「ウチの娘、この村が大好きなのよ。ねえ、ミキちゃん?」
「うん! お母さん、今日のご飯なにかな? お腹すいちゃった!」
黒服のおばさんは、自分で質問して、自分で答えている。
自分の声と、娘の声。二つの声を使い分けながら、楽しそうに会話をしている。
わたしは、なんだか見ていられなかった。
黒服のおばさんはどこか遠くを見ていて、そして……底知れない悲しみが漂っている。
黒服のおばさんは、この一ニ三五村で不老を得られたのだろう。
だけど娘は、若くして亡くなってしまった。
もし娘が生きていたのならば、こんな会話をしたのかもしれない。
もし娘が生きていたのならば、共に生きられるよう不老を得たい。
もし、もし叶うのならば、娘を――。
そう、切に願っているような気がしてならなかった。




