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一ニ三五村のどろどろ様~火車女教授の現代妖怪譚~  作者: 綺村 亮介


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24/42

24_【祭】六日目・『腹話術、大事で一番の口』2


 ※------------※



 ガックリと肩を落としてトボトボと歩いていると、遠くに見慣れた後ろ姿があった。

 いつも通りの、茶色のツナギに黒い帽子――平八郎さんだ。

 あの格好は、村の警備役としてのユニフォームなのかもしれない。


「おはようございます、平八郎さん」

 わたしは少し離れたところから挨拶する。


 すると平八郎さんは、勢いよく足を後ろに下げ、そのままクルリとその場で180度回転した。

 キビキビとしたその動きは、まるで兵隊さんのようだ。


「おはようございます! トーノ女史! 今日もいい天気でありますね!」

 『捧げ銃』のポーズで決めている平八郎さんが、ハツラツとした様子で喋った。


 なんというか、とにかく威勢がよくて声が大きかった。

 いかにも体育会系というか、絵に書いたような兵隊さんというべきか……。

 ああ、そうだった。平八郎さんは昔、本当の兵隊さんだったんだっけ。


「……平八郎さん? あの、その声は……?」

「はい、自分ですか!? 自分は『三十さんじゅう』! コイツの相棒であります!」


 平八郎さんは、持っている小銃をビシッと突き出した。

 三十……? そういえば、平八郎さんが持っているのは『三十八年式』じゃなくて、その前の『三十年式歩兵銃』だって言ってたっけ。

 つまり平八郎さんは、自分の大事な相棒である『小銃』になりきって喋っているんだ。


「ボ、ボクはトーノの相棒、スネコスリだニャン」

「ハッハッハ! ネコ女史とは実に可愛らしい! 自分とは大違いだ! お互いに古びてしまった相棒と交換してもらいたいものですな!」

 平八郎さんはそう言って笑い飛ばす。


 お互いに古びた相棒と言うけれど、130歳を超える平八郎さんにとって、その小銃はただの武器じゃないハズだ。

 人生のほとんどを一緒に過ごしてきた本当の『戦友』であり、もはや身体の一部みたいなものなんだろうな。


「本日も戦線に異常なし! ではトーノ女史、自分はこれで!」

 平八郎さんが小銃を揺らす。まるで本当に敬礼しているように見えた。

 この村に来てから、こんなに元気な平八郎さんは初めて見た。


「古びた相棒……か」

 わたしは改めて村人たちを見回してみた。


 あるおばあさんは、ボロボロになったクマのぬいぐるみを抱いていた。

 もう綿が出てきてしまっているような、古びたぬいぐるみ。


「おはようクマ」

 と、おばあさんは子ども番組のような声であいさつをしていた。

 きっと、子どもの頃からずっと一緒だったんだろう。

 あるいは、誰かの形見なのかもしれない。


 あるおじいさんは、金ピカの置時計を抱えていた。

 いかにも高そうな、宝石がついた時計。

 もし喋るなら、『時は金なり』が口グセだろうな。


 お金持ち自慢に見えるけれど、その時計のガラスは指紋一つないほどピカピカに磨かれていた。

 おじいさんが一生懸命働いて買った、『生きた証』なのかもしれない。


 ギョッとしたのは、黒服のおばさんが持っている『一番大事なモノ』だった。

 黒いリボンがついた、白黒の写真。

 アレってもしかして……遺影? わたしと同じくらいの子が笑っている。


「おはよう、トーノちゃん!」

 黒服のおばさんは、若い女の子の声で腹話術をする。

 まるで、友達のように。


「ウチの娘、この村が大好きなのよ。ねえ、ミキちゃん?」

「うん! お母さん、今日のご飯なにかな? お腹すいちゃった!」

 黒服のおばさんは、自分で質問して、自分で答えている。

 自分の声と、娘の声。二つの声を使い分けながら、楽しそうに会話をしている。


 わたしは、なんだか見ていられなかった。

 黒服のおばさんはどこか遠くを見ていて、そして……底知れない悲しみが漂っている。


 黒服のおばさんは、この一ニ三五村で不老を得られたのだろう。

 だけど娘は、若くして亡くなってしまった。


 もし娘が生きていたのならば、こんな会話をしたのかもしれない。

 もし娘が生きていたのならば、共に生きられるよう不老を得たい。

 もし、もし叶うのならば、娘を――。


 そう、切に願っているような気がしてならなかった。


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