23_【祭】六日目・『腹話術、大事で一番の口』1
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【祭】六日目
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昨日の大騒ぎが嘘みたいに、今日はとても静かな朝だった。
『新人賛美』なんていうわけのわからない【守り事】で、一日中お神こし代わりにされた。
『わーっしょい! わーっしょい!』という掛け声が、まだ耳の奥に残っている気がする。
わたしは大きく伸びをして、身体を起こした。
隣を見ると、スネコスリがわたしの膝にスリスリと頭を擦り付けてくる。
「わんにゃー」
「おはよう、スネコスリ。昨日はいっぱい揺れて疲れたね」
わたしはスネコスリの頭を撫でる。
一番の癒やしは、やっぱりこの子だ。
「さてと……今日は何かな?」
わたしは覚悟を決めて神棚を見上げた。
毎日変わる【守り事】。今日はどんな理不尽な命令が下されるんだろう?
――『腹話術、大事で一番の口』
「腹話術って……あの腹話術?」
人形とかを使って、口を動かさずに喋るアレだよね。
『大事で一番の口』……。つまり、一番大事なモノを使って腹話術をしろってことかな?
今までとは違って、分かりやすくてシンプルな【守り事】に逆にビックリしてしまった。
「一番大事なモノ、かぁ……」
着の身着のままで村に滞在することになっただけに、わたしの荷物なんてほとんどない。
持っているのは財布とスマホ程度だ。
どっちも大事だけど、一番かって言われるとしっくりこない。
今のわたしが一番頼りにしていて、一番心の支えになっているもの……。
わたしは視線を下に落とす。
そこには、大きな瞳でわたしを見上げるスネコスリがいた。
「わんにゃ?」
そうだ。今のわたしにとってスネコスリは、一番頼れる相手で、一番大事な存在だ。
「おいで、スネコスリ」
わたしはスネコスリを抱き上げた。
ずっしりとした重み。トクトクという心臓の音。
スネコスリは嫌がることもなく、わたしの腕の中でゴロゴロと喉を鳴らしている。
「ねえ、スネコスリ。今日一日、わたしの口になってくれない?」
「わんにゃー」
スネコスリは、まるで「いいよー」と言っているみたいに鳴いた。……多分だけど。
「よし、ちょっと練習してみよう」
口元を隠すように、スネコスリを頭の前に抱きかかえる。
これなら、わたしの口元は見えないハズ。
あとはスネコスリが喋っているような声を出せばいいんだよね。
「ボクはスネコスリだニャン! よろしくニャン!」
思い切ってなりきってみたものの……わたしは顔が真っ赤になっていくのを感じた。
は、恥ずかしい! 二十歳の女子大生がやることじゃないって!
でも、やるしかない。
これは生き残るための【守り事】なんだ。
今さらネコのマネをするくらい、どうってことはない!
……そう、自分に言い聞かせることにした。
「よし……行くよ、スネコスリ。今日の主役は貴方よ」
わたしは深呼吸をして、スネコスリを抱っこしたまま玄関を出た。
爽やかな風が頬を撫でる。ああ、今日もいい天気だ。
平和な一日になりそうな予感がする。
……この村の『平和』が、普通の意味での平和なら、だけど。
「おはようございます」「ええ、おはようさん」
すぐそこの道端で、村人同士が挨拶をしていた。
片方の村人は、大きな壺を抱えていた。
もう一人は、立派な盆栽を持っていた。
「ずいぶんと立派な盆栽ですね。やはり大事に育てられたのですか?」「ええ、もちろん。そちらこそ良い壺をお持ちで。さぞ名のある銘柄なのでしょうな」
大事なモノの『口』を通して、お互いに褒め合っているようだ。
会話に割って入っても大丈夫かな……?
「お、おはようございますニャー」
わたしはドキドキしながら、スネコスリの右前足をちょこんと動かしてあいさつをしてみた。
すると、壺のおじいさんと盆栽のおじさんがパッとこちらを向いた。
「おや、トーノさん。おはようございます」「おはようさん」
二人とも丁寧にあいさつを返してくれた。
わたしは二重の意味でホッとする。どうやら今日の【守り事】はこれで合っているようだ。
「ところで……どうしてまたネコの鳴き真似などを?」
盆栽のおじいさんは首を傾げながら尋ねてきた。
「え? いやだって、ネコの口を借りるからにはネコの真似を――」
説明している途中で気づいた。
【守り事】には、大事なモノになりきれとは一つも書いていなかったことに。
「ネコに……なりきった方が……いいかなーなんて……」
顔が熱い。今のわたしはきっと、耳まで真っ赤になっているだろう。
「い、いやいや! トーノさんの心持ちは大事ですよ! きっと【どろどろ様】もお喜びになってらっしゃる!」
壺のおじいさんは必死になって慰めてくれた。
「そうそう! それに、実に愛らしくて良いではないですか! ワシらも見習わねば! なあ!?」
盆栽のおじいさんも一生懸命励ましてくれた。
「あ、ありがとうございます……ニャン……」
ああ……なんてことでしょう……。
変なキャラ付けをしてしまったせいで、引くに引けなくなってしまった……。
わたしは今日一日、語尾に『ニャン』をつけるイタイ女子大生として過ごさなければならないのか。……穴があったら入りたい。




