22_【祭】五日目・『賛美賛美、新人賛美』2
「ちょっ!? な、何するんですか!? 降ろしてください! 危ないですって!」
「わーっしょい! わーっしょい!」
村人たちは聞く耳を持たず、わたしを担いだまま外へ飛び出した。
青空の下、大の大人たちが声を張り上げ、わたしをお神こしのように担いで練り歩く。
「わんにゃー」
騒ぎを聞きつけたスネコスリが駆けつけてくれた。
スネコスリ……! なんて頼りになるネコなの……!
そう思ったのもつかの間で、わたしのお腹の上にぴょんと飛び乗り、
「わにゃるるる……」
と、ぐるぐるとノドを鳴らして落ち着いてしまった。
スネコスリ……助けに来たんじゃなかったのね……。
「わ、にゃ。わ、にゃ」
スネコスリは楽しそうに尻尾を振り、まるで自分も主役の一人だと言わんばかりにふんぞり返っている。
なんでこんな状況で楽しんでるのよ……!
上下に揺れる視界の中で、村の景色が流れていく。
道端では、農作業の手を止めた村人たちが嬉しそうに手を振っている。――手に持った大根やネギを、ペンライトみたいに振って。
「よっ! 待ってました!」「期待してるよー!」「頑張ってねー!」
昨日は世界の終わりみたいな顔をして震えていた人たちが、今は全員が満面の笑みで祝福している。
「賛美! 賛美!」「めでたいめでたい新人賛美だ!」
ついには太鼓の音まで聞こえてきた。
ピーヒャララと笛の音まで聞こえる。
い、いくら何でもやりすぎじゃないかな……?
やっぱりこれも【守り事】を守るためなの? それとも――。
この村は――本当に変だ。
正体不明の【どろどろ様】を祀って、不老のためによく分からない【祭】をして、昨日は死ぬほど怖い思いをして、そして今日は――【守り事】とはいえ――こんな馬鹿げたドンチャン騒ぎをしている。
恐怖と歓喜が、振り子みたいに行ったり来たりしている。
まるで感情が追いつけない。何かを悩んでいるヒマもない。
「――あはっ」
ふと、乾いた笑いがもれた。
あまりにも非現実的すぎて。
あまりにもマヌケすぎて。
大の大人たちが――それも、かつては日本の政財界を牛耳っていたような偉い人たちが、汗だくになって、ただの女子大生であるわたしを担いで「わっしょい」と叫んでいる。
その姿がどうしようもなく面白くて。
その姿がどうしようもなく滑稽で。
「あは……あはは! あはははは!!」
わたしは、お腹を抱えて笑い出した。
お腹の上で、スネコスリが「わんにゃ?」と不思議そうに首をかしげる。
その拍子に、スネコスリがズリ落ちそうになる。
「あ、危ない!」
わたしは慌ててスネコスリを抱きとめる。その動きで重心がズレて、神輿が大きく傾いた。
「おっとっと!」「うわ! 崩れるぞ!」「うおおおお!!」
あわや転落――というところで、担ぎ手のおじさんたちが踏ん張った。
更に、近くに居たおばちゃんたちもサッと駆け寄ってわたしを支えてくれた。
「危ない危ない!」「大事なご神体を落とすところだったよ!」「トーノさん、怪我はないかい!?」
みんなの顔がすごく近くにあった。
心配そうに覗き込むその目は、家族を想うように優しい。
スネコスリが、何事もなかったかのように「わんにゃー」と鳴いた。
その気の抜けた声を聞いたら、もうダメだった。
「あははははははは!!」
わたしは、涙が出るほど笑った。
恐怖の反動なのかもしれない。
張り詰めていた糸が切れたように、笑いが止まらなくなった。
怖い。確かに怖い。この村の狂気は底が知れない。
でも――こんなに面白おかしいこともない。
こんな体験、世界中のどこを探したって出来ないだろう。
火車さんだったら何て言うのかな?
『これこそが民俗学の面白さね』――なーんて言うのかな?
「わーっしょい! わーっしょい!」
更に歓声が大きくなっていく。
恐怖で凍りついた心を、熱狂で無理矢理溶かすような荒療治。
ああ……これが『新人賛美』なんだね。
わたしは、スネコスリを抱きしめながら青く澄み渡る空を見上げた。
雲ひとつない快晴。太陽が眩しい。
昨日の絶望が嘘のように、心が軽くなっていた。
まだ、いける。
まだ、頑張れる。
そう思えた、【祭】五日目だった。
「次はあっちだ! 村一番の眺めのいい場所へ行くぞ!」「おーっ!」
わたしという名のお神こしは、歓声と共に村の奥へと進んでいく。
その先に何が待っているのか、わたしは何も知らない。
今はただ、この狂騒に身を委ねようと思った。
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