16_火車の調査録・1
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火車の調査録・【祭】二日目の頃
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――一ニ三五村で【祭】二日目を迎えていた日、火車は自宅でフィールドワークの準備を進めていた。
いくら専門書やネットを開いても、【どろどろ様】に関する情報は得られない。
ならば、地元民に話を――あの村に入れないならその近辺で――調査をするしかない。
火車は、自分が妖怪事に遭うのを覚悟していた。――いや、むしろ望んですらいる。
だが、助手であるトーノだけが巻き込まれるとは思ってもみなかった。
火車はすぐさま政府に助けを――求めなかった。
立場や政治的な理由ではない。逆にトーノを、危険にさらしてしまう可能性が高いからだ。
今トーノは、妖怪のテリトリーに囚われている。――いや、選ばれている。
多くの怪談や昔話がそうであるように、褒美がある妖怪には一定の『ルール』が存在する。
気に入った家に住み、富をもたらす座敷わらし。
その子どもを大事に育てれば願いが叶う、竜宮童子。
【どろどろ様】の場合は、【祭】に参加していることが強く関係しているだろう。
つまり……無理矢理助け出せば、トーノに何が起こるか分からない。
ただそれも、妖怪の正体が分かるまでだ。
実のところ、不老に関する妖怪は、不思議な事にとても少ない。
人魚の肉は誰しもが知っているが、他となると全く出てこない。
あるにはあるが、詳細不明なものが大半だ。
アプローチを変える必要がある。火車はそう強く感じだ。
民俗学はフィールドワークから。だからこそ、準備を進めているのだった。
愛車のバイク――ファイヤーブレード・サイドカーカスタムのキーを取り、出かけようとしたその時――。
電話が鳴った。番号は……非通知。今となっては、誰からなのかが分かる。
「トーノ、そっちは大丈――」
「火車さぁぁぁーーーん!」
電話の向こうでメソメソと泣いているのが手に取るように分かる。
「あのですね、あのですね! 聞いて下さいよぉぉぉーーー!」
音割れする程の大声。よほど溜まっているものがあるのだろう。
たった二日でこんなになるなんて……。火車は申し訳なさと不安でいっぱいになった。
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「――なるほど、それは大変ね……」
新たに更新された【守り事】――『歩く時、けんけんぱ』がいかに大変かを話された。
食事を運ぶ時もけんけんぱだから、汁ものが盛大にこぼれる。
何をするにもけんけんぱだから、とにかく疲れる。
特に急な坂道でのけんけんぱは、死ぬかと思ったそうだ。
もちろん村の様子や秘密の一端なども話してくれたが、一番言いたかったのは――ようはグチなのだろう――これだったそうだ。
「聞いた限りだと、毎日【守り事】が更新されていくのね。……うん、良かったじゃない」
「な、なにがですか?」
「もし毎日一個ずつ、新しいの追加だったらもっと大変だったわよ」
「いやぁー! そんなの考えたくもないです!!」
「ねえトーノ。【祭】について、他にも何か聞いていないかしら?」
「他にもですか? ……そう言えばこの【祭】は、正式には【ミソカサイ】って呼ぶらしいです」
「ミソカ? 漢字はどう書くの?」
「確か……数字の三と十。あとは普通に祭りですね」
「そう、【三十祭】……ね。安心しなさい、トーノ。どうやら【守り事】は少なくて済みそうよ」
「へ? どういうことですか?」
「祭りの名前は、祭りの内容をそのまま表現する事が通例よ。三十は、おそらく【祭】の期間――つまり、三十日間の祭り、ということね」
「なるほど! さすが火車さんです!」
「ようやく全容が見えてきたわね。毎日新しく更新される【守り事】を守りながら三十日間過ごす。それが一ニ三五村で行われている【祭】よ」
何もかも正体不明のモノが、少しずつ明かされていく。
これはきっと、【どろどろ様】の正体に繋がる大きな一歩となるだろう。
「大学やご家族には、長期のフィールドワークで滞在している、と説明してあるわ。頑張りなさい、トーノ。妖怪の正体が分かり次第、私も駆けつけるから」
「はい! 頑張りま――!」
プツリと、途中で切れてしまった。恐らくテレカの残数がなくなってしまったのだろう。
トーノの元気そうな声を聞いて、火車はとりあえず一安心する。
だが火車には、危惧していることがあった。不安にさせないよう、あえて口に出さなかったが――。
濡れ女子は、笑い返した者に一生つきまとう。
見越し入道は、正体を見抜けなければ死んでしまう。
送り狼は、夜道で転んだ者を食い殺す――。
妖怪のルールに失敗した場合、悲惨な結末を迎えることが多い。
だが逆に言えば、圧倒的で不可思議な力を持っているのに、ルールさえ破らなければ危害を加えることはないと断言できる。
妖怪を知るということは、力のルールを知るということ。
力のルールを知るということは、対妖怪への唯一にして最高の防衛手段だ。
「急がないとね」
火車は最低限の身支度を済ませ、急いで部屋を出た。
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