13_【祭】一日目・一ニ三五村からの電話
集会場の近くに、それはあった。
「……え? これが……電話なんですか?」
四角い緑の物体に、数字が並んでいる。見た目はまるで、マインクラフトだ。
右上の方に、自販機のようなコイン投入口がある。
「10円? 10円が必要なの?」
ものは試しと、10円を入れてみる。
――チャリーン。
「あ、あれ? どうして入らないの?」
なぜか知らないけど、10円が戻ってきてしまった。
「ふふ、受話器を上げてからコインを入れるんだよ。まあ、コイツは『最新の公衆電話』だからな。使い方が分からんのも無理はねえ。おりゃあも赤電話に慣れてたから、苦戦したもんさ」
さ、最新の公衆電話? それに、赤電話って何……?
平八郎さんの指示通り、受話器を上げてからコインを入れる。そしてスマホを見ながら、火車さんの番号を入力する。……これで合ってるの?
ピポパポ、という音の後に、プルルルという聞き慣れた音が鳴り響く。
今も昔も、この辺は変わらないってことかな。
「……もしもし? どちら様かしら?」
やった! 本当に繋がった!
まだ一日しか経ってないのに、火車さんの声を聞くのがずいぶんと久しぶりな気がする。
「もしもし! わたしは――!」
ブツ、という音の後に、プープーという音が鳴り響く。
「……あれ? もしもし? もしもーし?」
電話が切れてる? え? なんで? どうして?
「あっはっはっ! トーノさん、続けて10円を入れないとダメだって」
続けて10円を入れる? い、意味が分からない……。
「あっ、もう10円がない……」
「ありゃま。……仕方がない。おりゃあのコイツを貸してあげるかね」
そう言って平八郎さんが手渡してくれたのは――。
「……カード?」
それは、ペラペラのクレジットカードのようなモノだった。裏は灰色で、表にはなぜか水着の女性が印刷されている。
まさか、クレジットカードを使って電話するの?
「なんだ、テレカも知らないのかい? ふふ、どうやらトーノさんはハイテクに弱いんだな」
平八郎さんは楽しげにそう言った。……そもそも、『ハイテク』ってどういう意味だろう?
楽しそうにしているだけに、聞き返すのもなんだか悪いな……。
わたしは黙ってテレカとやらを公衆電話に入れ、番号を入力する。
「もしもし? まさかとは思うけど……トーノなの?」
「そ、そうです! トーノです!」
さすが火車さん! すぐにわたしだって気づいてくれた!
「驚いたわね……。どうやって連絡を取ろうかと悩んでいたけど、まさか直接電話をしてくるなんて……」
「ええ、正直わたしも驚いてます」
「体調は大丈夫? 変なことはされてない? 怪しげな薬を飲まされたり、謎の儀式が始まってたりは?」
「後半の質問、おかしくないですか……? まあ……幸いなことに、いろいろ良くしてもらってまして」
「そう、それは何よりだわ」
電話の向こうから安堵のため息が聞こえた。
心配してくれてたんだ。そう思うと、なんだか嬉しくなった。
「それにしても、妖怪が居るかもしれない村に住めるなんて、うらやましい限りね」
「火車さんはそうでしょうけど、わたしとしては嬉しくないですよ……」
普通のわたしにとって、異常なこの村に住むのは苦痛でしかない。……まあ、ごはんはとっても美味しかったけど。
「ところで……【どろどろ様】が何の妖怪か分かったんですか?」
「残念だけど、分からないままよ。地元の文献を漁ってみたけどサッパリね」
まだ一日しか経っていないんだ。無理もない。
「そうね……トーノはダイダラボッチを知ってるかしら?」
「ダイダラボッチ……? ああ! ジブリで見ました!」
なんだかよく分からないけど、とっても大きくて、とっても怖い妖怪だった気がする。
「ダイダラボッチには沢山の名前があるわ。ダイダラボウ、オオヒトヤゴロウ、ダイトウボウシ、レイラボッチ、ダダ星――」
ああ……始まってしまった。わたしは思わずため息をはいた。
火車さんは必要なこと以外あまり喋らないけど、妖怪話になると日が暮れるぐらいおしゃべりになるんだよねえ……。
ふいに、平八郎さんがわたしの肩をトントンと叩き、公衆電話の左上を指差した。
……ん? これって何の数字だろう? なんだかドンドン減ってってる気が――。
もしかして……残り時間?
「か、火車さん! その辺で! テレカの残り時間? とやらが無くなりそうなんです!」
「テレカを使ってるの? じゃあ公衆電話からだったのね。それなら仕方がないわ」
火車さん、テレカを知ってるんだ。四歳しか違わないのに、なんで知ってるんだろう?
「つまり私が言いたいのは、地域によって呼び名が変わるということよ。おそらく、【どろどろ様】もその類でしょうね」
なるほど、通称と公称みたいなものかな?
「とにかく、【どろどろ様】の正体を探ってみるわ。トーノの方でも情報を集めてもらえると助かるわ」
「分かりました!」
「頑張ってね、トーノ。それから……」
火車さんはシュンとした声で、
「厄介事に巻き込んでしまってごめんなさいね……」
そう言って、電話は切れた。
火車さん……わたし、初めて本マグロの大トロを食べたんです。伊勢海老も、越前ガニも初めてでした。ごはんは三杯もおかわりしました。あんなに美味しい朝ごはんは初めてでした……。
この村に来られてラッキー! だなんて思ってました。それなのに謝ってくれただなんて、なんだかごめんなさい……。
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