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一ニ三五村のどろどろ様~火車女教授の現代妖怪譚~  作者: 綺村 亮介


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12/16

12_【祭】一日目・一ニ三五村の住人

 一ニ三五村のことがなんとなく分かってきた。

一度火車さんに報告を――って、しまった! ここ、ずっと圏外だったんだ!

 これはマズイかも……。いったいどうやって連絡をとったらいいんだろう……?


「……トーノさん? どうかしたんですかい?」

 村のことを嬉々として話していた平八郎さんが、心配そうな顔で覗き込んでくる。


 火車さんには『秘密を漏らしたら処刑する』、って念を押すぐらいだ。

 電話したいって言ったら、銃を突きつけられるぐらい怒られるかも……。

 それでも……ええい、ままよ!


「あのー……つかぬことをお聞きしますが、この村に電話はありませんでしょうか? わたしのスマホは、ずっと圏外になってて……」

「……あの赤髪の娘っ子に電話するつもりかい?」

 平八郎さんはジロリをわたしを睨む。


「ひえええぇぇぇ!? ご、ごめんなさい! や、やっぱり――!!」

「……この村には強力な電波妨害機器――つまり、ジャミングが設置されてあるから、外との手段は村唯一の公衆電話だけでな。案内してやるから、来なさい」

 え? ええ? そ、それってつまり――。


「い、いいんですか……? わたし、余計なことを伝えちゃうかもしれませんよ……?」

 てっきり怒鳴られるかと思ったが、意外や意外、OKをもらってしまった。


「無論、そいつは困る。だが……あの赤髪の娘っ子と話したいんだろう? 理由はどうであれ、だ。あの懐き具合を見てたら分かるんだよ」

 そう……平八郎さんの言う通り、どちらかと言えば火車さんの声を聞きたい、という感情的な理由の方が大きかった。

 だって……やっぱり寂しいから。


「後生だから、村のことはあんまり喋らんでくれよ?」

 平八郎さんは困ったように笑う。まるで……娘をあやす父親のようだ。


「……ずっと疑問に思っていたんですが、どうしてそんなに親切なんですか? 昨日はあれだけ敵対していたのに、平八郎さんだけじゃなく、村人全員が急に優しくなるなんて……」

 ずっとつきまとっていた違和感を一つを、やっと口に出来た。


 わたしたちは、一ニ三五村の秘密を調査しに来た敵だ。

そして村人たちは、秘密を知ろうとする者は殺しても構わないという考えだ。にも関わらず、急にわたしだけを迎え入れてくれた。

 【どろどろ様】に選ばれたとはいえ、この厚遇や態度は、招待客と言うより――。


「そりゃ決まってる。おりゃあたちは【どろどろ様】に選ばれ、【祭】を催す同胞だからだ。まあ……その……なんだ。家族に優しくするのは、普通のことだろう?」

 普通。この村に最も合っていない単語が出てきた気がする。


 超大金持ちだろうと、人殺しすら許される権力を持っていようと、ノーベル賞に選ばれるような偉人だろうと――。

 【どろどろ様】に選ばれた人は、同じ地位となり、家族となる。

 こんな、どこまでも普通なわたしでも――。



 ああ……やっと分かった。この村にとって、【どろどろ様】が全ての基準なんだ。



 【どろどろ様】に選ばれたか、そうじゃないか。

きっと……基準はその二つしかないんだ。

だからわたしは家族と認定されて、火車さんは敵と認定されたんだ。


 つまり、この村では……神様も同然なんだ。

 きっとみんな、不老が欲しいから。


 でも、わたしは思ってしまう。

 そんなに長生きすることが、本当に良いことなのかって――。


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