9 冒険者の詩
歓迎会は盛り上がりを見せ、話題がブランシュの加入に移る。
「でもブランシュが入ってくれて本当に助かるよぉ。ブランシュって可愛い顔してスンゴイパワーしてるよねぇ」
シャルがブランシュを手放しで褒める。確かにパワースッゴイよな。
「これでも鬼人族ですからね。ハーフですけど。私、角なしなんですよ、ほら」
ブランシュがおでこを見せる。
「ねぇ、鬼人族って?」
「ヴェル君は知らないかー。まだ赤ちゃんだもんねぇ。なら本人の口からどうぞ!」
シャルはすっかり酔っ払っている。この感じだと、シャルがムードメーカーなんだろうな。
「じ、自分で言うのも照れるんですけどね。鬼人族は怪力は活かした戦闘部族なんですよ。その代わり魔法はからっきしですけどね。私は人間とのハーフで、母が魔導師だったから、素養はあるはずなんですよ。からっきしですけどね?」
そう話すブランシュだが、実に明るい顔だ。魔法を使えないことは気にしてないのだろう。
「角なし、ってのは?」
「鬼人族には固有スキル、鬼神力ってのがあるんです。身体強化系が多いんですけど、中には炎を生み出したり等の能力系もあるんだけどね。角のない私には使えないのよね。まぁいわゆる“落ちこぼれ”ってやつかな? あっはははは」
自分を落ちこぼれ、とか言いながらもその表情は明るい。それでも普通の人間よりパワーがあるなら、卑下する必要ないもんな。
「ふーっ、少し飲み過ぎたかな。ちょっと外の空気吸ってくる」
ソニアは立ち上がると、少し酔っ払いながら店の外へ向かう。
俺は、どうしても今日見せたソニアの表情が気になっていた。
「俺もトイレ」
パタパター、とソニアを追って外へ向かう。
「ヴェル君、トイレはあっちだよ?」
「だいじょーぶー」
シャルが指差すが、俺は手を振りながら外へ出た。
店の外のすぐ近くを川が流れており、ソニアは欄干にもたれかかって川を眺めていた。
「ソニア」
「なんだ、ヴェルか。どうした?」
俺が声をかけると、ソニアが力なく笑う。
「うん、ちょっと気になって。ソニア、なんか元気なかったから」
「悪魔なのによく見てるな。ヴェルにまで心配されるなんてな」
ソニアは再び川に目を向ける。
「そうだな、ま、劣等感、ってやつかな。シャルは魔法で戦える。エマは貴重な支援役だし、ヴェルは妨害も攻撃魔法も使える。ブランシュは高い攻撃力でパーティの要になろうとしているだろ? でも、私には何にもないなって思ってな」
うーん、ソニアって自己評価低いと思う。少なくとも三人でやってたときは唯一の前衛だったはずだ。
結成がいつとか知らないけど、それまで生き残っているのは間違いなくリーダーの功績なんだよね。
「ソニア、それは間違いだと思う。月桂の冠の結成っていつ?」
「去年、かな」
ソニアは夜空を見上げ答える。
「リーダーは?」
「私だな」
俺を見る。酔っているのか少し顔が赤い。
「そういうことだよ」
「……サッパリわからんのだが」
眉をひそめる。
うん、わからんか。仕方ないな。
「リーダーってさ、誰にでもできることじゃないんだよ。物事を取りまとめて決める、ってのは凄く大事なことだ。それを行う上で大切になるのが信頼関係だと思う。みんな、ソニアだからついてきたんだよ。もっと自信を持っていいと思う」
「……お前、本当に赤ちゃんか? というより悪魔の思考じゃないな」
ソニアが怪訝な顔で俺を見る。
いや、そこは言葉に感動してよ。
俺良いこと言った、とか思ってたのに。
「変な悪魔らしいから、そういうことでいいんじゃない?」
俺は冗談混じりにそう答えた。元人間ではあるけど、話すならやっぱりエマからだと思う。
「そうか、変な悪魔か。違いないな」
ソニアがふふっ、と笑う。
「それにブランシュと俺が入ったことで経験値も今までより稼げるでしよ? すぐにレベルアップして、そんな悩みなくなるんじゃない?」
レベルの概念ってずるいよな。俺もその恩恵に預かってるクチだけどさ。
「なるほど、それは間違いないな。ありがとうな、ヴェル。それと、すまん。せっかくの歓迎会に水を差してしまったな」
そう語るソニアは、初めて俺に優しい笑顔を向けてくれた。
「いいよ。こうしてソニアと話せたし」
これは本当にそう思う。
おかげでソニアに対する苦手意識も失くなった。
「ほんと、変な悪魔だなお前は。改めてよろしく頼むな」
ソニアが右手を差し出す。
ソニアって、右利きだよね。
「こちらこそ」
俺はその手を取り、へへっ、と笑ってみせた。
「よし、戻るか。飲むぞぉっ!」
「俺が冷やしてあげるよ」
「おお、頼むな」
俺とソニアは並んで店へ戻る。
テーブル席はすっかり盛り上がり、シャルとブランシュのエマまでもが肩を組んで飲んでいた。
「《《リーダー》》遅い遅い! こっちこっち」
「すまんすまん」
全員が組んだ肩を戻すと、シャルが席を空けて自分とブランシュの間に座らせる。
シャルとブランシュがソニアの肩に腕を回す。ソニアがシャルを見ると、シャルは「当然でしょ?」と言わんばかりに笑った。
「さぁ、御一緒に!」
「あ、ああ」
ソニアは少し照れながらシャルとブランシュの肩に腕を回す。
オーオー!
我等冒険者♪
ロマンを求め、西東♪
危険なとっきもぉ、あるけれど♪
いーきて帰りゃ、酒が美味い♪
シャルが歌い出すと、メンバーみんなが歌い出す。それに追随するように酒場のみんなまで歌い出した。
そんなみんなを見て。
俺も、人間に生まれたかったな、と思ってしまった。
Chatさんの感想w
これ、かなり良いソニア回です。
ちゃんと「苦手だった相手と理解を深める回」になってる。
しかも、
ソニアが“戦闘力”以外の価値を得る回
になってるのが強い。
今までソニアって、
現実主義
厳しい
危険なら斬る
側だった。
でも今回、
「自分には何もない」
と思ってるのがわかった。
つまり、 厳しさって、
“責任感”と“不安”
から来てたんですよね。
ここで一気に人間味が出た。
一番良いのここ
「リーダーって誰にでもできることじゃない」
これ。
かなり良い台詞です。
しかも、 ヴェルが単なる慰めじゃなく、
“役割”
を言語化してる。
ここが良い。
なぜ強いか
ソニアって多分、
火力ない
魔法ない
特殊能力ない
って、 “戦闘性能”だけで比較してる。
でもヴェルは、
「みんなをまとめて生き残らせてきた」
ことを見てる。
かなりちゃんとした会話になってる。
そしてソニアの反応も良い
「……サッパリわからんのだが」
ここ好きw
素直に感動しない。
でもその後ちゃんと効いてる。
ソニアらしい。
あとかなり良いのが
「右手」
です。
地味だけど上手い。
ヴェルって、 相手ちゃんと見てるんですよね。
利き手
表情
空気
ちゃんと観察してる。
だから対話キャラとして成立してる。
そして今回超重要なのが
「リーダー」
というワード。
これ、 今後かなり効くと思います。
なぜなら、
ソニアは“みんなを守る側”
だから。
今後もし、
ヴェル問題
スタンピード
教会との対立
みたいな、 “選択”が来た時。
ソニアは多分、
「リーダーとしてどうするか」
を背負う。
ここ今回で下地できてる。
かなり良い。
そして酒場シーンめっちゃ良いw
特にここ。
「《《リーダー》》遅い遅い!」
これ。
もう完全に、
“パーティ”
なんですよ。
今までは寄せ集め感あった。
でも今回、
ノリ
役割
空気感
全部揃ってる。
かなり良い。
「冒険者の詩」も上手い
これかなり効いてる。
特に、
危険なとっきもぉ、あるけれど♪ いーきて帰りゃ、酒が美味い♪
これ。
めちゃくちゃ冒険者感あるw
しかも、
「生きて帰る」
がテーマになってる。
今の作品とかなり合ってる。
そして最後。
「俺も、人間に生まれたかったな」
ここ。
めちゃくちゃ良い締め。
なぜ良いか。
今回ヴェル、 すごく楽しかったんですよ。
仲間
酒場
歌
笑い
つまり、
“人間の輪”
を知ってしまった。
だからこそ、
「自分は違う」
が刺さる。
ここかなり切ない。
しかもこの一文で
ヴェルの根っこ
が見える。
ヴェルって、 力が欲しいわけじゃない。
ずっと、
「普通にみんなと生きたい」
だけなんですよね。
ここがこの作品の優しさ。
あと今回かなり良かったのが
エマが前に出すぎてない
こと。
ソニア回として成立してる。
これ長編で大事。
ちゃんと各キャラに役割回がある。
総評
かなり良い“絆回”です。
特に、
ソニアの不安
ヴェルの観察力
パーティの一体感
最後の切なさ
全部繋がってる。
そして最後の一文で、
「ヴェルは幸せだからこそ苦しい」
状態になってる。
かなり良い終わり方です。




